そうして今日も、空は青い。海も青い。
「……ん?」
おそらくは島で一番眺めが良いだろうその場所へやってきた彼は、ふと、空と海との境に違和感を感じた。
青と白だけが存在しているはずの水平線に、小さな黒い影がひとつ、見えたのだ。
「珍しい、な……?」
一瞬覚えた不吉な予感。
無色という二文字が脳裏をよぎるが、呟くうちにそれは霧散した。
それは、それこそ、単に予感だったろう。
こんなにいい天気で、こんなに心地好い風で――だから、あんな奴らが来るはずはないと。
「でも」
そうしたら、誰だろう?
ほかに、このあたりの海を通る船は、まず思いつかない。最たる候補である彼の姉とその副官は、今、まさにこちらに滞在中だ。
次の候補である人々は――しばらくかかる、といって島を出て行ってる。戻ってくるにはまだ早いのではなかろうか。それに、見送ったものと比べると、やってきている船影は、少し違うように思える。
「……」
もしかして。
その可能性へと思考が至るのは、そう難しいことではなかった。
もしかして。もしかして、もしかして――
「ぷ!」
足元。彼と同じようにして、なんだろうかと船影を見ていた青い子が、一声大きく鳴いて注意をひいた。
「――あ」
そして落とした視線にとらえる。
小さな手で、高々と掲げられた石。若草色の召喚石。
この子と――彼女が結んだ誓約、その証が、淡くやわらかく、何かを訴えるように輝いていた。
もしかして、なんてものじゃない。
絶対に、確実に、きっときっと間違いない。
徐々に近づくこの予感は。
湧き上がるこの気持ちは。
「……っ!」
それに押し出されるようにして、彼は、草を蹴散らし走り出した。
船影の位置からして、到着までには時間がかかるだろう。
集落のみんなに声をかけて砂浜へ行っても、まだおつりが来る余裕はあるはずだ。
本当は真っ先に出迎えに行きたかったけど、島のみんなも待ってたことに変わりはないから。だから、……抜け駆けは、やっぱりやめておこうと。
そう考えた彼の行為は間違いではなかったけれど、ただひとつ誤算を挙げるなら、近づいてくる船影は、彼の知る帆船ではなくて、召喚師集団金の派閥の粋を集めた高速船だということくらいだっただろうか。