それは、霊界サプレスの高次生物。
神秘なる巨竜を象ったその生き物は、だが、一行がその全体像をとらえきる前に、さっさと光に包まれて消えてしまう。
云うまでもない。送還の光だ。
そしてこの時点で、場にいた人数の約半数が、レヴァティーンに騎乗していた人物たちの詳細を、姿見ずとも脳裏に描く。
「あ! いたいたー!!」
「やっぱりここだったんだな!」
危なげもなく泉のふちに着地した新たな来訪者は、中央に集まっていた一行に気づくと、親しげに手を振りまくってくれたのだった。
……いまさら、云うまでもないだろう。
彼らこそは現代の奇跡。
四界と誓約した王のなかの王。
――誓約者とも称される、エルゴの王、その人たちなのであった――
が。
「なんで綾ねーちゃんたちが――――!?」
「どうして、皆さん、ここに……!?」
「……誰、あれ」
一部にとっては幼馴染み、一部にとっては恩人、一部にとっては見も知らぬ他人。
とまあこんな状況下では、ばらさぬ限りそういう反応が返ってくるのも理の当然だったりした。
そして。
そしてだ。
先頭を切る位置に立っていた茶色い髪の男性が、振り回していた腕を止めたかと思うと、おもむろに。何故か、にやりと笑って仁王立ち。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が――呼んでないかもしれないけど」
「――――」
ばきっ。
先刻以上の怪音をたてて硬直する。
べきっ。
それに負けずとも劣らぬ勢いで凍りつくバルレル。
誰がどう見ても突っ込みたくなるだろう彼らの仕草に、だが、来訪者たちは頓着せぬままそれを続けた。
「とおりすがりの―――― 「わー、わー、わー、わ―――――――――ッ!!!」
我慢できずに涙目で怒鳴ったに、全員の視線が集中する。
「どうした、ー?」
仕掛け人こと茶色の髪の男性――こと、ハヤトがにんまりと笑ったままそらっとぼけてくれやがる。
……絶対判っててやってる。てか、判ってなきゃやれない。
頭に血が上るのを感じつつ、は、そんな幼馴染みを睨みつけた。
「ハヤト兄ちゃんっ!!」
「“いつかあなたたちに逢う者です”」
「わ――――――――ッ!!」
その少し後ろから、伏兵がクリティカルヒットを放つ。誰あろう、護界召喚師との称号を持つ4人のうちのひとり。名を、ソル・セルボルトという。
さすがはセルボルト。人の弱点を突くのは得意中の得意と見た!
慌てふためく(プラス一名)が面白いのか、ハヤトとソルは顔を見合わせて意地悪な笑顔を浮かべると、またしても追い打ちをかけんと口を開き、
ゴヅッ
「いってー!!」
「バノッサ……!!」
背後からの強襲に、あえなく攻撃を断念したのであった。
「バノッサさんっ!」
いっそ愛してますとか語尾につけかねないのラヴコールを余所に、バノッサは茶色髪ふたりを怒鳴りつける。
「しつけェんだよ手前ェらはッ!! 俺様の古傷まで抉ってんじゃねえッ!!」
「……」
「テメエのことかよ」
薄暗い笑みを浮かべる、さすが魔王器未遂とばかりぼやくバルレル。
そして証拠のように、バノッサはその勢いを保ったまま、ことばを零したふたりを振り返った。
――うひい。
慄き、逃げ出したい衝動に駆られるが、ここは絶海の孤島である。
加えて成人男性相手、膂力は並以上であろう彼と徒競走となると、の側がいささか不利だった。
「なんの用だ」
と、剣呑なそれに反応して、イオスがの前に出る。
「とおりすがりのいつかあなたたちに逢う者?」
だがその他、事情を知らぬ調査隊一向は、のほーん、と、そんなことを云っていたりするのだが。
島の面々に至っては、歓迎の出鼻をくじかれた憤りより、唐突な来訪者とらの繰り広げた幕間劇に放心しているようだ。
そんな衆人監視のなか、そして真正面からの敵対的反応さえそっちのけで、バノッサは、ずんずんと、とバルレルめがけてやってくる。ム、とさらに表情を険しくして身構えるイオス。
「あー」
