創作 |
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ひゅうぅ、と風が強く吹き。 草原で無造作に寝転んでいた、少年の髪を巻き上げてった。 長い長い自分の髪に、思わず窒息しそうになって、少年あわてて起き上がる。 「ぷはっ」 まとわる髪をかきあげて、一息ついて空見上げ、またもや眠りに落ちかけた、みどりの瞳に何かが映る。 また、星? こないだと似た気配を抱いた、こないだよりは小さな星。 でもこないだよりは透明で、澄んだきれいなお星様。 ――泣いてる 不意に感じた感覚に、みどりはふっと息ついて。 世界の頭上を飛んでいく、不可視のひかりがそのうちに、力尽きて落ちること。 予感し起き上がり歩き出す。目指すは自分の住まう家。 神殿に住んでる神官さんに、落ちてくる小さなお星様、助けてあげようと云うために。 「ば・か・や・ろ・う」 一文字一文字丁寧に、あきれ返った口調で以て。 目の前の少女にののしられ、修羅はただただ呆然と、目を丸くして見るばかり。 「虚空を飛ぶならそんなささくれだった気持ちで行くんじゃない。 これは鏡だ。しかも倍返しだ。おまえ廃人になるぞ。 ていうかそもそもそれ以前に防御もとらずに生身で飛ぶな。榊や綺羅じゃないんだから」 ……そういわれても。 無我夢中で飛び出した、あの日のときは、こんなことはなかったのに。 「いや、ていうか」 左手で頭をぽりぽりかいて。 「あんた、だれ!?」 「アルだ」 どきっぱり。 云われてしまってなんと云おうかもはや修羅、つむぐべきことばも見つからない。 「……なんでこんなとこにいるの?」 「ルシアに頼まれた」 ルシアって誰? そんな疑問がかすめるも、はっと気づいたことひとつ。 こんなところでのんびりと、話してる暇などないということ。 早く、早く追いつかないと。 修羅より先に飛び出してった、狐と少女の二人組。 彼らがあれに逢うより前に、彼らと合流しなければ。 「だーから」 ぱんっと大きな音がして、はっと我に返ってみたら。少女が修羅の目の前で、手のひら打ち合わせた音だった。 「焦るものにこれは味方しない。 贖罪にこれは味方しない」 ――おまえはどちらにも当てはまる 朱金の瞳に自分が映る。 厳しい顔して、泣きそうな顔して。 焦って急いで進もうと――どこへ? あのふたりの軌跡など、とうに消えてしまってた。それにいまさらながらに気づき、修羅はぞっと身を震わせる。 ――どこへ? 行くつもり? あぁ。 これでは進んでないのといっしょ。 未だ美しきかの人の、鮮血滴り落ちている、右手を額に押し当てて。 胸に詰まった焦りや自分への怒りの感情、消してしまおうと首を振る。 かすかに残っているはずの。ふたりの軌跡感じるためには。 そう、何よりも。自分の気持ち、澄ませてなければならなくて。 「消そうとしなくていい」 ゆぅるりと。 虚無の力がびしびしと、突き刺してきていた感覚が。遠ざかったのを感じ取る。 優しく自分を抱いている、それは朱金の気配宿すひと。 「……聞いてやるから。云ってみな」 押し込めていた罪を。 胸にしまっておこうと思ってた、自分の。 けして許されないだろう記憶、を。 【地球遊戯】 地に妖在りき。地と天の狭間に人在りき。 そして。 天に、神在りき。 そして。 狭間の狭間に、界渡り――在らぬもの。 「はぁッ!!」 ようやっと、扱いに慣れてきた長槍を、右に左にひるがえし。 ひいぃひいぃと悲鳴をあげて逃げ惑う、界渡りたちを浄化する。 薄い霧のようなものたちは、放っておけばあらゆる世界に潜り込み、世界の精気を吸い尽くす。 もとはそれぞれなんらかの。 力もったものであったと、父から教えてもらったけれど。 堕ちてしまった今となってはもうもはや、救う道などありはせぬ。 我らがこうして消滅もたらしてやることでしか、彼らは輪廻に戻れぬのだと。 