そうして再び一同が集ったのは小一時間後。
今度は重苦しい雰囲気もなく、かといって必要以上に弛緩しているわけでもなく。
どうして集まったのかというと、材料の確保のために島をある程度探検してみるためである。
各々適当に用意を整えて、船長室に再び集合。
子供たちの姿もあるが、まさか、彼らまで同伴させるつもりじゃないだろーな?
などと一抹の不安もそこそこに、まずはどこを探検するかの話し合い。
カイルたちの話によると、嵐のなか、この島に光が4つ見えたらしい。
まず、向かって右奥、ヤード推薦の青い灯り。
次にカイルは右手前の赤い灯り。
ソノラが云うには、左手前の紫の灯り。
で、スカーレルは左奥の緑の灯りを“あえて”オススメしちゃうらしい。
おい海賊一家。チームワークはどこおいてきた。
もっとも、スカーレルは幾分面白がっている節もあるが。
さて、そんなこんなで意見はがっつり4つに分かれている。
カイルたちがそれぞれ1票ずつ。残る3票の所持者はいうまでもなくたちだ。
ついでにあと4票子供たちの分があるが、はっきし云ってカイルたちのバラバラっぷりといい勝負。
最初に子供たちの意見を聞いてみたところ、
「じゃあ、オレ、青」
「私は……紫にします」
「僕は、緑の灯りを」
「オニビの色ですもの。赤を推薦します」
ご覧のとおり。
ちっともスタート地点から動いてないというわけで、無効票決定。
こらマルティーニ兄弟。家族愛はどこおいてきた。
もっとも、彼らは決して兄弟仲が悪いわけじゃない。
あそこまで極端に性格や外見が違っても、本気でお互いを忌んでるところを見たことはない。
引っ込み思案なアリーゼの背中を叩いてやるのはナップだし、突っ走りがちな彼を引き止めるのはウィルやベルフラウの役目。
一歩ひいたところから、そんな兄弟たちを見守ってるのがアリーゼだ。
……うまくバランスがとれてるんじゃないかな、と、なぞは思うわけで。
「さて、それじゃあセンセたちに選択権が委ねられてるわけだけど……どうするのかしら?」
「うーん……」
話を振られ、レックスとアティ、は顔を見合わせた。
いっそバラバラに決めてもいいかもしれないが、最悪3:3:3:2、なんてアホな比率が出来かねない。
だもんで。
「恨みっこなしですよ」
「ええ、わかってます」
「よーし」
立ち上がって、拳を握りしめるたちを、他全員が怪訝な表情で見上げた。
まさか殴りあいする気じゃ……と、物騒な予想が聞こえるが、あいにくハズレ。
ぐ、と、は拳を目の前にかかげた。
レックスとアティも、それぞれ同じように。
そして、レックスが大きく息を吸い込んで――
「最初はグー! じゃんけんぽん!!」
――ずどがっしゃあ!
