唯一幸いだったのは、シオンが、とバルレルの経緯について、ソルたちと打ち合わせたそのままを受け入れてくれたことだ。
『信じてくれた』とは素直に云えない。この人のことだし。
でも、別に異議も疑問も唱えずにいてくれたということは、悪くても、とりあえずはそういうことにしておきましょうってことなんだろうと解釈した。
「……てなわけだ。云っとくが、オレたちが知ってんのはこれくらいだぜ」
とりあえずたちがシオンに告げた事情は、以下に述べるとおり。
・ソルたち、なんかの儀式して事故起こす。
・事故で喚ばれてきたのが、先日アカネにぶつかったハヤトたち。
・その魔力に気づいて来たのが、過去、ソルたちの護衛獣やってた(ことになってる)とバルレル。
・なんだかんだでフラットとオプテュスの因縁に巻き込まれる。
・――現在に至る。
「いえいえ、充分ですよ」
どうにもこうにも、先日のあの大きな魔力の流れが気になっていたところだったので。
そう微笑んで、シオンはバルレルのことばに頷いている。
「その輪郭を知れただけで、充分です。儀式の内容については――」
そこでことばを止め、一瞬表情を強張らせたを見て。
「問わないほうが良さそうですね。禍々しいものであるとは、思っていましたが」
「そうですよねっ。アタシも、なんかあのとき、すっごい寒気して止まんなかったし!」
さもありなん。
アカネのことばに、は心の中だけで頷いた。
その隣に座っていたバルレルが、音もなく立ち上がる。
「話はそれだけだな? じゃあ、オレたちはもう行くぜ」
「ああ、忘れるところでした」
ぽんっ、と手を打って、シオンがそれを止めた。
「まだ何かあんのか?」
いくら将来の顔見知りとはいえ、さしものバルレルもうんざり気味。
に至っては、まだ何かつっこまれるのかと冷や汗気味。
そんなふたりを面白そうに眺め、シオンは、ゆっくりと頷いて。
「メスクルの眠りの特効薬なんですが――ここからだとスピネル高原ですか、あのあたりに生えている薬草を調達していただければ、すぐにご用立てできますよ」
「……なっ……!?」
「なんでそれを早く云わねえ!?」
おかげでアイツら、とっととフラットに戻っちまったじゃねえかよ!?
「ええ」、
そうして、シオンはいかにも申し訳なさそうにまなじりを下げた。……目は細めたままで。
「さきほどは、機を逃してしまいましてねえ……ですがこうして、薬のみならずお互いのことを知る時間を得られましたし、結果としてはよかったと思いませんか?」
「な……」
そう語るシオンの視線を見てられず、は、へなへなと地面に屑折れたのであった。
アカネが、同類相憐れむといった感じでこちらを見下ろしているのが、妙に泣けてきたお天道様の下。
……大将、まさに鬼。