閑話休題。
やっと話は現在に戻り、たちはずんどこずんどこスピネル高原に向けて超高速で移動していた。
超高速といっても、別に乗り物があるわけじゃない。
出来るだけの早足で、やってくるはぐれは力任せにご遠慮願いつつ、ひたすたひたすら前進する。
「っつか、そのシオンさんってどういう人なんだよー」
「そうだよ。薬の原材料が近所にあること、ド忘れしてたなんてっ」
もうちょっと早く思い出してくれてたら、こっちだってもう少し早く、気が楽になったかもしれないのに。
ぶつぶつ云ってるハヤトとナツミのことばに、は、遠い目になってあさってを見やる。
ちなみに、シオンがシノビでアカネがその弟子で、という事情はフラットの皆さんには内緒。
この役どころも、結構気に入ってるんですよね。
そう云って微笑んだシオンの表情がまんざらでもなさそうだったし、彼の目はやっぱり笑っていなかったし。
道案内としてつけてもらったアカネを引っ張り、フラットに駆け込み、そうして子供たちの傍についててもらう数人を残して、彼らは荒野をひたすら進む。
赤茶けた大地に緑が混ざりはじめ、やがて、目がすっかり周囲の緑に慣れたころ。
「あ、ほら、あそこだよ」
ぱっ、と、先頭を歩いていたアカネが振り返り、高原の一角を指差した。
指差して……
「ん?」
背後で固まっているフラットメンバーを見て怪訝な顔になり、再び、前方に目を戻す。
そうして、彼女も絶句した。
「……騎士団……」
誰かが、ぽつりとつぶやいた。
少しばかり苦いものの混じったそのことばは、おそらく、レイドから発されたもの。
アカネの指がまだ示したままの高原の一角には、鎧兜に身を包んだご一行が、なにやら植物採取をしてる召喚師さんたちの護衛をするように、陣を組んで展開していたのである。
……力と力の解決になること、必至ですか?
そう思ったとき、騎士団のひとり――サイサリスが、こちらに気づいて歩いてきた。
「あなたたち。ここから先は立ち入り禁止ですよ」
やっぱりか。
そう思うのと同時、ずい、とハヤトが前に出る。
「なんでだよ?」
「この先の草原にある花が、伝染病の特効薬だとわかったのでな。領主様の命令で採取をしているんだ」
ちらり、とレイドを見て、イリアスが答えた。
ちょっぴりむくれた表情をつくって、アカネもずずいと前に出る。
「だからって、まるまる独り占めにしちゃうってのはないんじゃないの?」
「わたしたちも、その薬草が必要なんです」
「――なんと云われようと、例外を認めるわけにはいきません」
つづくアヤのことばにも、サイサリスの返答はつれない。
「集めた薬草は、薬にして平等に配布される。それまで待ってくれないか」
なだめるようなイリアスのことばも、あいにく、効果は薄い。
だが、さらにくってかかろうとした一行を遮るように、レイドがイリアスと向き合った。
「イリアス。どうしても駄目なのか」
「……レイド先輩……」
複雑な表情になった団長をかばうように、サイサリス。
「騎士だった貴方ならば、判るはずです」
規律を守るには、例外は許されないことを。
「臨機応変ってことわざ、ないわけ?」
ナツミの表情も、だんだん不機嫌になっている。
イリアスとレイドは騎士団のよしみで知り合いらしいが、ちょっとくらい譲ってくれたっていいだろう、と、彼女のみならず全員の顔にでかでかと書かれていたりして。
ただ。
彼女の判断は、ちょっとばかり勇み足だったかもしれない。
レイド、そして一行を眺めたイリアスは、小さく息をつくと腰の剣に手をかけた。
ざわめきたつこちらに――レイドに向けて告げたセリフは、文字通りの臨機応変。
「どうしてもここをとおりたいのならば、自分を倒してから行ってください」
それが、自分に出来る最大限の譲歩です。
応えてレイドも剣を抜く。
「……すまない」
一度目を閉じ、つむぐのは謝罪。
けど。
「そうさせてもらうぞ、イリアス!」
開かれた双眸にあったのは、前へ進もうとする意志ひとつ――
レイドをフラットに残したりしないで連れてきてよかった、と、戦いのために展開する一行を横目に見ながら、はつくづく思ったものだ。