バノッサとの距離が当初から半分以上縮まった時点で、も観念した。
「イオス、ありがと。でもいいよ、これ、自業自得だし」
ちょっぴりトホホの気分で、眼前の背中に手のひらを当てる。
「?」
「……サイジェントでね。うん。あの三時間の間、本当にいろいろあったんだよね」
「そういうこったなァ」
同じくサイジェントでの出来事までは関っていたバルレルも、の傍らにやってきた。このあたり、潔いと素直に思う。
「まあ気張れ、骨くらい拾ってやるぜ」
……前言撤回。
ともあれ、不承不承ながらもイオスが退くとほぼ同時、バノッサが、でーんとの前に立ち塞がった。
さすがに彼が何しでかすか判らない不安からか、さっきまでは笑みを浮かべていた誓約者に護界召喚師のご一行も、後を追ってやってきている。
だが彼らが追いつくより先に、鋭い赤の眼が、正面からを見据えた。
「……いきさつは聞いた」
それは助かる。
あの傀儡戦争において、知らん振りしてだましていたわけではないことは、真っ先に弁解したいことのひとつだったからだ。
ほう、と胸をなでおろすを見やり、バノッサはさらにこう云った。
「バカ野郎」
「うわ、初っ端から」
なんかそんな気はしてたけど、当たってもやっぱり嬉しくない。
「カノンが手前ェに云いたいことがあるそうだ」
「はいはいどうせあたしは天上天下のバカ野郎――――って、は?」自虐的につぶやくの耳に入ってきたのは、予想外の一言だった。「カノンさん?」
そういえば、と、あたりを見渡す。
バノッサを義兄と慕う、あの優しい少年の姿は、どこにもない。金魚の糞ってわけでもないが、彼らがなんだかんだで仲良しなのは周知の事実なのだけれど――って。
「こんにちは、お姉さん!」
今の今まで、結構幅をとるバノッサのマントに隠れて見えなかった人物が、そこでひょこりと頭を出した。
かくれんぼかい。
ちょっぴり呆れたの視線に気づいたか、乳白色の髪を揺らし、カノンは「えへへ」と笑った。それから、頬をほんのり赤らめて、上目遣いにこちらを見やる。
義兄弟のくせに性質違い過ぎるぞ、君ら。
「――あの、あのですね。お姉さん」
嬉しそうに楽しそうに、そうして懐かしそうにを見るカノンの視線は、年相応のものだった。
いつか――どこか。
遠い時間の、向こう。
日も差さぬ暗い部屋のなか、黙して痛みに耐えていた陰など、そこにはない。消えてはいないだろうけれど、それを越えて、カノンは笑っている。
……ああ、そうだ。
本当に、なんてしあわせなのだろう。
こうして、乗り越えた強いひとを、目の前にすることが出来るというのは、何にも代え難いよろこびだ――――
「……え?」
一瞬。放心したを、ふわり、まだ細い少年の腕が包み込んだ。目のすぐ横に、やわらかな髪が揺れている。
あー! と、どこかで吼える誰かの声。
「ありがとうございます」
囁くカノンの声は、震えている。慟哭でも怒りでもなく。静かに伝わる、それは、たぶん――
「ありがとう――ありがとうございます、お姉さん」ほんとうに、何度云っても足りないくらい。「……ボクがカノンでいるのは、あなたのおかげなんです」
いつか。
遠いあの日。
伝えきれなかったことばを。カノンもまた、抱きつづけてた。
「――ありがとうございます」
「……あたしは、何も、出来てないよ」
「ふふ」、お姉さんなら云うと思いました。そう、少年は笑う。「でもボクがそう思うから。だから、ありがとう、です」
それにね。
「お母さんに。この間、逢いました。買い物で、道端。偶然」
ごくり、と、喉が鳴る音。
何か重大な。大切な。何より大きなそれは、
「元気だったかって。訊いてくれたんです……!」
――歓喜、だった。
「あ――」
そっか。と、応じることさえ出来ぬまま。
の腕は自然と持ち上がり、カノンの肩にまわされる。
いつか支えた小さな身体は、もう、持ち上げることも出来ないくらいに育っていた。
そうしてようやっと、声を絞り出す。
「……よかったね」
「はい……っ」
