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【流れ着いた場所】

- 彼らを呼んだ声 -



 そうこうしてる間に、とっぷり日は暮れてしまった。
 見上げればお星様、見下ろせば砂浜。
 昼間のほてりがウソのように冷えきった砂浜の上に、そこらの木からむしったでっかい葉っぱをしいて、即席の寝床代わり。
 眠りつづける子供たちには、とりあえず葉っぱだけかけておいた。風邪ひいたら大変だ。
「それにしても、よく無事でしたねえ」
 葉っぱにもそもそ包まりながら、同じく包まっているレックスたちに話しかける。
 横になった瞬間、すさまじい眠気が襲ってきたため、声はかなり眠たげだ。それは、レックスたちにも云えることだが。
「……あー。うん。俺も、死ぬのを覚悟したよ」
 わたしもです、と、アティが頷いた。
 目がとろんとしてて、あと数秒もすれば夢の世界に旅立てそうだ。
 ちびっこ召喚獣たちも、それぞれ、子供たちの傍で丸まってすでに寝息を立てている。プニムはの傍。
 ここで3人が眠ると、起きてる人間がいなくなる。つまり見張りがいないってことなのだが、もはや知ったことではない。
 忘れてた疲労が一気に襲ってきたのだろう、ただひたすら眠かった。
「だけどさ、声がしてさ……」
「声?」
「そう、声がしたんですよ」
「なんの?」
 まさか、あたしがリィンバウムに呼びかけた声なんて云わないでしょーね。
 心配は心のなかだけ。
 うつらうつらとしたレックスとアティは、少し強張ったの声の変化に気づくこともなく、ただ、問いに答えねばという気持ちだけでことばをつむいでいるらしい。 
 ろれつがろくにまわっておらず、上の瞼と下の瞼はもうすぐ仲良しさんだ。

「――手に、しろって」
「生き延びたくば……継承しろ、って」

「……は?」

 声が、したんだ――
 ふたりは、そう繰り返す。

「どちらかを選ぶ……って……」
「……そのときまで、等しく力を与えよう……って」

「誰の?」

「――剣の」

「剣?」

 声が、したんです――

 つぶやくふたりの瞼は、完璧にくっついた。
 ことん、と、頭が落ちる気配。くぅくぅ、と、聞こえるのは安らかな寝息。
 ふと視線を巡らせてみたが、ふたりが何か武器を持っている様子はない。
 そもそも、の剣だって、あの嵐のなかで海に流されなかったのが奇跡に近い。帽子の件はおいとくとしてだ。
 だが、まあ、今はとりあえず。
「……寝よ」
 思考をはじめようとした頭を、ぼすっと葉っぱに押し付けた。
 植物特有のにおいが、鼻孔をくすぐる。
 ふかふかの布団でもほわほわの枕でもないけれど、横になって眠れるだけ、ありがたいというものだ。
 ――ふう、と。
 息をひとつ吐いて、身体の力を抜く。
「……おやすみなさい……」
 誰に云うでもなくつぶやいて、目を閉じた。


 ……おやすみ。――せめて、よい夢を。

 どこからともなく聞こえた声は、なんだか、彼女に少し似ていた――


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