理屈ではなく、肌でそれを感じたのだろう。
何をしても通じない魔力障壁に業を煮やしたか、それとも、声なら届くかと思ったか。……いや、たぶん、彼らは何も考えてなどいなかったに違いない。
ただ。
子供たちは、叫んでいた。
「せんせい――――っ!!」
涙混じり。
嗚咽まみれ。
声にならぬ声という点では、レックスたちのそれと大差ないように思える叫び。
ただひとつ違いがあるとするなら、彼らの声には、意志があるということだった。
「――――――――!!」
行くな。
叩きつける拳を、障壁は弾く。
「――――――――!!」
約束したのに。
伸ばした手を、障壁が阻む。
「――――――――!!」
戻ってきて。
駆け寄ろうとする足を、障壁が押し返す。
「――――――――!!」
まだ教わりたいことがある。
すがろうとする身体を、障壁は進ませない。
だけど。
『――――ぁ』、
声は、届く。
『……っ?』
声は、届いた。
ふたりの僅かな変化に気づいたのは、その場にどれほどいたろうか。少なくとも、は、背後のアルディラが息を飲むのだけは感じたけれど。
だから、彼女が叫んだとき、それに驚かずにすんだ。
「もっと……もっと呼びなさい!!」
常の冷静をかなぐり捨て――いや、この場に冷静な者など、もういないも同然だけど――発されたアルディラの叫びに、子供たちは一瞬こちらを振り返る。
だが、そんな間さえ惜しいと、アルディラは再度声を張り上げた。
「レックスとアティを呼びなさい!! もっと強く、……あなたたちの声が、彼らの心に届くまで!」
それで、子供たちもまた、彼女の意図を悟る。
わき目も振らずに、再び、レックスとアティへ呼びかけを――そして自覚せぬまま動く身体で、障壁への体当たりを再開した。
「……ちっ!?」
キュウマが、そこで初めて動揺を見せた。
子供たちへ向かうつもりなのか、重心が僅かに前へ移動する。が、間に立ちはだかるのはヤッファだ。そして、後方にはアルディラと。
「……どんなに足掻いても」、
食い止める彼らを、揺さぶるつもりか。
務めて淡々とした声で、キュウマは云う。
「始まってしまった以上、止める手段など――」
「……そんなこた、ないでしょう」
剣を片手に佇み、その背後から、は云った。
視線は彼にではなく、彼の向こう。ヤッファをも越えて、その先。
倒れ込むレックスとアティへ伸ばされて、そして触れる、子供たちの手を見ながら。
の視線を追ったヤッファが、大きな安堵の混じった表情を浮かべた。キュウマが、凝然と目を見開いて、動きを止めた。
レックスとアティ、そして子供らへ、カイルたちが駆け寄っていく。
魔力障壁など今やいずこ、体力も精神力も限界に近いふたりを支えるために伸ばされる、幾対もの腕。そのどれも、何かに阻まれることはない。
「…………」
目を見開いたまま、キュウマの手から力が抜けた。
カタン、と。
はっと響く音をたて、彼の手にしていた刀が床へと落下する。
その音は、レックスたちのもとへ駆けた一団にまでは届かなかった。耳にしたのは、ふたりの護人。そして。
「――」
無言で、ヤッファが腕を翻す。
――ごッ
鈍い殴打音。
鳩尾に入れられた一撃は、相当重かったらしい。キュウマの足が一瞬浮いて、彼はそのまま膝をついた。
「……っ」
「ヤッファさん!?」
崩れ落ちるキュウマを見下ろすヤッファの目。その冷たさに、何かぞっとするものを感じて、は足を踏み出そうとする。
が、後ろにいたアルディラの手が、その肩に置かれた。込められた意は、制止。
「ヤッファ」
静かな――いささか静か過ぎる声で、彼女は、幻獣界の護人を呼ばわった。
の横を通り抜け、動きを止めたままのふたりの間に割り入り、キュウマの前に立つ。
「――どういうつもりだ」
険を含んだヤッファの問いに、アルディラは、小さくかぶりを振った。
「……アルディラさん」
心なし緩慢な彼女の動作を見、は首を傾げる。
いらだった様子のヤッファ。彼は、気づいていないんだろうか。アルディラの目が、どこかぼうっとしているということに――
と。
思ったときだ。
先ほどにも増してゆっくりとした動作で、アルディラの腕が持ち上げられた。
「……アクセス」
どこかで聞いたような単語を、一文字一文字、区切るように彼女は口にして。
「――――――――!?」
次の瞬間。
ずあぁっ、と、床からせりあがるようにして出現したのは、ごっつくでっかい何かの砲台――!