目まぐるしいといえば、こちらの彼らもだ。
白い光によって飛ばされた先は、なんとエルゴの待つ空間。
おまけに、問答無用で提供された試練を潜り抜けたら、なんと彼らに誓約者になれという。
おそらくバノッサなのだろうが、彼が無秩序に行使した召喚によって、かつて外敵の侵入を阻むためにこの世界に張られた結界の異常な綻びを張りなおせと。
そのために、誓約者の名を受け継げと。
そのために、各々のエルゴに認められよと。
なんつー一方的な云い分だ。
そう思ったことも否めないが、結界が破れたらリィンバウムが戦火に包まれると判った以上――
断る気持ちは起きなかった。
だってそんなことになったら、この街だって巻き込まれる。
フラットの彼らだって、戦いのさなかに投げ出される。
愛着のあるこの場所を、今では家族とも思える彼らを、そんなことにはさせたくないと。
聖人でも勇者でも、自分たちはないけれど。そう思うそれだけは、本当だ。
……それにしても、誓約者?
召喚師であるギブソンやミモザの説明によれば、歴史上にただひとりしか現れなかった伝説の存在。
召喚獣と心通わせ、エルゴと意志を通じ、リィンバウムを守る結界を張った、ひとりの王。
たしかに自分たちは、彼ら云うところの『儀式』も要さず、ただ願うだけで召喚獣の力を借りることが出来る。
誓約という形でありながら、自分たちの行う術は、ソルたちやギブソンたちのそれとは違うのだと、指摘されて遅まきに気づいた。
でも、それは。
自分たちが召喚された存在だから、四界の子たちが親近感を感じてくれてるのかな、って、そんな気持ちでしかなかったんだ。
――いっそ夢であったなら、どんなに気が楽だろう?
でも。
眠れず夜の散歩に出かけた彼らのなかには、淡い光が宿っていた。
うまく説明できないけど、わかる。
試練と云われて放り込まれた空間で、自分たちの姿をした何者かを倒したときから。
何かが、満ちている。
何かが、自分の裡にある。
それはいつも助けてくれる光にも似て、だけど少し違う色。
――白い、白い。純白の光。たぶん、すべての土台だろう色。
戸惑う。
この違和感。
迷う。
この存在。
果たして受け入れられるものなのだろうか。
だけど、これが必要だ。
「……冗談じゃないな……本当に」
道の先、家々の先。
夜の闇の向こう、そびえ立つ城を眺めてトウヤはつぶやいた。
彼の視線を追って、アヤたちもそちらを向く。
サイジェントの城。
自分たちがエルゴと向かい合っている間に、結局、バノッサに乗っ取られてしまったという。
だけど、あのまま戦っていても、それを防げたかというと、どうにも首を傾げるしかない。
それを考えるなら、この、希望ともいえそうな力を手に入れられるようにしてくれた、あの白い光には感謝すべきなのだろう。
なのだろう――けど。
「、無事かなあ……」
騎士団の様子を確かめるため、イリアスとサイサリスは、こちら側に戻るなり城に向かった。
避難していた領主やマーン三兄弟、それに騎士たちの無事を確認し、自分たちが姿を消したあとのことを問うて、返ってきた答えはまず、城の乗っ取り。
それは予想していた。
でも、その次の報告をイリアスから伝え聞き、フラットの一同は絶句したのだ。
とまーちゃん、バノッサにとっ捕まった。
簡潔に云うならこんなトコロか。緊迫感が微妙に薄いが。
城門前から姿を消した自分達と入れ替わるように、赤い髪の少女と三つ目の異形がいたんだそうだ。
手当たり次第に悪魔を喚んで手当たり次第に破壊していたバノッサの行動を、とりあえず、一旦は止めてくれたらしい。
が、それ以上の大きな力に――強力な召喚術を扱う得体の知れない男の手によって、ふたりは、制圧された城内にとらえられてしまったのだそうで。
そして今。
街を、城を、包み込む静寂は、息苦しいほどの重みを持ってハヤトたちにのしかかっていた。
「……平凡な高校生は、どこに行くべきかな」
そんな、今となっては叶いそうにもないことを、トウヤがぽつりと口にする。
歌というほどではないけれど、高低のついた彼の声に、他の3人はやっと、視線を城から目の前の友人たちに戻した。
友人――?
いや、仲間。そう例えるほうが、しっくりくる。
ただ笑いあって、慰めあっていればいいだけの、もう、そんな関係とおりこした。
苦しい部分も痛い部分も――そう、目の前の彼らだけでなく、フラットの皆と、ソルたちと、たちと。
……大切な仲間だ。
そして自分たちは、とまーちゃんを助けたい。
それから、バノッサと一度腹を割って話し合いたい。……甘いと云われるかもしれなくても、どうしても、バノッサを悪と断定できない。……彼の行為はたしかに、悪行とされるものだったとしても。
もしかしたらその根拠は、カノンから聞いた彼の話とか、と戦ってたときの彼の表情、なんて、すんごく曖昧なものなのかもしれないんだけど。
でも、さ。
感じるものって、大事だよね?
そうして。感じたそれを土台に動くなら、
「……今のままじゃ、たしかに、どうしようもないもんな」
こぶしを握りしめて、ハヤトが云った。
手も足も出なかった――そこまで劣勢ではなかったけど、突破口をつくることが出来なかった城門での戦い。
あのときは、そう、どうにも出来なかった。
でも今は、どうにかできる可能性を見つけた。
「――誓約者」
誰かがつぶやいたそれは、夜気に混じって溶け消える。
――この世界と、他の四界と。 さあ、誓約のとき。