創作 |
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昔話をしてあげる 久々原 真理。マリと読むなシンリと読め。 一応小学6年生。兼、退魔師もとい妖怪専門なんでも屋。の、見習い。 父さんと母さんはいるけど、年がら年中日本各地を飛び回ってて、実質一人暮らしも同然。 もちろん兄弟はなし。 そっちの仕事でコンビを組んでる先輩の名前は、 上原 那由他。 7歳年上の従兄弟で、酒好き。近所の寺の住職代理。 昨日の夜までのおれの自己紹介は、だいたいこんな感じ。 【地球遊戯・昔話】 すずめのさえずる声がする。 半分開いたカーテンから、窓を通して差し込む陽光。 くちゃくちゃになったシーツの上で、久々の休みを満喫すべく、まどろむ少年がそこにいた。 「ねぇ」 「うー……」 「ねぇってば」 「ん〜……もーすこし」 「ねぇ、お兄ちゃんってば!!」 「いやいやあと7分……って、妹なんていねぇぞおれ!!」 がばぁっ 夢の世界から帰還して、ぜぇぜぇ肩で息をつく、少年の目に映るのは。 「……おまえか」 いったい何の手違いか。 適当な呪で喚ばれてしまい、式の型代に入り込んだ、幼い少女がそこにいた。 夢だったらいいなー、なんてちょっぴり思ってたけど。 ためしに頬をつねってみたら、痛みが走って赤くなる。 現実を見据えざるを得なかった。 見据えたくはなかったけれど。 曰く。 『自分で召喚した式神は自分で責任をもて』。 「とりあえず。名前は?」 式神として喚ばれたはずが、何故か空腹訴える、少女に朝食与えつつ。 意外に似合うと過去誉められた(嬉しくなかったが)エプロン外しながら問う。 そのまますとんと席につき、目玉焼きにたらそうと、しょうゆを自分側に引き寄せて。 「名前は」 返事もせずにもくもくと、食事のみに意識向けてる少女を睨み、も一度問いを繰り返す。 「ひみつ」 結局少女が口を開いたのは、味噌汁の最後の一滴を、飲み干したあとだと云っておこう。 「あぁ?」 険悪になりかける声抑えこみ、なんとか平坦な口調でもって。 問い返せば平然と、返ってくるのは少女の返事。 「真名はひみつだって、ゆったから。だからひみつ」 いや、つーか 「誰が云ったんだ」 まさにピンポイントにつっこんだ気分。 すでに機嫌の悪さを隠すことすら諦めて、真理は少女を凝視する。 だいたい、式神というものは。 とくに真理みたいな見習に、呼べる程度の式神てのは。 自分の意志などほぼ皆無、命令のみに反応する、そこらに浮いてる浮遊霊レベルなはずなのに。 目の前にいるこの存在は。 こうもしっかり自分の姿を型代に映し。 こうもしっかり自我をもち。 こうもしっかり人間らしく。 はっきり云って、規格外。 じっと真理を見返しながら、少女は無表情に云う。 「……誰が云ったの?」 ちょっと待て。 片肘ついて傾けていた、体勢を慌てて立て直す。 目の前の少女の声音に潜む、揺らぎに気づいたときにはもう遅く。 「……わかんない……」 ぽたり、 木製のテーブルに染み込む水滴。 「からっぽ……」 「何もないの。大事なもの、ないの」 「消えてるのに。何が消えたの?」 「本当は何処に帰ればいいの?」 真理は答えるすべがない。 「おまえは」 それでも。何かを云わなくてはと。 何も考えずに、口にした、それは呼びかけ。 涙で潤んだ丸っこい目が、ふっと真理を映し出す。 彼のことばを待っている。 「おれの式神だろ?」 まん丸く。まん丸く。 くりっとしたその瞳、さらに大きく見開いて。 少女は真理を凝視した。 予想外のそのことば、喜ぶよりも哀しむよりも。まず驚きが先に出た。 「おまえは、おれが喚んだんだから」 適当な呪でも、たとえやる気がまったくなかったのだとしても。 