そんなふたりのやりとりの傍らでは、
「で。もしかしてそれだけのためにここに来たの?」
「まさか」
未だ解消されぬ疑問をどうにかしようとしたトリスが、問いを一言のもとに否定されていた。
「そりゃそうだよな。それなら二人だけで来ればいいんだし」
撃沈した妹を撫でてやりつつ、マグナが云った。
でもそれなら何のためだ、と、再浮上する一行の疑問に気づいたらしい新規来訪者ご一行、顔を見合わせて互いを促しあう。
ややあって、アヤが一歩前に出た。
「ええと、その。ちゃんが、無色の乱が起きた頃のサイジェントへ時間を遡っていたのは、皆さんご存知ですか?」
うん、と頷く調査隊。
やっぱバレてるし、と項垂れる。あーあ、と天を仰ぐバルレル。
「…………」
「大変だったんだね」
哀れんでくれる島の人々。だが彼らはすぐに、
「――無色」
因縁浅からぬ単語をきっちり聞き分け、眉根を寄せた。
目ざとくそれに気づいたトウヤが、少し首を傾げて何か考える素振り。そしてすぐ、手近にいたナップに問いかける。
「失礼。もしやこの島は、無色の派閥と何か?」
「あ――ああ。ま、以前に少しな」
「断言しますが絶対に味方にはなりえない因縁です」
苦笑いする兄の傍らから、ウィルがぽつりと注釈を入れた。
「そちらは?」
「以下同文」
「ですね」
キールとクラレットが、切り返された問いへ、簡潔に応じる。
初対面同士である各々の空気が、少しやわらいだ。
それで、と、アヤが話を続ける。
「そのときちゃんはちゃんと名乗ってて……で、わたし達、このたびやっとそれに気づいて、聖王都へ事情を問い質しに行ったんです」
それまでは、どうしてサイジェントで逢ってるのに、聖王都で再会したときさもそれが初めてみたいなことを云ってたのか、判らなかったから。
要領を得ているとは云い難いアヤの説明だが、頼もしいことに、この場のひとたちは、あらかじめある程度の経緯を知っている。
何人かの頷きに促され、アヤのことばはまだ続く。
「そうしたら、ギブソンさんとミモザさんに逢って……ちょうど、皆さんが出航した後でした」
「すぐ追いかけようとしたんだけどね、ふたりに引きとめられて、がとんでもない目に遭ってたの知ったわけ」
……ありがとうギブソンさん。ミモザさん。お気遣いくださってたんですね。
これで、すっとぼけてたろうがとか突っ込まれてた日には、説明だけで数日分の気力が消費されていたと思われた。カシスの注釈に、ほう、と安堵。
「で。だ」
「俺たちもいろいろ、“”に云いたいことがあったし」
「ちょっと日をロスしたけど、追いかけてきたという次第」
「……あのー」
胸を張ってるご一行に、は、おずおずと挙手。
「あたしたちが聖王都に戻るまで待ってる、とゆー選択肢はなかったんでしょーか……?」
「……」
途端に沈黙するサイジェント一行。
その視線は何故か、バノッサ目掛けて一直線。
「……」
「こいつが大人しく待機してたと思う?」
「ギブソンさんたちの話を聞いてただけでも、表彰したい気分なんだけど」
「……」
「手前ェら、マジでいっぺん殺されてェらしいな」
涙目で頷くの頭部をこづいたバノッサが、腰の二刀に手をかけ、すごむ。
見慣れた一行はともかくとして、初対面の側からしてみれば、彼の行動はたまったものじゃない。
「やめていただけませんこと? この島で無用な争いはしないでほしいのですけれど!」
ぴしっ、と、ベルフラウが云い放った。
「――ンだとォ?」
「うわ、ベルフラウなんつーことを!」
「さ、じゃない、さんも! こういった輩には一度はっきり云わないと、判りませんわよ!」
「いや、たぶん、はっきり云って尚これなんだってば!」
「手前ェもこれ以上痛い目に遭いたいかッ!」
「矛先をあたしに向けないでください! いやベルフラウに向けるよりマシですけど!」
何しろ弓で戦う彼女のことだ、接近戦を得意とするバノッサに挑まれては、一も二もなく叩き切られる。
――って戦術の話違うし!!
