そんなこんなで一日の行動を報告する義務は発生したものの、だからといって普段と何が変わるわけでもない。
カイルと朝の手合わせをやって、朝食を終えて、片付けて。もうすぐレックスたちが学校に行く準備をして出てくるから、それを見送ったらいつもどおりの自由時間。
……と、思っていたら。
「おい、」
さて何をしようか、と、意味もなく空を仰いでいたを、船の陰からカイルが呼んだ。
「何?」
「いいから、ちょっとこっち来いって」
「??」
ちょいちょい、こちらに向けて上下する手のひらに誘われて、砂浜を蹴りつつそちらに移動。ものの一分もかからずに、はカイルの前に辿り着いた。
と同時、その後ろに立っていた人物が目に入って、「あ」と声をあげる。
「オウキーニさん!」
「ども、お世話になっとります」
つい昨日笑撃の死闘を繰り広げた、ジャキーニ一家の副船長が、何やら鍋を抱えて立っていた。
それと同時。潮風に乗って、つん、と鼻を刺激するにおい。出所は当然、オウキーニの手にする鍋だ。
……なんか、懐かしいというかなんというか。そんな感じのにおいだ。
疑問符を乗せてカイルを見上げると、彼は心得た調子で説明に入った。
「これ、昨日の詫びらしいぜ」
簡潔明快なそれに、オウキーニ自身が補足。
「と、思うて急いだんやけど……こちらの皆さんも、朝は早いんですなあ」
「ああ、なるほど」
どうりで、エプロンはともかく鍋つかみを装備しているわけだ。
砂浜よりも厨房にいるほうが似合いそうな男・オウキーニ。なんでこんな人がジャキーニの義兄弟なんだろう。
バノッサ&カノンといい、義兄弟はそういう系統だという法則でもあるんでしょーか。
一瞬考えた実にどうでもいいことを、はすぐさま脇においた。においのもとである鍋に、つつつ、と近寄って覗き込む。
「見てもいいですか?」
「どうぞどうぞ。朝には間に合いまへんでしたけど、昼にあっためなおしてもそれなりには食べれますんで」
「ありがとうございます」
にっこり笑うオウキーニから鍋を受け取ったとき、
「ちょっと、カイルと。物陰で何こそこそ……って、あら、オウキーニじゃない」
顔つき合わせるとカイルの後ろ姿を見咎めたスカーレルが、笑みを浮かべてやってきた。
「はあ、先日はどうも、お騒がせしまして」
恐縮して頭を下げるオウキーニを軽くいなし、スカーレルもまた、の手にした鍋が気になったようだ。「なあに、それ?」と云いつつ、すでに半分持ち上げられている鍋の蓋あたりに視線を固定。
「オウキーニさんが作ってきてくれたんですよ。昨日の騒動のお詫びですって」
「へえ、気が利くわね。どんなのかしら?」
「こないだ宴会のときのも美味かったもんな。、早く開けてみろよ」
わくわく。顔に書いて覗き込むふたりに急かされるように、また、自身の期待にせっつかれるように、は鍋の蓋を持ち上げた。
――とたん。
目に入ったのは、
「――――きゃあああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」
何かを認識する前に、スカーレルの悲鳴が、その場にいた全員の鼓膜をつんざいていた。