創作 |
←BACK NEXT→ |
昔話をしてあげる 何処に居る? そらとそらの狭間を渡り、気の遠くなるような、数の世界を垣間見て。 それでも気配の欠片すら、捕まえることができなくて。 握り締めた手のひらに、じんわりにじむ嫌な汗。 焦ってるんだと自覚する。 あの日あのときあの刹那。つかみ損ねた手のひらの、幻を追って目が覚める。 ほんのつかの間の休息さえも、自分の心は許さずに。 自責の念だけが強くなる。 狐は今このときも、闇のなかを跳んでいる。 ねぇ、何処に居るの? 舞い戻ってきた己の眼。再び双眸に輝き持って、それでも焦りは消えはしない。 繰り返し。呼びかける。 繰り返し、繰り返し。 だけど返事は返ってこない。 あの子の声は聞こえない。 ・・・・・・何処に、いるの? 【地球遊戯・昔話】 ゆらり、ゆらゆら、ゆら、ゆらり。 たゆたう少女と手をつなぎ、周囲の空気に己の心を同調させる。 不思議とこの子といるときは、感覚が奇妙に研ぎ澄まされる。 本来苦手な技さえも、難なく出来るようになるのが不思議。 「よし、巧い巧い」 久々に手放しで誉めてくれる、那由他に照れたように笑い、榊の手を握ったまま、ある一点へと意識を集め。 きゅぃっと収束する感覚。 生まれる、小さな力場。 榊がそこに居ると、場が安定しやすくなると指摘したのは那由他。 試してみたところ、案の定。 真理が苦手だと逃げていた、感覚の拡大と意識の集中が、まるで見違えるような結果。 さぐるように意識を伸ばす。 町のそこかしこ、世界のあちこちに。 はっきりした色は人間たち。 ぼんやりした色は肉の身を捨てた者たち。 そうしてさらにぼんやりと、こちらの視線に気づいて笑う、彼らは異形と呼ばれるもの。 好意的な対応の中、時折突き刺すような感覚を、与えてくるのは人間嫌いの異形たち。 ――感じる どこからくるのか判らないけど、確実に。 何かを求め何かを探し、蠢くそれは闇よりも濃い黒い色。 その、残り香。 追う。 強くなる、弱くなる。 こちらへ行けば強くなる。 あちらを見れば弱くなる。 そうして。 馴染んだ気配をかすかにその闇に感じ取り、強い不快を感じた真理の意識は突然、座っている場に引き戻された。 「莫迦」 「……」 あれだけ心を乱すなっつったろうが そういう那由他のことばは至極もっともで、反論もせずに真理はぶぅっと黙り込む。 だけど感情だけで云うのなら、乱すなというほうが無理だと思う。 だってつい昨日まで、笑って話していた相手のことを、殺してしまった奴なのに。 「まぁ、だいたいの方向はつかめたろうし?」 右手にかざしていた盤を、懐にそっとしまいつつの、那由他のことばに。 真理はすっと、ある一方を指さした。 「こちらから――」 すっと横に。 「こっちへ向かってる」 何度か往復させる。 「少しずつ中央に近づきながら往復してる。調べつくすつもりかな」 那由他がその手をつかみ、真理の方へ向きを変える。 「それを、ここへ喚ぶ。 かすれ具合から云って、一日かけてこの市を横断するくらいのスピードだろうな」 何かを探しながらだから、遅くなってるのかもしれないが。 那由他のことばに、うなずいて。 そっと榊の手を離す。 とたん、まだ感じることはできていた、町中の感覚は消えうせた。 「おまえはなー……」 それを見てとった先輩は、ため息ついてその場にしゃがむ。 がしがし、頭を乱暴にかいて、真理の目の前に指つきつけて。 「俺について、もう何年になる?」 「……4年、です」 「4年、ねぇ……」 いつまでたっても独り立ちできない後輩の、頭をそれでも優しく叩き、またも先輩ため息ついた。 「まぁいいさ、おいおい立てるようになってくれ」 「……はーい」 「返事は伸ばすな!」 「はいはい」 「一回でいい!」 「へい」 「茶化すなー!!」 いざや夜の帳よきたれ いざや参れよこの場所へ おまえの求めるはここに在る おまえを受け入れそしてなお、在り続けきれる器はここに。 生身で虚無を渡った過去が、少女の魂を変えていた 生身で金色の前に立ったことが、少女の在り様を歪ませた 本質が変わらなかったのが、けれどせめてもの救いなのだというように 先輩後輩の漫才見ながら無邪気に笑う、小さな少女はそこに在る 何処に居る? 闇と闇の狭間を渡り、邪魔するものは破壊して。 ここは雑多な気配が多い。 めぼしいものは手当たり次第、当たってみたけどすべて違った。 握り締めた手のひらに、じんわりにじむ嫌な汗。 焦ってるんだと自覚する。 あの日あのときあの刹那。つかみ損ねた手のひらの、幻を追って目が覚める。 ほんのつかの間の休息さえも、自分の心は許さずに。 自責の念だけが強くなる。 狐は今このときも、闇のなかを跳んでいる。 ねぇ、何処に居るの? |
←BACK NEXT→ |
綺羅が動き出しました。と云ってもまだまだ逢えないんですが...... 榊がひとこと、彼の名前を呼べばいいのですけど記憶がないですし(笑) うん、でももう少し。桜色を手にするとき、再会もあることを祈りつつ。 |