だんだん険悪さを増していく両サイド。挟まれて頭を抱えるの耳に、
くくっ、
と、おさえきれず零れてしまったらしい笑い声が、届いた。
馴染んだ聞き覚えのある――いや、ありすぎる声に驚いて、はそちらを振り返る。声にというより、その声が、そういうふうに笑うのが珍しかったからだった。
「ルヴァイド様」
とん。
いつの間にか彼らの近くまでやってきていたルヴァイドは、己を見上げるの肩に、軽く手を置いてくれる。
大きな手のひらがそうしてくれるだけで、混乱で生じていた熱が、すうっとどこかへ逃げていった。
そうしてが落ち着いたのを確認したあと、ルヴァイドはその姿勢を保ったまま、まずバノッサへと向き直った。
「バノッサ殿、か。うちの養い子が世話になったようだ、さぞ迷惑をかけたろう」
「――バノッサ」「殿ォ!?」
大合唱。
呆気にとられて固まる者、顔を引きつらせて蹲る者、悪びれもせずに、ぷっ、とふきだす傍らの少年、――周囲の反応は実に様々だった。
だが当の発言者は、それらをまったく意に介することもなく。表情こそ鋭いけれど、瞳にはむしろ穏やかなものをたたえて、バノッサを見やっていた。
「……」
見られているバノッサはというと、“殿”などという敬称つきの呼びかけ、しかも、この柄の悪さを見てなお悪印象を受けたなどとは思わせぬ相手の出現に、面食らっているようだ。
常にガンたれている赤い目も、どこか険が抜けてしまっている。
そうしてこの沈黙は、たぶん、返すことばに迷ってのものだ。
「……あー」
「うむ」
でもってちょっと零すと、即座にルヴァイドが頷いてみせるものだから、ますます彼の戸惑いは大きくなっていく。
周囲の人々も、いったいこの先どうなるのか見当がつかず、固唾を飲んでふたりのやりとりを見守った。
こうなれば、もはやバノッサが何らかのリアクションをするまで、事態は動かない。ややあってそれを悟ったか、サイジェント北スラムのお頭は、「あー」と再度繰り返し、
「……ソイツは、手前ェのガキだってのか?」
と、彼にしてはとんでもなく無難で平穏な切り返しを、選択していたのだった。
おお! とか。
すげえ、ケンカ腰じゃねえ! とか。
近年まれに見る快挙です! とか。
周囲が盛大にどよめくなか、“手前ェ”呼ばわりされたルヴァイドは、まったく気分を害した様子もなく頷いている。
「ああ。血のつながりはないが、我が子同然に思っている。改めて、礼を云わせてもらおう」
「いや――俺様は、別に、コイツに恩を売った覚えはねェ」
なんとも形容し難い表情になって、バノッサ、ごにょごにょ。
照れてる。きっと照れてるんだ、あれは。
あっはっは。斬られる不安さえなかったら、指さして大笑いできるのに。
そんな内心の爆笑を気取られぬよう、は必死で能面を保つ。ポーカーフェイスでなく能面というあたり、無理が露呈しているのだが。
「そうか。だがおそらく、これからも世話をかけるだろう。――手数だが、粗相をしでかしたら遠慮なく云ってほしい」
「……お、おう」
ぎこちなく頷くバノッサを見ていたハヤトが、ぽつり、つぶやいた。
「……俺、今、たぶん、奇跡を目にしてると思う」
ああ。と、傍らのトウヤが頷いた。
「バノッサ陥落、か」
「まっとうな父性愛に飢えていたから、でしょうか」
「あ、ボクもその気持ち、少し判るかも」
好き勝手云ってる半分きょうだいたちを、バノッサはギロリと睨みつけ、
「手前ェらも、いい加減――!」
