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-その手に集う焔-




 幻影の敵たちの攻撃は、一瞬も止むことがない。
 こちらは、もう何十体となく打ち交わしてきて、疲労も積み重なってきてるのに。
 飛んでくる矢、振り下ろされる剣、襲いかかってくる獣。
 あまつさえ、その合間を縫って迫り来る召喚術――!
「――っ!」
 見えた軌跡を手がかりに、はまず矢を叩き落す。
 後ろから迫る剣戟は、振り向きざまに自身の剣の腹で流した。
 獣は蹴り飛ばし、召喚術は大きく跳んで間合いから逃げる。
 相手がこちらを見失った隙を狙って、一撃ずつ叩き込んだ。――幻影だけあって、それで敵は霧散する。
 けど。
 ヒュンッ、
 斜め後ろから、こちらを狙って飛んでくる矢。
 先ほどまで何もいなかったはずの場所に、新手が出現していた。
「きりがないーっ!」
 そして次々に、周囲に現れる気配。
 いつの間にか剣にまといついてた焔が、剣を揮うたびに軌跡を残す。
 正確にそれをなぞって、獣が迫る。
「もーッ!」
 倒したと思えば、その後ろから剣兵。
「どこまで出てくりゃ気がすむかなぁ!?」
 それも斬り伏せた矢先、剣を振り切った方向から、斧持ちが出る。
「しつこいー!」
 横に伸ばしていた腕を、そのまま上に振りぬいた。
 だけどまた、零れた白い光の先に、新手が数体。
 レイズさん、本気であたしを殺そうとしてるんじゃないだろうな……!?
 考えろと彼は云ったが、いったい何を考えろというのか。
 仕掛けたとも聞いた気がするが、この無秩序な攻撃と無数の幻影から、何を読み取れというのか。
「ああもうっ!」
 ブン、と。
 悔し紛れに、大きく剣を横に凪いだ。
 切っ先の止まった向こうに、また影が出る。
 うんざりだ。
 考えるヒマがないならつくれ、そう云われた。
「もう……もうッ!!」
 ならつくる。
 つくってやるっ!
「いい加減に……ッ」、
 あいつらをいっぺん吹き飛ばしてから、ヒマつくるっ!!
「しろおおぉぉぉッ!!」
 意識する。
 焔の訪れを。
 呼びかける。
 ここへ来いと。
 場所が場所なせいだろうか。
 訪れはすぐに感知できたし、呼びかけに応える意思も判った。
 やってきたそれらが、身体を満たすのも感じた。
 いつか感じたおぼろげなそれらが、このときは、はっきりと実感できた。
 通り抜ける力。留まる力。
 カタチとなる力。広がる力。
 ――周囲のやわらかな光をかき消して顕現する、を通した世界の力。
 その怒涛の流れに。大きさに。
 恐怖や畏怖と名付けられた感情が、呼び起こされようとした刹那。
「こらー! おれらまで巻き込む気かー!?」
「っ!?」
 穴の上から絶叫。
 見上げた先は――白い焔が渦巻いていて、何も見えない。
 でも、その声がいつにないほど切羽詰って危機感を抱いているのは、聞き取れた。
「――……!」
 抑えろ。
 おさまれ。
 鎮まれ。
 次々と道を抜けようとする、白い焔。
 それに意志を叩きつける。
 奔流は感じている。そこに、堰をつくればいい。
 鎮まれ。
 止まれ。
 それ以上出るな……!
 強く、強く思って。念じて。
 ――――
 ふっつり。
 奔流が途切れた。
 堰が、見えない道に出来たのが判った。
 ただ、一度現出したそれは、止まらない。
 穴底の空間――がいる場所を中心として、あたり一帯を埋め尽くすように、白い焔はただ猛る。
「……っ」
 次にすべきことは、判ってた。
 荒げていた息を整えて、手を伸ばす。
 まだ何も思っていないのに、白い焔は、そここそが在るべき場所だと云いたげに、集う素振りを見せる。
 けど、それだけ。
 まだ焔は、自らが出てきた場所に反応してるだけ。
「……、おい、で」
 緊張のために鼓動を速めた心臓に手を当てて、囁いてみる。
 ――焔が集う。
 声に応えて。
「……おいで?」
 ――焔が集う。
 声に応えて。
「おいで」
 ――焔が――集った。


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