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-誰も気づかないまま-




 ――魔王に魔王が憑依させられるか、バーカ。
 力を奪い合い、食らい尽くす対象としてならともかく、合体して共存なんてトンデモネェ。
 それがバルレルの自論。
 オルドレイクと同じ星空を、そうとは知らず牢のなかから見上げながら、は「そうだね」と頷いた。
 悪魔同士でさえ、こうなのだ。
 ましてや、片方が精神攻勢に耐性のない人間なら、一方的に食い潰されて終わりである。
 こんな簡単なことに、どうして誰も気づかない?
 ……いや、たぶん忘れたのだ。
 召喚術を通してしか、異界の存在と接触しなくなったこの世界の人たちは。
 遠い昔の戦いも、エルゴの王が起こした奇跡も――界の狭間で舞っていた、白い陽炎がいたことも。
 それでいいとは思うけど、だからって、こんなことやっていい理由にはならない。
 が。
 この物語にたちが関与するのは、そこまでだ。
 枠組みは出来た。
 仕掛けも万全。
 後は、儀式の地に移送され、準備が整い、彼らが訪れるのを待つのみ――

 嘘をついたままだ。
 そして、さらに重ねて嘘をつく。
 場合によっては、怒らせてしまうかもしれない。

 ……罪悪感を感じないと云ったら、嘘になる。
 後ろめたくて申し訳なくて、だから、何も考えないようにして突っ走っている。
 ごめんね。
 帰ったら、全部ぶちまけるから。
 あなたたちが、ここにいたあたしたちのことを、いつか思い出したときにでも。
 全部ぶちまけて、んでもって平身低頭、謝り倒すから。
 ごめんね。
 あたしたちは、あたしたちのために、動くよ。
 でも、あなたたちの行く末は、見届けてく。



 そうして、ある夜、闇が一段と深まった頃。
 城の背面――街に面していない側が、静かに蠢き始める。
 城内を満たしていた魔力がひとつ、またひとつと薄れて消える。
 ……残されたのは、無造作に牢へ放り込まれていただけの、城仕えをしていた戦う力を持たない者が数名。
 すっかり空っぽになった城のなか、彼らが発見されるのは――文字通り、すべてが終わってからのこと。


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