その姿を見つけるのに、果たして、そう時間はかからなかった。
境内を囲う柵の向こう、きちんと整えられた籔のなか、少しばかり開けた場所にバルレルはいた。
本当の姿はレックスくらいの青年だなんて思えないほど、見慣れた小柄な悪魔の影は、の接近に気づいていたらしく、ぱた、と一度だけ尻尾を持ち上げてからこちらを振り返る。
「何してんだ、こんなとこで」
「それはこっちのセリフ」
先に早々避難してたのはどこの誰だ。
思いながら隣に座ってみると、バルレルはちょっと眉を持ち上げただけ。特にどっか行けとも云わず、黙って足を組みなおす。
そんな姿を横目に、問いかけをまずひとつ。
「賑やかなのって嫌い?」
「ユカイすぎて中てられんだよ」
「やっぱし」
納得するを一瞥し、今度はバルレルが問いかける。
「トリスは?」
「楽しそうにやってるよ。大騒ぎ」
「だろうなァ」
見ずとも光景が脳裏に浮かぶのだろう。口許を歪め、うんざりした表情になって、バルレルは額に手のひらを当てている。
なんでオレ、あんなノー天気なヤツに召喚されたんだか。なんて今さらな恨み節は聞こえなかった振りをして、ちょっと視線を持ち上げる。
ぽっかりと。ここだけ籔の少ない頭上は、月の光がほぼ素通し。境内のような明かりがなくとも、隣の相手を見る程度なら不自由もない。
「あー」
ぽつりとバルレルがつぶやいた。
「ノー天気ならテメエも負けてねーか」
「否定しないけどさ」
……勝ってる、と云われなかっただけ、よしとしておこう。
が少しむくれたことなど知らぬげに、バルレルは気だるそうな様子のまま、組んでいた足を真っ直ぐに伸ばした。両手を背中側に着いてバランスを整え――そうすると、自然と頭は空を向く。
半分ほど瞼を落として、魔公子は云った。
「――今も、夢か幻かって感じだな」
「うん」
「実際、オマエが戻ってくんの見てなけりゃ、白昼夢で済んだかもしれねぇが」
「だよね」
だって、こうして島にやってきて、皆から歓迎してもらうまで、あれが本当にあったことなのかどうか不安にならなかったと云えば嘘になるのだ。
一年前へ。そして二十年前へ。
時間を越えて、
「なあ」
今までより強い声音に、持ち上げていた視線を落とす。そうして、傍らの相手へ向ける。
深い、濃い、赤い双眸が、真っ直ぐにを見据えていた。
「もういいんだな?」
あの瞬間を、
「うん」
越えたことは、夢でも幻でも嘘でもない。
心配してくれてたんだ? そう訊くと、尻尾でビシィと叩かれた。
悔しかったので平手をお見舞いすると、拳骨でどつき返された。
しまいには、傍を漂っていたサプレスのちっちゃい子たちが実体化までして止めてくれるまで、際限なくエスカレートするどつき合いを繰り返すことになってしまった。
「……なんか進歩してねぇな、オレら」
「……同じ穴のムジナだしね……」
きっと一生、こんな感じって気がするよ。
青春喜劇の見せ所、夕暮れ河原でタイマン張った後さながら、頭突き合わせて寝転んで、とバルレルは同時にため息をついたのだった。
それは。
――悪くないなと。
――そうであれと。
諦めよりは、願いと希望が色濃い吐息。