この子が真理の喚ぶ声に、応えて来たのは間違いなく。 だとしたら。 「だから、おまえは、おれの式神なの」 本当に、おまえの還る場所が見つかるまで。 おれの処に居場所をやるから。 噛んで含めるように云い聞かせ。 むしろそれは自分にこそ。云ってたのかもしれないけど。 ……ふぅわりと。 目の前の、小さな子が微笑んで。 ほっとした自分がそこにいた。 少女の瞳はまだまだ潤んでいたけれど、それ以上濡れることはなく。 「お兄ちゃん」 「んー?」 ぽてり。 椅子を降りて、とっとっと。 真理のところへ駆けて来て、少女は腕にしがみつく。 「さかき」 繰り返す。 「榊の名前。榊って云うの」 それから。 「お兄ちゃんが、榊に、いたみたい。今、呼んだら、なんかうれしかった」 「日本語になってねー」 くすくす。笑いながら、真理は少女を抱き上げて、膝のうえに抱え込む。 型代に宿った魂なのに、不思議と今までのそれとは違う、感じる幼子の暖かさ。 「久々原真理」 繰り返す。 「真理。おれの名前だよ」 「真理お兄ちゃん?」 「いや、兄妹じゃないんだから、お兄ちゃんは余計……ごめん、悪かった」 うるっ。と。またぞ潤んだ視線から、条件反射で目をそらし。 明後日の方向眺めつつ、しばし考えめぐらせて。 あぁもしかしたら自分も。 ずいぶんとこれまでの環境に、慣れていたつもりだったけど。 もしかしたら、もしかして。 さびしかったのかもしれないね。 「じゃ、こうしよう」 「え?」 じわり、にじんだ涙を優しくぬぐってやって。 「ただの式神じゃなくてさ。兄妹ごっこ。しよう」 ここに居る間限定だけど。 しかもたぶん、自分が式の型代に、注いだ力が消えるまでだろうけど。 そしておそらくそれはきっと、すぐに訪れることだろうけど。 それを自分は判っているから、あえて『ごっこ』と云ったのだから。 「 」 間が出来た。 躊躇ととるには短すぎ、それは心の琴線が、真理のことばで揺れたを示す。 それは懐かしさだともいう。それは既視感だともいう。 もう少し。 もう少しだけ刹那をおけば、琴線のかすかなその響き、自覚できたやもしれぬけど。 「榊?」 「うん!」 ちょっとだけ心配になって、覗き込んだ瞬間に。 勢い良く元気良く。 それはそれは嬉しそうに、榊が大きく頷いて。 だから刹那の少女の瞳。 何も映さず己の内を見つめていた、虚ろ宿した榊の瞳。 真理の瞳に映ることない、それはもはや跡形もなく。 「でも式神としても働いてもらうぞー」 「えええぇぇっ!? 怖いの嫌だよー!?」 「おれもおまえも一般人から見ればじゅーぶん怖いんだよっ」 「いっぱんじん?」 「あ。おまえ今ひらがなで云ったな」 いったい何処から教えたものか。 地球と呼ばれ、日本と呼ばれるこの世界の『一般的な常識』と、『真理たちの常識』と。 とにかく経緯を整理して、従兄弟に相談しに行こうと決めて。 賑やかにやりとり交わしつつ、まずは朝食の片付けをすることにした。 久々原 真理。マリと読むなシンリと読め。 一応小学6年生。兼、退魔師もとい妖怪専門なんでも屋。の、見習い。 そっちの仕事でコンビを組んでる先輩の名前は、 上原 那由他。 昨日の夜までのおれの自己紹介は、こんな感じ。 でもって今朝から追加がひとつ。 妹がいます。 兼、式神です。 なまえは榊。 |
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若干十歳強で親と離れてて平気なこどもっていうのはいないような気がします。 だいじょうぶだいじょうぶと云ってみても、けっこう寂しいものじゃないでしょうか。 やっぱりスキンシップって大事ですよね、うん。何が云いたいんでしょうわたし(笑 |