【そして彼らは彼らと出逢う】

- 襲来 -



 耳をおさえて苦悩するご一行も放り出し、「薄情者」と、にやにや笑うナップに突進。
「レックスは! アティはっ!? っつーか護人の人たちはどうしたの何やってんの不審人物が大量漂着してんのにもしかして病気平和ボケ!?」
。漂着違うから」
 落ち着け落ち着け、と、イオスが、プニムの乗ってない部分の頭をぽすぽす叩く。
「はっはっは。自分で不審人物云ってりゃ世話ないわー」
 今のがツボに入ったらしく、腹抱えて笑うマネマネ師匠。
「……本当に忘れてたんですの?」
「ちょっとひどいです、さん――じゃないさん」
 う。
 ベルフラウとアリーゼの視線が冷たい。
 だって、と、心持ち後ずさりながら、両手の指をこねまわす。
「その、なんか、怒涛の再会連続で、頭一杯だったし」、それに、「みんなみたいに、その辺りからひょっこり出てくるかって思ってたのもあるし」
「そうか、それは残念だったな」
 くすくす、笑いながらアズリアが云った。
 その傍らで同じように失笑しているイスラが、
「先生たちと護人のみんなは、今、島を出てるんだよ」
 と、補足。
「島を出てる?」
「ええ、少々。ファリエル様をはじめとする護人の方々の体調が、少々思わしくありませんでしたので、それを解消するために」
「体調不良……って、そんなにお悪いんですか?」
 顔も知らぬ相手でありながら、さすがに心配になったらしいアメルが問うと、フレイズは「いいえ」と、はにかんだように笑む。
 ――めずらしい。ファリエルの前以外じゃめったに見なかった表情だぞ、あれは。
 こっそり感嘆していると、マネマネ師匠が傍に来た。囁いて曰く、
「のう、。あのお嬢さんってば」、アメルを示し、「なんかこう――ほら。あれ?」
「あれがどれか判りませんがたぶんあれです」
「…………」
 うわーを。と、つぶやくマネマネ師匠。
 それで終わるかと思ったら、ついでとばかりに目で示されたのは、レオルドを中心に、というかよじ登ってまとまっている、護衛獣カルテット。の、うちのひとり。
 退屈そうに足をぶらぶらさせている、バルレルだった。
「もひとつ。あの悪魔くんってば。もしかしなくても、あれ?」
「そうです」今度はきっぱり頷く。「着ぐるみの作成者です」
「…………」
 うわーい。と、遠い目になるマネマネ師匠。
「怖いなあ。バレたらどーしよ。力無断拝借したなんて知れたら、ワシ一撃で殺られるかもしれん」
 そのときはが庇ってネ。とか云いたげに、うるうるお目々になる師匠を、とりあえず、よしよしと撫でてみる素振り。
 いまいち軽い対応だが、無断は無断としても、師匠はのためにそうしてくれたのだ。バルレルだって鬼ではないのだから、そのあたりの事情を説明すれば、判ってくれるはずである。――悪魔だけど。
 だが現状、バルレルはマネマネ師匠など歯牙にもかけてないらしく、やはり退屈そうに状況を眺めているばかり。
「で」
 と、モーリンが先を促した。
「その、先生さんたち……と、護人さんたち? の、具合って実際どうなんだい?」
「それは心配ありません。先日、アルディラ様より、状態解決の旨、ご連絡をいただいております」軽く一礼して、クノン。「近々帰還されるとのことです。皆様が滞在のうちに、それがかなうと良いのですが」
 ――おお。
 クノンもまた、ずいぶんとやわらかくなったものである。姿じゃなくて態度というか、こう、おもむろに付け加えた後半が。
「そっか。じゃあ、そのひとたちのことは心配ないんだな」
 にぱ、と笑ってマグナが云った。逢えるといいなー、とも。
「ファリエルさんにアルディラさんかあ。名前からみて、女の人?」
「そうであります。どちらも見目麗しきご婦人であります」
「お、そりゃ眼ぷ――――っぎゅりゃッ」
「「……」」
 質問したトリスが、横から割り込もうとして吹っ飛ばされたフォルテを見やる。その目は、深い哀れみをたたえていた。
 その前のヴァルゼルドは無邪気に、「素晴らしい裏拳であります!」とケイナを賞賛している。で、クノンがこっそり、ライバル発見みたいな視線を彼女に注いでいたりして。
 一部の流血事件はさておいて、そこでハサハが小さく首をかしげた。
「……もりびとさんって……おねえさんたちが、ふたり……?」
「ああ、そうではない。あと二人おるが、そちらは男性じゃ」
 かわいらしい妖狐の少女を微笑ましく見つめ、応じるミスミ。
「ヤッファとキュウマといってな。まあ、気の利かなさで云えば両名いい勝負じゃ。わらわが保証しよう」
「そんなの保証されたら泣きますよ、ふたりとも」
「そうですよ! キュウマさんの畳は絶品だし、ヤッファさんの肉球は国宝ものなのに!」
「……畳?」
「肉球……?」
 イスラに重ねて援護したを、一行、どこか呆けた顔で注視した。
「オイラ、そこにしか価値見出されてないってのも、なんかかわいそうな気がする」
 物心つく前から見守ってくれていた鬼忍を思ってか、どこか遠くを見つめながらスバルがつぶやいた。
 さらに反論しようとしたを、
「――それで」
「むぐ」
 半ば無理矢理、背後からむんずと掴んで口をふさぎ、ネスティが話の軌道修正を試みる。
「他に手がかりもないことだし、その、北を調査してみたいと思う。島の方々には騒々しいことだと思うが、受け入れていただけるだろうか?」
 そして顔を見合わせる、スミとクノン、フレイズにマルルゥ。
「ふむ。わらわたちは構わぬが」
「ラトリクスを代表しまして、賛意を表明いたします」
「マルルゥは、お客さんいっぱいで嬉しいのですよー!」
「狭間の領域としても異存はありません」
 くるくると宙を旋回するマルルゥを見やった三名は、では、と、調査隊の面々へ向き直った。

