が辿り着いたときには、すでに、アティはいつもの彼女に戻っていた。
ちょっと跳ね気味の赤い髪、くりっとした蒼い眼、ふわっとした白い帽子、マント。碧色? どこの幻ですか? なーんて云っちゃいたくなるくらい、まったくもっていつものアティの色。
「ヤードさん」
そのアティが、ヤードを呼んだ。
魔剣の発動にこれまた呆然としてたらしい召喚師さん、彼女の声で、はっ、と我に返る。
「はっ、はい?」
「が、ブラックラックで声を止められちゃったみたいなんです。ピコリットにお願いしてもらえますか?」
わたし、さっきのでちょっと精神集中難しくなってて……
「あ……それが……」
「先生、無理。ヤード、今日はもう打ち止めだよ」
ちょっと口ごもったヤードの脇から、何本か回収した投具を数えてたソノラが注釈した。
すでにこちらが会話を始めてるせいか。そこかしこで合流してたみんなが、わらわらと集まってくる。それに重ねて、ソノラの説明。
「なんか、が文字通り声帯つぶされたって思ったらしくてさ、怒っちゃって。精神力考えないで召喚術連発しまくってたの」
「……おいおい客人……」
何気に物騒な予想に基いて行動しないでほしい。
ため息混じりに笑うの頭上では、気まずそうに頬をかくヤードと、そんな彼を呆れたように眺める一行の姿。
やれ困った、これは明日までラララ無言くんか。
などと、諦めの入ろうとしたの肩を、とんとんと突っつく誰か。……ヤッファだった。
「じっとしてろよ」
疑問符乗っけたの頭に、ぽん、とやわらかな手をおいて、ヤッファは何事か口の中でつぶやく。もごもご。
――そのとたん、喉につっかえてた何かが溶けた、そんな感覚に見舞われた。
「……ぁ、あー、……おお!? 声が出たッ!」
「わあ!? よかったじゃん!」
思わず万歳したと一緒に、ソノラも両手を持ち上げた横で、
「何をしたんですか? 召喚術ではなさそうですが」
「ん? ちとした“まじない”だ」
「へえ、便利だなあ。なら、さっき治してやりゃよかったろうによ」
「バカ云うな。異常状態を治すのは結構めんどくせえんだ、戦闘中にやれるかよ」
と、ヤードとカイルに囲まれたヤッファが少々くさる。
――そうして、そこからさらに少し離れた場所で。
「……さあて、ボウヤたち?」
ちょっぴり剣呑なものをにおわせたスカーレルの声が、互い寄り添う四人の子供たちにかけられていた。
「自分たちのしでかしたこと、どう責任とるつもりなのかしら?」
「――――」
「スカーレル、待ってくれ」
沈黙は、四人分。
困難を打ち払った高揚を消して漂いだした、嫌な雰囲気を払ったのはレックスだった。
まだ手に下げたままだった大剣を鞘に戻し、つかつか、と歩いて立ち止まった場所はスカーレルと子供たちの間。――生徒たちを背に庇うように。
「――――この子たちと俺たちだけで、話をさせてくれないか」
蒼い双眸に、迷いはない。
真っ直ぐに己を見るそれに、スカーレルが苦笑する。
こうなることくらい判ってたのよ、と云いたげに。
「了解。いってらっしゃい」
他のみんなも異存はないかしら、と、付け加えて見渡す彼の目に、首を横に振る者は映らなかったのだから。