創作 |
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ゆぅるりと、ゆぅらりと、急いでいるのかいないのか。 世界と世界の合間を縫って。 虚無の狭間を飛んでいく、狐が一匹少女がひとり。 相も変わらずおぼろげに、感じる感覚それだけを、頼りにひたすら進むは彼方。 ゆぅるりと、ゆぅらりと。 それでもこちらはちょっとだけ、勇み足の雰囲気で。 狐と少女を追いかける、眠りから覚めた阿修羅の王子。 ゆぅるりと。ゆぅらりと。 いざや彼方に手を伸ばし。 追いつかんと欲するは。 【地球遊戯】 ぴくりとその耳震わせて、先んじて気配を察したは、お弁当食べてた綺羅の方。 榊をその場で下りさせて、自分たちの来たほうを、不審そうに振り返る。 「どうした?」 「……カモがネギしょってやってきた」 えらく和やかなこと云いながら、少女の問いに視線を戻し、ふわりと綺羅は笑ってみせた。 「はい?」 口元ひくりとひきつらせ、相棒の真意測りかね、首を傾げるのは榊。 だけど綺羅は意に介さずに、その場にとどまるように告げ、再び人の姿をとった。 ゆるく波打つ茶金の髪に、ひょっこり飛び出た狐耳。 それはかわいくぱたぱたと、気分よさげに振られる尻尾。 「王子様だ」 狐がにっこり微笑んで、少女に告げたその瞬間。 虚空の狭間を突き抜けて、立ち居るふたりの目の前に、炸裂するほどの光が閃る。 「追いついた!」 「修羅!?」 衝撃で肩膝ついた阿修羅の王子、次の瞬間顔あげて。 その嬉しそうな表情に、綺羅と榊が驚いたのもかまわずに。 がばりとふたりに飛びつきかけて。 「……あ」 右手を染める真紅に気づき、その手をすっとひっこめた。 けれど。 「修羅」 にっこり榊が微笑んだ。 すっと修羅の手をとって、己に真紅が移るも気にせず、その指絡めて視線を合わせ。 ほんのりそまった修羅の頬、気づいて綺羅が不機嫌顔。 だけど久々の再会を、邪魔するほどに野暮じゃない。 王子のことを心配し、こうして逢えて安堵して、うれしいのは狐も同じ。 少女がぺろりと真紅を舐めて、その血の味に首傾げ。 「……獅悠姐さんの血?」 おまえ、獅悠姐さんから力をもらったの? 榊だってもらったことないのに、と少々的外れな方面に、しっかり悔しさ示されて、修羅は思わず吹き出した。 「王子様、魔天楼に寄ったの?」 じゃあ俺たちと入れ違い? 獅悠と修羅のつながりが、いまいち見えない狐の問い。 王子は視線をさまよわせ、告げることばを捜して数瞬。 新入り猫又が王子と聞いて、吹き出した者が約二名。 けれど明かされるその記憶、聞くにつれて彼らの表情硬くなる。 「純粋の界渡りって云ってたの?」 賢者の話も聞き終えて、綺羅が眉しかめ問いかける。 こっくり頷く阿修羅の王子。 「最悪?」 「の、手前かな」 笑って答える狐に対し、少女は小さく息をつく。 「ほとんど最悪だって云ってるのと同じだよ」 「でも完全に最悪じゃないし」 この場合の。ほんとうの、最悪は。 瞬時真摯に見つめられ、少女はきょとんと綺羅を見る。 けれどそれも刹那の間。 するりと王子に目を向けなおし、狐はゆっくり笑ってみせた。 「だいじょうぶ、今から追いつけば」 自分たちが追っていた、うすらぼんやりとした阿修羅の気配、それは修羅のものでなく。 それなら、それは羅護の気配。 至極簡単な、消去法。 なんでも惟莢の話によれば、阿修羅の一族はあれ以来、天から出てはいないというし。 なれば虚空の只中に、あるは王子か王かだけ。 そして王子はここにいる。 「おまえの力も、返してもらわないとね」 借り物の、獅悠の力で保ってられる、修羅に榊は微笑んだ。 力をとられただけでなく、混じらされた猫又の、魂のせいかずいぶんと、あやふやになってる王子様。 でも羅護王は居ないから、この子が次の阿修羅の王か。 きっと阿修羅の一族は、行方不明のこの次代への、望みを捨てきれずにいるのだろう。 容易に想像のつくそれに、狐と少女は微笑んで。 修羅に向けてその手を伸ばす。 「行こう」 伸ばされたその手に右手をのばし、気がつけば。 いつまでも鮮やかに、主張していた真紅はもはや跡形もなく。 その不思議に首傾げ、それでも狐と少女へ向けて、王子は足を踏み出した。 ゆぅるりと、ゆぅらりと、狭間で嗤うはひとりの少女。 いざや此方にきたれよと、背後の黄金振り返り。 くつくつ笑い、そのときを。 ただただ待って、たゆたって。 望むは世界の狭間さえ、揺らせる薄紅色のその力。 |
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やっと3人合流しましたー。あぁ長かった。 このまま最後の戦い(ってなんだよ)に突入・・・・・・しません(笑 ここからまた、昔話がはじまります。賢者と玖狼とこどもたちのお話です。 話中に何度も出てくる薄紅の力を榊が手に入れた経緯と、そして遠い神代の世。 |