創作

■目次■

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 ゆぅるりと、ゆぅらりと、急いでいるのかいないのか。
 世界と世界の合間を縫って。
 虚無の狭間を飛んでいく、狐が一匹少女がひとり。
 相も変わらずおぼろげに、感じる感覚それだけを、頼りにひたすら進むは彼方。

 ゆぅるりと、ゆぅらりと。
 それでもこちらはちょっとだけ、勇み足の雰囲気で。
 狐と少女を追いかける、眠りから覚めた阿修羅の王子。

 ゆぅるりと。ゆぅらりと。
 いざや彼方に手を伸ばし。
 追いつかんと欲するは。


【地球遊戯】
〜合流〜



 ぴくりとその耳震わせて、先んじて気配を察したは、お弁当食べてた綺羅の方。
 榊をその場で下りさせて、自分たちの来たほうを、不審そうに振り返る。
「どうした?」
「……カモがネギしょってやってきた」
 えらく和やかなこと云いながら、少女の問いに視線を戻し、ふわりと綺羅は笑ってみせた。
「はい?」
 口元ひくりとひきつらせ、相棒の真意測りかね、首を傾げるのは榊。
 だけど綺羅は意に介さずに、その場にとどまるように告げ、再び人の姿をとった。
 ゆるく波打つ茶金の髪に、ひょっこり飛び出た狐耳。
 それはかわいくぱたぱたと、気分よさげに振られる尻尾。
「王子様だ」
 狐がにっこり微笑んで、少女に告げたその瞬間。

 虚空の狭間を突き抜けて、立ち居るふたりの目の前に、炸裂するほどの光が閃る。

「追いついた!」

「修羅!?」

 衝撃で肩膝ついた阿修羅の王子、次の瞬間顔あげて。
 その嬉しそうな表情に、綺羅と榊が驚いたのもかまわずに。
 がばりとふたりに飛びつきかけて。
「……あ」
 右手を染める真紅に気づき、その手をすっとひっこめた。
 けれど。
「修羅」
 にっこり榊が微笑んだ。
 すっと修羅の手をとって、己に真紅が移るも気にせず、その指絡めて視線を合わせ。
 ほんのりそまった修羅の頬、気づいて綺羅が不機嫌顔。
 だけど久々の再会を、邪魔するほどに野暮じゃない。
 王子のことを心配し、こうして逢えて安堵して、うれしいのは狐も同じ。
 少女がぺろりと真紅を舐めて、その血の味に首傾げ。
「……獅悠姐さんの血?」
 おまえ、獅悠姐さんから力をもらったの?
 榊だってもらったことないのに、と少々的外れな方面に、しっかり悔しさ示されて、修羅は思わず吹き出した。
「王子様、魔天楼に寄ったの?」
 じゃあ俺たちと入れ違い?
 獅悠と修羅のつながりが、いまいち見えない狐の問い。
 王子は視線をさまよわせ、告げることばを捜して数瞬。

 新入り猫又が王子と聞いて、吹き出した者が約二名。



 けれど明かされるその記憶、聞くにつれて彼らの表情硬くなる。
「純粋の界渡りって云ってたの?」
 賢者の話も聞き終えて、綺羅が眉しかめ問いかける。
 こっくり頷く阿修羅の王子。
「最悪?」
「の、手前かな」
 笑って答える狐に対し、少女は小さく息をつく。
「ほとんど最悪だって云ってるのと同じだよ」
「でも完全に最悪じゃないし」
 この場合の。ほんとうの、最悪は。
 瞬時真摯に見つめられ、少女はきょとんと綺羅を見る。
 けれどそれも刹那の間。
 するりと王子に目を向けなおし、狐はゆっくり笑ってみせた。
「だいじょうぶ、今から追いつけば」
 自分たちが追っていた、うすらぼんやりとした阿修羅の気配、それは修羅のものでなく。
 それなら、それは羅護の気配。
 至極簡単な、消去法。
 なんでも惟莢の話によれば、阿修羅の一族はあれ以来、天から出てはいないというし。
 なれば虚空の只中に、あるは王子か王かだけ。
 そして王子はここにいる。

「おまえの力も、返してもらわないとね」

 借り物の、獅悠の力で保ってられる、修羅に榊は微笑んだ。
 力をとられただけでなく、混じらされた猫又の、魂のせいかずいぶんと、あやふやになってる王子様。
 でも羅護王は居ないから、この子が次の阿修羅の王か。
 きっと阿修羅の一族は、行方不明のこの次代への、望みを捨てきれずにいるのだろう。
 容易に想像のつくそれに、狐と少女は微笑んで。

 修羅に向けてその手を伸ばす。

「行こう」

 伸ばされたその手に右手をのばし、気がつけば。
 いつまでも鮮やかに、主張していた真紅はもはや跡形もなく。
 その不思議に首傾げ、それでも狐と少女へ向けて、王子は足を踏み出した。




   ゆぅるりと、ゆぅらりと、狭間で嗤うはひとりの少女。

   いざや此方にきたれよと、背後の黄金振り返り。
   くつくつ笑い、そのときを。
   ただただ待って、たゆたって。


    望むは世界の狭間さえ、揺らせる薄紅色のその力。

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■目次■

やっと3人合流しましたー。あぁ長かった。
このまま最後の戦い(ってなんだよ)に突入・・・・・・しません(笑
ここからまた、昔話がはじまります。賢者と玖狼とこどもたちのお話です。
話中に何度も出てくる薄紅の力を榊が手に入れた経緯と、そして遠い神代の世。