「機界集落ラトリクス」
「霊界集落狭間の領域」
「鬼妖界集落風雷の郷」
「幻獣界集落ユクレス村ですー!」

「四集落の民に代わって申す。ようこそ我らが島へ。和を乱さぬ限り、我らはそなたたちの来訪を歓迎――――」

 しゃん、と、涼やかな音さえたちそうな佇まいでもって、ミスミがそう宣言した。
 いや。
 しようとした。
 途中まで確かに紡がれていたことばは、だが、そこで打ち切られてしまった。
「ミスミ様?」
 いったいどうしたのかと、クノンがミスミを振り仰ぐ。
 が、鬼姫は、「歓迎しよう」の「し」の形で唇を開いたまま、どこかぎこちない動きで視線を調査隊から外していた。

 ――上空へ。

「…………これは」
「――大物じゃなあ」

 ミスミと同じ方向をすがめ見たフレイズとマネマネ師匠が、緊迫と感嘆、それぞれの表情を浮かべてつぶやいた。
「げ。こいつぁ――」
 今にも居眠りしそうだったバルレルまでも、顔をひきつらせて空を仰いでいる。
 なんだなんだどうしたんだ。
「あれ、これって……」
 挙句の果てにはアメルまで、同じく空を見上げる始末。
「どうしたんだい?」
 彼女の傍らにいたロッカがようやく、一同が彼らに訊きたかったことを訊いてくれた。
 問われたアメルは、傍らに並ぶ赤青双子を振り返る。
「うん――今、近づいてきてるのって、もしかして」、

 ――答えようとしたことばの途中で、

 ばさあぁッ、

 豪快な風が、集いの泉に渦巻いた。
 同時に、ほんの一瞬、頭上から降り注いでいた陽光が巨大な何かに遮られ、一行のいる場所に大きな影が落ちる。
 そうして、

「――うわあ!」
「出たぁ!?」

 ――接近者の正体見たり――

「レヴァティーン!!」


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