しん、と静まり返った砂浜に、ぱちぱち、火の爆ぜる音が響く。
火の粉の飛ばぬ位置で、炎の照り返す熱を感じながら、はふと、隣に佇むアズリアを見やった。
と、彼女もこちらを振り向いたところだったらしい。
同時に互いを見たふたりは、一瞬目を見張り、少し気まずい面持ちをつくる。
「……すまない、な」
が何か云うより早く、アズリアが云った。
おそらく、無残に殺された帝国兵たちの遺体を集めて荼毘に付したことを云っているのだろう。
本当ならアズリアとギャレオだけでやりたかったのかもしれないが、ギャレオは重傷(誰のせいだとか云うな)、アズリアもそこまでいかないとはいえ満身創痍。や、そして少し離れた場所で、やはり静かに炎を眺めているカイルたちが手を貸したのは、当然のことだった。
そのギャレオは早急の治療が必要とのことで、アルディラとクノンによってラトリクスに運ばれた。
アルディラはじめ護人たちは、無色の派閥の襲撃に備えてそれぞれの集落に戻っている。砂浜に残っているのはアズリアと、それから海賊一家。
アティと子供たちは、倒れてしまったレックスを休ませるために、一足早く船に戻らせた。外傷もない彼の現状では、ラトリクスに連れて行ってさしたる治療が出来るとも思えなかったからだ。
そうして、これが終われば、アズリアもラトリクスに行くことになるだろう。自らの具合もそうだが、部下を預けっ放しでほうっておくようなひとではない。
「……いえ」
短く答えて、は笑んだ。
そこに、小さな足音が響く。
「さん、……アズリアさん」
カイルたちの座る場所から離れ、やってきたのはヤードだった。
自分たちを照らす炎を示し、アズリアを気遣うように見て、
「あまり遅くなると、身体に響きます。そろそろ――」
「……ああ」
云われたアズリアは軽く頷き、「だが」と、目を伏せた。
「もう少しだけ……せめて火が消えるまでは、ここにいてやりたい」
「――そうですか」
おそらくは、とアズリアを連れてくるように云われていたのだろう、何か云いかけて躊躇するような素振りを見せるヤードに、は横から声をかける。
「あたしが、ラトリクスまで送ってきます」
「ですが、さんも疲れが……」
「だいじょうぶですって。怪我はヤードさん治してくれたし、若いからちょっとぐらいの無茶は計算のうち」
「ぷ」
傍の岩にちょこんと鎮座し、同じように炎を見ていたプニムが、同意するように小さく鳴いた。
それとも、自分がお目付け役してるから任せとけ、という意かもしれない。
「だいじょうぶです」、もう一度は繰り返した。「ヤードさんたちのほうがずっと疲れてるでしょ、連戦連戦で。先に帰って休んでてください」
遺跡で出逢った影――“赤き手袋”の暗殺者――との戦いを話すとき、は事実を少々ねじまげた。
4人ではなく2人にして、ついでに、戦闘が始まって間もないうちにヤードの召喚を受けたのだと、傷はその際の追撃だったのだと、そういうことにしたのだ。……だって、ただでさえみんないっぱいいっぱいなんだから、もう、余計なこと考えさせたくないし。
だもので、ヤードは苦笑して、
「そういうことなら……」
でも、早めに戻るようにしてくださいね。そう云うと、踵を返してカイルたちのところへと戻っていった。
何度かことばを交わし、こちらを指さしたり頷いたりといった動作を見せたカイルたちは、一度たちに向けて軽く手を振ると、林のなかへと消えていった。