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【先生と生徒】

- 閑話 -



 ――――冷たい。
 ここしばらく、身体中の熱が抜け落ちてしまう、こんな感覚を味わったことはなかったのに。
 ――――寒い。
 久しぶりだ。
 身体に満ちる生命のすべてが吸い取られる、この虚脱感。
 ――――凍ってく。

 血も。
 涙も。
 息吹も。

 否。

 この心はすでに、とうの昔に凍って腐って爛れて溶けた。
 今の自分は、ただの道化師。
 何よりも望む願いだけ手に掴むことが出来ない、愉快に踊り狂う傀儡。

 否。

 ……死ねないだけの、屍。

 すぐ傍に、死が寄り添う気配。
 もう少し近づいてくれば、僕はおまえと共に逝くのに。
 その手で心臓を掴んでくれれば、僕はちゃんと死ねるのに。
 冷たさも。
 寒さも。
 もう感じなくて済むのに。

 ド ク ン

 ――――凍えた心を何かが燃やす。
 それは、自分の情熱じゃない。そんな名前のつく感情は、もう、残っていやしないんだから。
 熱。
 赤。
 紅。
 ……暴れ狂う兇気は、この心からのものじゃない。
 けれど、その熱が冷気を払拭する。この身を永らえさせる。

 ……ああ。
 やっぱり、あの子嘘つきだ。

 諦めなければ願いが叶うって云ったのに。
 だから、そのために頑張っていたのに。
 こんなモノにまで、手を伸ばしたのに。

 僕の願いは、やっぱり、叶わないじゃないか――――

  ……叶います。

 叶ってないよ。

  ……望んだもの、全部じゃないけど……そんな人たちを、知ってます。

 この願いでなけりゃ意味がない。他の何が叶ってもしょうがないんだよ。

 だから、
 やっぱり、

「――――……そ、つき……」


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