朝陽がさんさんと降り注ぐ砂浜で、アティは素っ頓狂な声をあげていた。
「!? 何やってるんですか、こんなところで!!」
昨日もらった休日のおかげで気分は爽快、いつもよりちょっと寝坊しちゃったけれど、それはみんなも同じらしくて早起き勝負は一本勝ち。ならば一足先に水でも汲みに行こうかとレックスに声をかけ、先に下りてきた船の傍で。
……何故か、が、寝こけていたのだ。
「……はにゃ?」
さぞ寒かったろうに、何故か健やかな寝息をたてていたも、さすがに悲鳴にも似たアティの声に目を覚まさざるを得なかったらしい。
身体を預けていた樽から起き上がり、まだ焦点の合ってない目でアティを、というか声のしたほうを見上げて、意味不明の音を出す。
そんな彼女に、アティは慌てて自分のマントをかけてやった。
「メイメイさんみたいなこと云ってないで! 何してるんですか、もう! まさか一晩中ここにいたんですか!?」
「ぷー」
傍で丸くなっていたプニムが、の代わりに頷いた。こちらも別に風邪をひいたような様子はないが、ちょっとだけ億劫そう。
そんな相棒をちらりと見て、ようやくの意識も浮上したらしい。
「……んあ。は? あ、おはようございます」
「おはようじゃないです!」
アティを認めるや否や、朗らかに発された挨拶を一刀両断し、アティはの額に己の額を押し当てた。
「ん、熱はないですね」
熱どころか、ひんやりだ。
砂浜に一晩中いたんなら、それも無理はないが。
だが油断はならない。早急に部屋に連れて行ってあったかくさせなければ。
そうして伏せた瞼を持ち上げて、アティは――ちょっと固まった。
「いや、だいじょうぶですよ?」
心配性だなあ、アティさんて。
そう云って笑ってる、翠の双眸が目の前にあったから。
自分でくっついたのだから、それも当然なんだけど。うん、そんなふうにやわらかく笑ってるから、どきっとしてしまった。
――どうして。
このひとは、こんなふうに笑うんだろう。
年下の子なのに。わたしのほうが年上なのに。
見守られてるような気分になるのは、どうしてなんだろう。
……ううん。
どうして、このひとは、こんなふうにわたしを見るの?
まるで、――――みたいに。
翠の双眸が、ずい、と目の前に在った。
「アティさん?」
「あ」
まばたき、一度。それで、ぼやけてた彼女の輪郭が元に戻る。
ぼやけてた輪郭は彼女のじゃなくて、別の――別のひと、だけど同じ赤い髪の。
そう。
さっきと同じ表情で自分を見る、――――
「あのー。アティさんのほうが体調思わしくないんじゃ?」
かなりいぶかしげに云って、が手を持ち上げる。おもむろに指を立て、彼女は問うた。
「はい、これ何本か判りますか?」
「……三本です」
むぅ、とむくれて即答。
だけどはにんまり笑い、
「ブー。人間の指は五本です」
告げられた解答、
「…………」
沈黙は数秒。
そして。
「――――っ!」
からかいましたね!? と、真っ赤になって爆発したアティは、とっとと逃げ出していたを追いかけて走り出したのだった。