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【別離】

- 名 -



 自棄っぱち、とか。
 捨て鉢、とか。
 そんなのじゃないのはたしかだけど、もう、笑うしかないかもね。

 もういい。
 もう知らない。
 もう遠慮なんてしない。

 最初からあんまりしてなかったけど。

「――名乗れと云ったね、オルドレイク」

 それなら名乗ってやろうじゃない。
 あたしの名。
 ここに在るはずのない、あたしの名前。


 ……ごめんなさい、ルヴァイド様

 最後に翠の双眸閉じて、別れを告げた。

 ごめんなさい、ルヴァイド様
 ごめんなさい、イオス
 ごめんなさい、バルレル

 ごめんなさい、みんな

 ごめんね、

 そして、

 ごめんね、

 別れを。
 遠い時間の向こうで生きた“”に別れを告げた。


 あたしの名を告げよう。

 は、ここに在るんだと。
 ここに、は在るんだと。

 だから――応えろ



 応えろ、リィンバウム


 その全霊をもって、この声に応えろ

 道なんて千切れていい。
 魂なんて壊れていい。
 大好きなあの時間に帰れなくても、後悔しても、構わない。

 目の前のコレをひっくり返すためなら、そんなもの、もう、気にしてなんかいられるか。


「あたしの名前は、だ……!」

 とたん。
 待ち望んでいたかのように噴き出した焔と、それに伴なう轟音。――オルドレイクには結局、その名が届いたかどうかも定かではなくて。

 けれど。
 “”が名乗った。

 それだけで、応える意志には充分だった。


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