何故か、3人以外の全員が椅子から転がり落ちた。
何はともあれ、探索場所は赤い灯りのあった場所に決定。
じゃんけんで見事勝利を勝ち取ったが、一票を入れた結果だ。
最初に赤を推薦したカイルが、えらくご機嫌そうだった。
船の点検と子供たちのお守りのために、スカーレルとヤードがお留守番。こちらは公正にくじ引きである。
「どうして、オレたちは行っちゃダメなんだよ」
などとナップあたりがごねてたが、さすがにそれは受け入れられない。
「昨日みたいなはぐれが、また出てこないとも限らないんだ」
「わたしたちも、自分の身を守るだけで手一杯になるかもしれませんし」
だから、安全のためにも船で今日の復習をしててください、と。
家庭教師コンビのお願いに、子供たちはしぶしぶ引き下がってた。
まあ、さすがにこっそり着いてきたりはしないだろうとは思いつつ、道中、背後に気を払ってみたが、そんなこともなかった。
自分やどこかの緑髪みつあみの子みたいなことされなくて、よかったなあ、と。
が思わずしみじみしたのは、また別の話。
無造作に生えた下草を、適当に剣で払いながらたちは歩く。
もっと密林状態かと思っていたが、特に大掛かりな除草作業を必要としないあたり、誰か住人の手が入っている可能性は否めない。
「慣れたもんだなぁ、あんたら」
草払いする道具を持たず、ついでに云うなら山歩きに慣れてないため、3人の後をついてきていたカイルがふと、感心したように云った。
「さっすが軍人、てトコ?」
「そ、そんなことないですよ」
少し息の荒くなってきたソノラのことばに、アティは真っ赤になって照れている。
たしかより年上のハズなんだけど、なんだろうか、このかわいらしさは。
そしてその横、レックスの頬も少し紅い。……この姉弟、かわいいぞ。
あたしが村出てっちゃった後は、こんなふうに笑ってたり照れたりしてたんだろうな――
ちょっぴり感慨深く見ていたら、視線に気づいたらしいレックスがを振り返った。
「は疲れたり……してなさそうだね」
ぴんしゃん、と立つ姿を見て、云いかけたセリフを訂正。
ふふふ、元軍人ぷりでなら負けてません。
などと答えるわけにもいかず、へへ、と笑って頷いてみせる。
「カイルさんたちは、やっぱり山は苦手ですか?」
「おう。ま、海賊の本拠はやっぱ海だからな……っと」
そうアティの問いに答え、ふと、カイルが首をかしげた。
「なあ先生。その、“さん”っていうのやめにしねえか? あと敬語も」
「……え?」
「にも頼んだんだよ、なんかむずがゆくて。ほら、アタシたち育ちが育ちだからさ?」
気楽にいこうよ、気楽に。
ひょっこりと頭を覗かせて、ソノラが兄の援護。
そんな妹をちらりと見て、カイル、またしても首を傾げる。
「そうなのか? それにしちゃ、がオレに呼びかけるとき“さん”ついてねえか?」
「え。いやだってほらあのその、お世話になった元締めさんですし!?」
というかなんというか、カイルさんあたしより年上だし身体おっきいし、呼び捨てにするのはどうかなっていうか!!
必死になって手を振ると、
「でもなあ……」
やっぱりこれまでむずがゆかったらしく、微妙な表情が返ってきた。
同じく“さん”と敬語をやめてくれ、と云われたアティと顔を見合わせて、うなる。
レックスは、やっぱり男性だから――だろうか。最初から敬語も何もないもんだから、おもしろがって見てるばかり。
「そ、それじゃあ――」
「あ、はーい」
真っ先に呼ばれるとは思わなかった。が、それまでの“さん”から一転したのが、なんとなく気安い感じで、うれしくて。
両手を上げて、良い子のお返事。
「……………えぇと………それから……そ、ソノラ?」
次にソノラだが、こちらは少々意を決してから。
はーい、と、と同じように返事する彼女から視線を移し、最後にカイル。
「カ、カイ、カカカカカ……」
おいおい。
「カイルさっ……違う、カイ――――あうっ!?」
がちっ、という音が、まで聞こえた気がした。
口を押さえてしゃがみこんでしまったアティを、カイルが情けない顔で見下ろしている。
ソノラとレックスはというと、腹を抱えて必死に笑いをこらえていた。
も実は以下同文……といきたいところだったが、次は我が身かと思うと空恐ろしくなっていたりする。
涙目になったアティと、かなり本気で救いを求めるの視線を受けたカイルは、とうとう、うなだれて手を振った。
「判った判った、無理は云わねえ」
“さん”でもなんでも好きにしてくれ。
そう云ってため息をつく彼を余所に、赤い髪コンビは諸手をあげて喜んでいたりした。
それを見た船長が、ますます気力を抜かれていたのは――傍で見ていたレックスとソノラの知るばかり、である。