起床勝負の勝者はだった。
「よっしゃ一番手!」
意味もない勝利感にひたりながら、がばりと跳ね起きる。
まだ弱い太陽の光が、寝ぼけ眼を突き刺した。反射的に目を閉じて、そのまま伸び。
「……ふ、ああぁぁぁあっ……と」
とても人様には見せられない、盛大な欠伸をひとつ。
ぐるぐると腕や腰をまわして簡単なストレッチ。
潮のこびりついた服でこするのはためらわれて、とりあえず、寝床にした葉っぱで顔をふいた。
いまいちベタベタしているけど、まあ、疲れもない分昨日よりはマシ。
こきこき肩を鳴らしていると、レックスとアティも起き出してきた。
「おはよう」
「おはよう、早いですね」
「早起き勝負なら任せてください」
もとい、おはようございます。
なんともほのぼのした挨拶を交わし、へへ、と笑いあう。
と同じように簡単な柔軟をはじめた彼らを横目に、子供たちを覗き込んでみた。
いまだに健やかな寝息をたててる彼らの横では、召喚獣たちがお目覚めだ。
それぞれ独特な鳴き声をあげて、もしかして朝の挨拶か?
「ぷ」
召喚獣のなかで一番を獲得したプニムが、一声鳴いての足元にやってきた。
「うん、おはよ」
「ぷっぷぷー」
ちっちゃな手足で器用にによじ登り、頭の上に腰を落ち着ける。
っておいおい。
即席トーテムポールと化したを見て、レックスとアティが、視界の端で吹きだしていた。
身体の調子をたしかめたあとは、ひとまず周囲の見回り。
幸い、夜のうちにブルージェルたちの逆襲はなかったけれど、念には念を入れよと先人もおおせだ。
けれど、ざっと見てみた範囲に彼らの巣と思しきものは見当たらず、一安心。
ついでというか、流れ着いたモノを拾って……ちょっと複雑。
そうこうしているうちに、子供たちも起き出してきたらしい。
今たちのいる岩場の向こうから、賑やかとはいかないまでも、声がそれぞれ聞こえてきた。
あの人たちは、なんて、こっちを探してるような声に、たちはそちらに戻る。
「こっちこっちー」
「あ」
岩場に登って手を振ると、子供たちが一斉にこちらを見た。
それぞれ召喚獣を抱いたまま、小走りに岩場に駆け寄ってくる。
「アンタら、勝手にどこ行ってんだよっ!」
見た目どおりというかなんというか。
かけっこ一着を決めたナップが、ぶうっ、と頬を膨らませて抗議。
ごめんごめんと謝るレックスとアティの横から、拾った品々を足元におく。
頼み込んだ結果、無事トーテムポールを解除してくれたプニムが、ちょん、とそこに鎮座した。
「寝てるうちに、あたりを見てまわってたの」
「よく寝てたから、起こすのもしのびなくってさ」
「起きたこちらが心配することは、考えていませんでしたの?」
ちょっぴり半眼のベルフラウのことばに、顔を見合わせて照れ笑い。
ベルフラウ自身は気づいてないようだけど、“心配”なんて云ってくれた嬉しさも含んで。
「これは……」
収拾品を見たアリーゼが、まなじりを下げた。
彼女の抱いた召喚獣――見た目は丸っこい小精霊――が、気遣わしそうに腕の主を見上げて鳴く。
うん、と、レックスも頷いて、
「たぶん、あの船にあったものだろうな」
「……そうですね」
微妙に錆びた鍋とか、鞘が守ってくれたのだろう剣とか。
それは、少なからず人の手によって使われた後が見られるもので。
たちがこれを発見したときと同じほどの、微妙な沈黙が場に落ちた。
とたん。
ぐきゅー、るるるる。
あえて特定はしないが、複数名の腹の虫が盛大に存在を主張した。
「あ」
思わず腹に手をやった、自白一号。
「う」
レックス、自白二号。
「……」
アティ、三号。
ウィルが、呆れた顔で年長3名を見渡して、云った。
「……緊張感のない人たちですね」
ただし、彼の声にはちょっとどころでない笑みが混じっていたことも、ついでに付け加えておくとして。
ぽりぽり。
頬に手をやったレックスが、アティと顔を見合わせて笑う。
それから、ふたり揃ってに目を向け、また笑う。
つられたのだろう、子供たちも、なんとなく気の抜けた笑みを浮かべた。
「考えてみたら、わたしたち、昨日から何も食べてませんよね」
アティのことばに、一同頷く。
「よし、じゃあまずは飯にしようか」
「え? でも、食べれるものなんて――」
首を傾げたベルフラウに、の指がメトロノーム。
「あるある」
「……どこにだよ?」
まさか、でっかいキノコとか云うなよ?
何の話をしてるのかね、君は。
「どこも何も――」
とレックスとアティの手は、期せずして同時にそれを指していた。
「「「目の前にある、雄大な海こそが飯の元!」」」
云い方がムカつく、と、ナップに飛び蹴りくらったのは、ご愛嬌。