「さて。それでは本題に入らせてもらおう」
……その先手を打ったキールのことばに虚を突かれ、口をぱくぱくさせていた。
皆さん本当、あしらい方に慣れがあって素晴らしい。
「本題、っていうと――」
「ギブソンたちから聞いたぜ。原罪の欠片が、この島にあるかもしれないんだろ?」
派閥の機密事項を惜しげもなく漏らしたのかあのふたりは。
まさか、くだんの港で、朗らかに笑って事情説明の許可を出した総帥の姿があったとは知らぬ一行、主にミモザに対してそんなことを考えた。
「あ、うん。そうなんだ」
だがまあ、知られている以上、白を切ってもしょうがない。
こくりと頷くマグナ、そしてトリス。ネスティはどこか疲れた顔だが、そんなふたりを咎めようとはしない。
「それで、その原因は、こちらにも関係があることですから」
「私たちも、そのお手伝いをしようということになったんです」
アヤとクラレットがそう云って、一行を見渡した。
「突然乱入しちゃったのは申し訳ないんだけど、そういうことなんだ。――ええと。いいかな?」
実に今さらなお伺いをたてるナツミ。
だが彼女だけでなく、約一名様を除く新規来訪者全員が少し不安まじりの似たり寄ったりな表情で、他一同を見渡していた。
……その奥から好奇心やら悪戯心やらが見え隠れしているような気がするのは、きっと云わぬが花。障らぬなんとかに崇りなし。
「いや、俺たちにしてみりゃ、手勢が増えるのはいいことなんだがよ」
「問題は、こちらの島のひとたちよね?」
わりかし良識派であるフォルテとケイナがそう応じ、島の一行を振り返った。
目まぐるしく展開されていたやりとりに、彼らは、まだどこか放心気味だ。
「ぷーぅ」
大騒ぎだなあ、と云いたげに――かつ、高みから他人事を眺めてるような口調で、プニムがひとつ、鳴き声をあげた。
「小先生さんたち、どうしますですか?」
わりとタフらしいマルルゥが、ベルフラウの目の前まで水平飛行。そのまま鼻先にホバリング。
そして、ベルフラウは我に返ってまたたきを数度。
「えっ……あ、ああ……どうしましょう?」
普段ならここで即決してただろう彼女は、だが、周囲の兄妹たちへも水を向けた。
「私は、たまにはいいって思うな」意外にも、真っ先にアリーゼが微笑んだ。「こんな賑やかなのは、あの頃以来だもの」
あの頃が、どのころなのか。
問われれば、が思い返すのはきっと、自身も滞在していたあの日々だ。――アリーゼもおそらく、そうなんだろう。
「オレは――別に、まあ。いいんじゃないか? の知り合いみたいだし」
「僕も、特に問題だとは思わないけど。というか、ナップ、さんじゃなくてさんだよ」
「いいじゃん、別に。でもでも。本人なんだし」
「紛らわしいだろう。早いとこ直したほうがいい」
「あーもう、うるさいよなおまえ。同名がいるってわけじゃないんだから、そんな慌てなくてもいいんだよっ!」
しれっと突っ込むウィルへ、まるで予定調和のようにくってかかってくナップ。
変わったようで変わってないな、このあたり。
「小教官殿、皆さんお困りであられるようですが」
がしょん。
ヴァルゼルドにまで横槍を入れられたふたりは、ヒートしかけた口論を、「う」とうめいて途中停止。
ミスミがころころ笑いつつ、前に出た。仕切りなおし。
「それでは、そちらの御仁たちも含め、改めて歓迎させていただこう。ようこそ我らが島へ。目的と時間の許される限り、楽しんでいってもらえれば、わらわたちも嬉しく思うぞ」