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【無色の派閥・2】

- 幼馴染み -



 カイルたち側で展開されていた戦闘は、実は、他の場所のそれに比べれば容易に制することができるものだった。

 召喚師さえ早期に叩いてしまえば、あとは剣士と弓兵だけ。
 身内に手を出された怒りに燃えたカイルの拳、狙い過たず放たれるソノラとヴァルゼルドの銃弾、自軍の陣地に戻ったスカーレルとヤード――息の合った海賊一家+一機の攻撃に、無色の派閥兵たちはよどみなく無力化されていったのだ。
 そのままレックスたちに合流できたら理想だったけれども、それはカイルたちも判ってはいたんだけれども――そうは出来ない事情もまた、譲れぬ位置に鎮座していた。
 そうしてその会話自体は、彼らの戦いが終盤近くなり、余裕が生まれだした頃のソノラの一声が皮切りだった。
「だいたい、なんであんなムチャしたのよ!」
 僅か前にいたスカーレル、後方にいたヤード、彼らはそれぞれ、彼女の声が自分たちに向けられたものであると瞬時に悟り、少しだけ身を強張らせる。
 妹の叫びを聞いたカイルもまた、兵士をひとり殴り飛ばしながら、語気荒くふたりに問いかける。
「ソノラの云うとおりだぜ、なんだって黙ってた!?」
 今誤魔化しても、後でまた詰問されるだろう。
 そう予想したかどうかはわからないが、黙々と剣を振るっていたスカーレルは、そのとき僅かに肩を上下させた。

「仇を討ちたかったのよ」

 響く剣戟、轟く銃声、それらより遥かに小さな声は、けれどはっきりと一同の耳に届く。
「……カタキ?」
「さっきの話のつづきよ。無色の派閥の実験で、アタシたちの村は滅ぼされた」
 生き残った子供たちはそのまま連れ去られ、派閥の構成員として育てられることになって。
「ヤードは召喚師としての才を見込まれて、アタシは――聞いてのとおり、“紅き手袋”の暗殺者として」
「だからって……!」
 “だからって”
 そのあと、何を云おうとしたのだろう、ソノラは。それに被せて放った銃弾の音にかき消されたそれは、彼女の周りの空気を僅かに揺らしたに過ぎない。
 だけど、その声音は、何より雄弁にそれを教えてくれる。
 ヤードは、召喚石を握る手のひらに、知らず力をこめていた。
「私怨だから」
 そう告げる、スカーレルの声を聞きながら。
「これはアタシたちの問題で、島とは関係ないことだから。だから、アンタたちを巻き込みたくなかったのよ」
 だが、握られた召喚石によって門が開くことはなかった。
「……スカーレル」
 静まり返った一帯に吹き渡る、血生臭い風。命まで奪っていないとはいえ、多少の傷では退かぬ相手を無力化するのに、負う怪我の心配までしてはやれない。
 累々と横たわり、うめく兵士たちの声を聞きながら。彼の名をつぶやいたソノラの方をちらりと見、スカーレルは小さく肩をすくめてみせた。
「こんなこと、センセもアンタたちも、望みは――」
 しないでしょう、と、紡ぎかけた唇を、スカーレルは途中で閉ざした。
 流れるような、けれど予断を許さぬ勢いで、彼はとある方向を振り返る。

 思わずその動きを追った一同の目に映ったのは、これまで何の手出しもせずに戦局を見守っていた、オルドレイクたちの姿。
 そうして――、


「    」

 淡々と。その声は紡がれた。


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