あちらで倒された部下はほったらかす気なのか、それとも大回りして回収に行くのか。
どちらにせよ、声とは逆方向に姿を消した軍人を見送って、ファルゼンがに問いかける。
「……オワナイ……ノカ?」
「あたしには、追う理由はないです」
「そうね。……これで諦めてくれるなら、良いのだけど」
化け物呼ばわりするくらいなら、いっそ怯えて巣穴から出てこないでほしいものだわ――
憂い混じりのアルディラのことばに、どう答えればよいのか。
ちょっとだけ考えて、結局、全然違う話題――というか質問を選んでみる。
「あの、アルディラさんって、融機人の方ですか?」
「え? ええ、そうよ。……驚いた?」
「はい。少し」
融機人は、機界大戦でほとんど滅びたって聞いてましたから。
「……あたしの友達があなたに逢ったら、きっと喜びますね」
「え?」
きょとん、とアルディラの目が丸くなる。
これくらいならいいかな、と、がもうひとりの融機人――個人名は伏せといて――のことを話そうとしたときだ。
ガサガサッ、と茂みをかきわけて、レックスとアティが姿を見せた。
「! ケガしてない!?」
「ピコリット、ヤードさんが召喚してきてくれてますけど……」
……もしかして、より、アルディラさんたちに必要でしょうか。
ぴんしゃん立ってると、その両脇に、先刻部隊と対峙してるときに負った多少の傷をそのままにしてるアルディラとファルゼン。
そんな彼女らを見たアティが、告げようとしたセリフを真顔で訂正した。
アルディラは口の端を軽く持ち上げると、アティのことばを否定する。
「大した怪我はしていないわ。ファルゼン、貴方は?」
「モンダイハ……ナイ」
「それは何よりです」
一拍遅れて辿り着いたキュウマとヤッファ。それから、カイル一家プラス客人のヤード。
余計なお客様こと帝国軍を退けて、一同なんとか、ここに介したわけだ。
「ま、何はともあれ、お疲れさん……ってな」
ヤッファが、にやりと笑ってカイルたちに告げる。
「おう、あんたらもな」
「……見せてもらったわ。貴方たちのことばが、あの場限りの嘘ではなかったこと」
「アルディラさん――」
やっぱりにやりと笑って答えるカイルたちから、少し離れた場所で。
レックスとアティに向ける、アルディラのことば。ファルゼンの視線。
ふたりは最初、戸惑ったようだけど。
「貴方たちのことを信じましょう。我々護人は、この島の新しい仲間として貴方がたを迎え入れます」
「ま……だからって、急に何が変わるってわけでもねえが」
島の奴らの人間への不信感は、まだまだ、そうあっさり拭えるもんじゃないからな。
キュウマとヤッファのことばに、ふたりは、ぱっ、と表情を輝かせた。
そのままの勢いで振り返った視線は、やカイルたちを順番に巡る。
前者はともかく、後者のそれは、まだちょっぴり手厳しいものではあったのだけれど。
今はただ、嬉しいんだから、よろこべる。
パン!
手を打ち合わせるレックスたちを見て、スカーレルが苦笑い。
「あーあ、元気によろこんじゃって……」
無邪気ねえ、まったく。
「スカーレルも、顔が笑ってますよ」
「あんたもね、ヤード?」
幼馴染みのやりとりに、カイルとソノラが横で吹き出した。
「しっかしまあ、ますます似てるな、ああいうところは」
「ああやってると、、先生たちの妹って云って通じるよねー」
「たしかにな」
ククッ、と、低く喉を鳴らして笑うのはヤッファだ。
種族としての名はまだ判らないが、どことなく、その仕草は猫に似た印象。
「何が解決したってわけじゃねえのによ、呑気に笑いころげやがってさ」
もちろん、彼らの会話はちゃんとたちにも届いてた。
パンパンパン、パン!
なんとなく続けてた手のひら連打を、一際高い音たてて止め、レックスとアティとは、にんまりと顔を見合わせた。
――あーもう、なんだか親近感どころの話じゃない。
子が親に似るのか、親が子に影響されるのか。
とレックスたちの関係は、絶対にそういうものじゃないけれど。
だけど。
この、友達よりも共犯者よりも、もっと優しい気持ち。見守っていきたいって思わせる気持ちは、いったいどこからわいてくるのか問われたら。
はやっぱり、あのときのことを思い浮かべるだろう。
それでは、レックスとアティは何を思い、またその源を浮かべるのか――それはまだ、彼らのみぞ知る。