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【再び girl meets boy】

- 再会は初対面 -



 駆け足駆け足勇み足。
 アルディラの苦笑を背中に浴びて、やってきました本日二度目のラトリクスっ!
 もう何度もお見舞いに来てるから、リペアセンターの内部はある程度把握しているし、メディカルルームへも迷わずに行ける。
 むしろアルディラより先行する形になりながら、は、入り口で待ってくれてたクノンに駆け寄った。
「こんにちは、クノンっ!」
「いらっしゃいませ、様。お待ちしておりました」
 直立不動で待機してたらしい看護人形さん、ぺこりときっちり60度のお辞儀。
 も、いつもだったら同じくらい深々と頭を下げるが、今日ばかりは気が急き気味。
「それで、イスラさんが起きたって……」
 はい、とクノンはひとつ頷き、の後を追うようにやってきたアルディラへと向きなおった。
「おかえりなさいませ、アルディラ様」
「ただいま、クノン。待たせたわね」
 焦らされてるような気がしないでもないけれど、挨拶の邪魔をするほど、物事を割り切れてないつもりもない。
 せっかくだから、ちょっと上がってる息を整える。すーはー。
 頭の上に乗ったままのプニムが、同じく深呼吸の真似。あんた走ってないんだから、息乱れてもいなかろーに。
 と、そのプニムを、アルディラがひょいっと抱え上げた。
「ぷー!?」
 突然の拉致に、プニムは当然のように暴れだす。
「アルディラさん?」
「この子は、この島に来てから一緒になったんでしょう? 悪いんだけど、余計な刺激を避けるためにも、まずはあなた一人で逢ってみてほしいの」
「え……と、はい」
 なんだろう、この用心ぶりは。
 もしやイスラさん錯乱してて、知らない人間が目の前にいると暴れだしたりするとかしないだろうな。
 などと実に失礼なことを考えてるの前では、同じようなことを云われて諭されたプニムが、それならしょうがないなとばかりに大人しく抱っこされる道を選んでいた。
 それを見て、クノンがちょっと首を傾げる。
「随分と聞き分けが良いのですね。プニムというのは、どちらかというと人間の子供くらいの感情の発露があると認識していましたが」
 つまり、大人びてる、ということらしい。
 しげしげと自分を眺めるクノンのまなざしに、当のプニムは、だが、
「ぷっ」
 とちょっぴり頬を染めて、抱きかかえられてるアルディラの腕のなかに、よりもぐりこんだ。
 そういや、プニムって雄雌の区別とかあるのかな。
 なんとなーく気持ちよさげにしてるプニムを見てそんなことを思いつつ、は、メディカルルームの扉をくぐったのだった。


 まず消毒液で手を洗う。
 それから風の吹きすさぶ部屋に入って埃をふっ飛ばし、次の部屋でスプレー状の消毒液を浴びる。ちょっと湿った髪を手でなでつけて、風で乱れた結い上げをついでになおした。
 消毒部屋を通り抜けたら、もうそこはメディカルルーム。
 いくつかの扉がの目の前にあり、うちのひとつに使用中のランプが点灯中。
 人間のいなくなって久しいこの島では、もう、メディカルルームの使用者も途絶えてしまってたらしい。アルディラは病持ちじゃなさそうだし――ネスティと同じく、ワクチン接種してるんだろうか――、クノンに至っては、必要なのはメディカルじゃなくてメンテナンスだ。
 故に、間違えようが無い。
 そこが、イスラの眠っている部屋である。
 今朝も訪れたその一室に向けて、はすたすたと歩き出した。そう時間もかけず、扉の前に辿り着く。
 ノックしようと持ち上げた手を――止めた。

 ……なんて云おう。

 実に他愛のない逡巡。
 おはようございます、じゃ、時間的に変だし。
 久しぶり、も、なんだか何事もなかったみたいだし。
 うん、あれだ。
 無難に、具合はどうですか? でいこう。

 時間にしてほんの数十秒停止していた手を、改めて動かす。
 軽く反動をつけて――トン、トン。
「…………」
 待つこと一分近く。
 もしや、起きたばっかで体力なくて、また寝てるんでしょうか。
 クノンに確かめておけばよかった、そう思いつつ、それでも念のためもう一度、とが再び手を持ち上げたとき、
「――どうぞ……?」
 記憶にあるそれより弱々しい、だけどはっきりと覚えのある声が、扉の向こうから応じてくれた。
 ぱ、と表情が輝くのが自分でも判る。
 気になってた相手の声を無事に聞けることが、本当に嬉しかった。
「お邪魔しまーす」
 扉の向こうに聞こえるように、だけどあんまり大きくならないように気を遣いながら、まずお伺い。
 それから、そっと扉を開けた。
「……あ!」
 ベッドに上半身だけ起こしてるその人の姿を見て、ますますの表情は晴れ渡る。
 光の加減で深い緑にも見える黒髪。
 ちょっと見開かれた、黒い眼。
 イオスほどじゃないけど、色白大会に出れそうな肌の色。アンド細身の身体。
 ――――よかった、イスラさん起きてる。
 盛大な安堵とともに、は目の前の相手へ呼びかける。
「イスラさ――――」
「……君、誰?」

「………………」
 なんですと?

 扉から半身を覗かせた体勢のまま、はその場に凍りついた。


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