ちなみに、ここしばらく行方不明であった鬼忍さんと交わした久々の会話を、ダイジェストでお送りしよう。
「お久しぶりです。お元気そうですね、山に篭ってたわりに」
「……いや、篭っていたというわけでは」
「じゃあここで気配消して数日忍んでたんですか? うわー、シノビの本領発揮ですねよかったですね」
「……いえ、そういうわけでも」
「ていうか、なんでいきなり出てきてくださったんですか、ミスミ様もスバルくんも心配しまくってるんですが」
「……それに関しては、申し訳ないと思いますが……」
「思いますが?」
「……しばらく無言で佇んでいた者が急に叫びだしてあまつさえ不気味な笑いを浮かべていれば、不審にも思おうというものでしょう」
「――――わあ。すごく爽やかに云い切ってくれましたねぇ」
「殿に比べれば、まだまだですよ」
「ていうか見てたんですか、あれ」
「ええ」
「じゃあやっぱり、ここで忍んでたんだあ。へーふーんほー」
……ほっとけば、坂道をどんどん見当違いな方向へ転がっていく会話の軌道修正をしようとしたのか、はたまたそれ以上その件で追及されることを避けようとしたのか、それは定かではない。
定かではないが、ともかく、キュウマは「ごほん!」と大きめな咳払いをひとつして、漂いだしていた生ぬるい空気を払拭した。
それから、ため息混じりにつぶやくのは、なんというか、ちょっとした愚痴。
「……どうも、あなたと話していると調子が狂いますね」
不審さ全開だったの行動を見、目に余るものを感じて出てきてしまった己を恥じるような口調に、とうの不審人物は遠い目になる。
前言撤回。
生ぬるい空気、ちっとも払拭されてないっス。
などと思った矢先だ。
どことなくしんみりとした声で、キュウマがつぶやいた。
「本当に……人をからかって反応を楽しむところなど、そっくりです」
それを聞き、は目を見開いた。
「……それって」
「あ……」
しまった、と、キュウマは眉を寄せた。どうやら、自覚せずに零してしまった気持ちだったらしい。
だが、はそんなの知ったこっちゃない。
「それって……あたし、やっぱり、バ「ぷ―――!!」に毒されすぎてる……!?」
放送禁止用語か、プニム。
だが、ちょうどいいタイミングで固有名詞を打ち消した鳴き声の意図は、そのためではなかったらしい。
「ぷ! ぷぷーぷぷぷ!!」
ちっちゃな腕を振り回し、丸い目を精一杯いからせたプニムは、とキュウマを均等に見ながら必死に何かを訴えようとしていた。
その真意を読み取ろうとするふたりの視線に応え、プニムはさらなる動作へ進む。
右足を持ち上げ。
耳を振りまわし。
左手を水平に。
大きくジャンプ。
くるりと一回転。
片足ずつ地団駄。
右手を「いや、もういい。もういいから」
いつにも増して読み取れぬレベルMAXのジェスチャーを、とうとうはそこで押しとどめた。
とはいえ、その意気込みから何となく感じ取れるものはある。
「要するに。プニムも、全部話しちゃえって云いたいんだよね?」
「ぷ!!」
我が意こそはここにあり! と、大きくプニムは頷いた。
そうして、はプニムとともにキュウマを振り返る。
「どうですかキュウマさん。こんなちっさい子でさえ、心配してるんですよ」
部外者のあたしたちに話したくないことなら、この子に話してみてもいいんじゃないですか?
「……風に乗ってあたしの耳に届いちゃうことは、関知外っていうことで」
「…………」
の提案に、キュウマはしばし首をひねり、――幾分情けない顔でかぶりを振った。
「いえ。あなた“たち”にお話します」
小さな青い生き物に切々と話す己の姿を想像したのが、その表情の理由だったようだ。