聞いているから気を抜かない。 周囲の彼らを一掃し、それでも修羅は構えをとかず、虚空の只中に立っていた。 「よし、時間ぎりぎり。修羅坊、お疲れさん」 「黒刃」 界渡りの浄化は天にとって地にとって、そして魔天楼にもとって、重要な位置にあるもので。 一定の、期間毎に行われている一斉浄化、それには天地と魔天楼、協力し合い事に当たる。 今回当番になったのは、天は阿修羅の羅護王の。一族がまず一陣を敷き。 地の妖たちは、それぞれに、天と衝突せぬように。思い思いに広がって、逃げるもの等を仕留めおく。 そうして魔天楼からは。 くじ引きではずれを引いたとのたまった、黒羽の天狗がやってきて。 一人で何ができるのか、そう聞いた修羅に黒刃は笑い、阿修羅の陣にも負けないほどの、それらを一人で浄化した。 「…すごいな、貴方」 上がった息もそのままに、素直に賛辞を口にする。 負けず嫌いのこの子にしては、破格のことであったけど、 「当然やろ?」 と、偉そうに返され逆にむっとする。 それの何がおかしいのやら、クナイ片手にくつくつと、笑う黒羽の黒天狗。 ふたりがそうしている間。他の場所に、散ってた味方も妖も、どうやら段落終わったらしく。 ぞろぞろと、集合地というか目印の、修羅を目指して集まっていた。 そうしてちょっと待ってると、向こうのほうからやってきた、も一つの目印阿修羅の王。 「父上」 敬愛している父の姿をその目に映し、ようやく修羅も力を抜いて。 「修羅、怪我はないか?」 「だいじょうぶです」 「そうか」 ほっとしてみせた羅護王は、傍にいた黒刃にも目をやって。 「黒刃殿もご苦労だった。玖狼によろしく云っておいてほしい」 「ってことは、今回はこれでお開きで?」 「……そうだな。あまりこちら側に長居していると、影響が出るからな」 玖狼や、彼の子たちのように。 生あるもの本来は、虚空になじむことはない。 居れば居るほど混沌は、こっそり身体にしみこんで。 存在たるものを変えてしまう。 その枠を外れた狼と、狐とそれから幼い少女は、はっきり云えば規格外。 ただその一言だけで、済ませてしまう神経も、ある意味すごいものなのだけど。 「了解ー」 じゃあ、俺はこれで。 ばさりと黒羽ひるがえし、阿修羅の軍に地の妖に、等しく目礼施して。 魔天楼の助っ人は、彼の家へと帰っていった。 地より出てきた妖たちも。もはや用はなかろうと、いつの間にか姿消し。 そこに残っているものは、天より降りた阿修羅たち。 そうして。 すべての幕よいざ開かん。 さぁ、帰ろうか そう微笑みとともに伸ばされた、父の腕。とろうとしたのは覚えてる。 その瞬間。 「ッ!?」 虚空を切り裂き飛び出たものは。 「界渡りッ!!?」 見逃していたのか湧いて出たのか。それすらもはきとせぬけれど。 この近辺の界渡り、すべて倒してしまったと。油断していた、その事実。 鈍い衝撃。 突き飛ばされて、体勢崩し。 同朋の腕で倒れこむのは防がれて。 そうしてがばりと身を立て直し、見たものは。 「父上!」 霧状のそれにまとわりつかれ、輪郭すらもぼやけはじめた阿修羅の王。 「父上!」 名を呼ぶ以外に何ができた? たとい王の血を継いだ子どもでも。 強い父をも喰らおうとする、異形の異形を目の前に。 天のなかでも戦いを好む、強き阿修羅の者たちでも。 彼らの長を喰らおうとする、異形の異形を目の前に。 立ち尽くす以外に何ができた? それでも。 震える両手に槍を握って、その身体貫いていたならば。 父ごととはいえ界渡り、仕留めることはできたろう。 だが。 ――だが、で、次は始まる。 |
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そうして此処が、ひとつのはじまりになります。 長くなったので途中で分断しました。続きは次頁にて...... |