創作

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昔話をしてあげる
遠い昔のものがたり
君がそうなるすべてのはじまり
今ただこのときを生きている、君が君になる所以。
それは きっと最初の物語


 妹が、いた。
 そういうと、たいていの人間は『どんな子だった?』って訊いてくる。
 俺としては、『普通の子だけど』って答える以外にないんだよな。
 顔だちは年相応に幼くて、丸っこい目で、よく笑う。
 紙は短めにそろえた、黒いくせっ毛。
 俺が学校から帰るまでは家でひとりで留守番してた。
 走って出迎えてくれてた。
 ……どこから見ても、普通の子。

 ただひとつ、彼女の魂の依り代に俺達みたいな肉の身ではなく、式に使う形代を用いてた、以外は。

 名前?
     榊 って云うんだ


【地球遊戯・昔話】
〜真理〜



 とーん、と夜の間を縫って、逃げるように飛んでいく、闇に溶け込む黒い影。
 それを必死に追いかける、闇夜に目立つ白い服の、青年と少年がひとりずつ。
「真理、式を喚べ!」
「げっ!?」
 心底嫌そうな声あげて、少年しっかり拒否反応。
「俺、式喚び苦手なんですよー!」
「ぐだぐだ云うな逃げられるぞ!!」
 知った事かと云わんばかりの、相方の声に己の不幸をかみしめて。
 懐にさっと手を入れて、取りいだしたは式神の型。
 もう片方の手で印を切り、仮初めの命吹き込まんがために呪を唱え。
「久々原の真理の名において! きたりて我が力となれ! つーかこい!!」
「簡略しすぎだ莫迦やろうッ!」
 やる気がないのかおまえは!!
 げしっと一発殴られて。
 ここではいそうですと頷けば、後何発仕置きがくるか。
 考えて、真理は首をぶんぶん横に振る。

 ――と。

 ひかり。

 真理の手にした型代に、淡く輝くそれはひかり。

「嘘ッ!?」
 唱えた当の本人が、驚いているのを尻目にそれは、だんだんだんだん光を増して。
 思わず型代投げ上げた、その瞬間に視界がひかりに埋め尽くされる。

 あたりにほとばしる、光輝。


「……?」

 しゅうしゅうと、白い煙を立ち上らせて。
 型代のあったその宙に。浮かぶはひとりの幼い少女。
 齢は五歳かそこらだろうか。
 短く切られたくせっ毛に、うっすら細められた黒い瞳。まとうは真理たちのそれに似た、けれど違う白い服。
 ふわりふわりと宙に浮き、少女は真理に目を向ける。

 普段呼び出す式神たちと、あまりに違うその風情。
 思わず呆然と見上げてた、真理と少女の目が合った。

「うわああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「なっ!?」

 そして唐突に泣き出す少女。

 お、おれ、何かしたっけ!?

 痛くもない腹をさぐってみるが、何か出てくるはずもなく。
 そうこうしている間にも、夜のしじまを引き裂いて、少女の泣き声あたりに響く。

「おまえ何を喚びだしたんだ!?」
「おれが訊きたいです!!」
 完膚なきまでにやる気なしの状態で、適当に唱えた呪のせいで。
 こんなこどもが喚びだされ、困っているのは真理も同じ。

 しかも。

 ……しかも。

「……逃げられた……」

 とりあえず少女を地面に引き寄せ、抱いて頭を撫でてるうちに。
 彼らの追っていた異形はもはや、影も形もなくなっていた。

 真理、仕置き追加決定。


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真理と書いてマリと読まずにシンリと読む。
なんか好きです、こういう名前。
とにもかくにも、迷子を拾ってしまったからには面倒みなければなりますまい(笑