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【紅の魔剣】

- 遥かまどろみ -



 暗い場所だった。
 だけど、闇への恐怖はない。
 きらきらとした無数のひかりが、魂の輝きが、そこを安らかな休息の場所なのだと教えてくれる。

 ……そこで一休みして、魂は、また何かの器を得、生まれるのだろう。

 そんなまどろみと、次生への期待に満ちる空間に。
 ひとつ、ぽつりと。
 泣いている、魂がいた。

 ――どうして泣いてるの? 哀しいの?

 おいてきてしまったの、と、魂は応えた。
 どちらかしか選べなかったわけじゃないのに、良かったのに、云えなかったの、と。

 長いこと嘆いていたのだろう。
 その魂の輝きは、とても切なく、胸を締め付けられるようだった。
 なまじ、透きとおった清涼なものであるからこそ、その痛みがより伝わってくる。

 ――えっと……ごめんね。云ってるコト、よく判らない。

 だけど、魂は再び、己への嘆きに溺れてそれは聞こえないようだった。

 もう逢えない。戻れない。
 転生の資格を放棄した自分は、繋がりを断たれた以上、戻れない。

 ただ、ただ。
 しとしとと、しずかに、魂は泣いている。
 もうずっとずっと前から、そんなふうに、さみしい気持ちをたたえてここに漂っていたのだろう。
 戻ることも、進むことも、出来ずに。

 ――でも、泣かないで?

 ちょっと強いそれに、魂は、再び意識を外に剥けたようだった。
 戸惑ったように、でも、わたしは、と、何かを云いかける。

 ――ひとりはだめだよ、きっと寂しいままになっちゃうよ。

 だけど、と、またも否定を紡ごうとした魂の前に。
 だから、と、手を差し出したのだと思う。

 ――一緒にいこう。あなたがさみしくないように。

 紡いでしまえば、これほどにいい考えはないように思えた。
 そうだ、ずっとひとりでいたから、この魂はこんなに寂しくなってしまったんだ。
 だったら、一緒に行けばきっと、まずは泣き止むことが出来るはず。
 そして泣き止んだら、しばらくは一緒に歩いて、戻りたい場所への道を探すことだって出来るかもしれない。

 ――一緒に行こうよ。ほら、あたしはもうすぐ生まれるから。
 ――こんなところで泣いてないで、一緒に生まれよう?

 ――生きてたらきっと、何かきっかけがあるかもしれないよ。

 そう。
 死んでしまえば終わりだから。
 ここは、終わりの場所だから。
 ここは、はじまりにすべき場所だから。
 通過しなくちゃいけないのに、留まって泣いちゃうくらいなら。

 ――だから―― 一緒に、行こうよ。

 そして、

 ―― 一緒に、あなたの世界に行こう。

 重ねて紡いだいざないに、ようやく、魂は興味をひかれたようだった。
 静かに切なく輝いていたそれは、ふわり、と、やわらかなきらめきを取り戻す。

 出来るの? と、魂は問うた。

 だから、力いっぱい頷いた。

 ――うん! だいじょうぶ!!

 さあ、終焉にまどろむのはもうやめよう。
 手をつないで一緒に行こう。

 そして、あたしたちは生まれるんだ――――


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