が、の意識はそれよりも先に、メイメイの手首に向かってしまった。
「……あ」
その音を耳にすると、どうしても反応してしまう。小さな声だったけれど、周囲の静けさもあって、つぶやきは全員に届いたらしい。集まる視線。そしてメイメイが振り返り――の視線を辿ると、そっと、自分の手を持ち上げる。
「ちゃん、これ、好きなの?」
そうして、どこか嬉しそうに、メイメイは云った。
「へえ、、そういうの好きなんだ?」
興味深そうに覗き込んでくるレックスとイスラ、それにアティ。
イスラはそれを見て、「きれいだね」と感嘆の声を漏らした。
「派手じゃないけど、装飾に拘りを感じる。腕のある職人が造ったのかな」
「ん? にゃふふー、どうかしら?」
どうかしら。
と、メイメイと一緒になって云えるわけもないが、も同じようなことを思う。なにしろ、造ったのってばどこぞの悪魔王さんですし。知ったらびっくりするだろうなあ。
頭ではそんなことを考えながらも、口にしたのは別のこと。
「はい、好きですよ。判ります?」
判らいでか、とメイメイは笑う。
まあ、それもそうかとは思う。それが鳴るたびに、いつも気をとられて視線をやっちゃってるし。懐かしいと思う、とも話した気がするし。
そうして、なんだかご機嫌に輪がかかっちゃったらしいメイメイは、ふと、銀まとう己の手首に反対側の手を伸ばす。
りん、
かすかな音をたてて、それは、メイメイの手首から離れた。
そして、
「はい」
に差し出される。
「え!?」
唐突な彼女の行動に対するの反応はというと――大慌て。
「ま、待って待って! そんな大事なものいただけません!!」
っていうか、今もらっちゃうとヤバイ。だってこれ、もっともっと先の時間であの日のが預かるものだ。
必死こいて顔の前で手を振るを、メイメイはきょとんとして眺めた。が、すぐに口元をほころばせる。
どうやら、慌てている理由を奥ゆかしさやそれに類するものと考えたらしい。
「いいじゃないか、。せっかく、メイメイさんがくれるって云ってるんだし」
傍らから覗き込んだレックスが、そのままほだされて頷いてしまいそうな、ただ好意しか見えない笑顔でそう云った。アティもイスラも、うんうん、と頭を上下させている。
……うっわー、本気で似てるよこの人ら。
「そうそう」
それに便乗する形で、メイメイのことば。
「なんとなく、ちゃん見てると、友達のこと思い出しちゃうのよ」
それは、白い焔を手繰る彼女。
銀を編んだ悪魔王の終わらないうた。
「もう遠い場所に行っちゃったけど、……うん、ちゃんみたいに元気でやってるかもしれないなあって思うとね。私がいつまでも持ってても、未練がましいかなって気がしちゃって」
「そんなことない!!」
頭で何か考えるより先に、身体が、口が、動いていた。
身を乗り出して叫んだを、メイメイやレックスたちは、目をまん丸にして見てる。
眼前の占い師。その眼をはっしと見据えて告げた。もう一度。
「そんなことは、ないです」
「ちゃん」
ぽつり、メイメイがつぶやいた。名前だけか、その後に何か続けようとしたのか。
それを遮る形で、
「そんなこと、ない」
三度目。そして断言。
「それは、あなたの友達に。あなたの大切な人たちに、きっと返せます」
「……」
「きっと。きっとです。だから、今のあたしがもらうわけにはいかない――あなたが持っていてください」
ことばの端々、零れる欠片。
それを、メイメイが掴み取ったかどうかは判らない。よしんば、掴んだとしても形となせたかどうか。
――それでも。
真摯に見上げる翠の双眸を、やはり真っ直ぐ見つめ返して、メイメイは静かに微笑んだ。
「……そっか。あなたがそう云ってくれるんだ」
ありがと。
そうして紡がれたことばの意味は、如何様にも読み取れそうだったけれど、はあえて、一番手前のものを選ぶ。
「いえ。励ましの役にでも立てればいいです。差し出がましいこと、すいませんでした」
差し出されたままだった銀のそれにそっと触れて、懐かしい気持ちで目を細める。そして、軽く持ち上げて、再びメイメイの腕に通す。手首に落ち着くように、くるりと巻きつける。
りん、
小さく優しく銀は鳴る。
まるでお礼を云われてるみたいだと思うのは、単にの感傷だったろうか。
戻ってきた銀をいとおしげに眺めて、メイメイが再び歩き出す。
その後を追って、たちも足を踏み出した。