聞き込みは終了したが、話の内容自体は事前にキュウマから聞いたものとさほど変わらなかった。
かくれんぼの隠れ場所を探して小屋の近くまできたら、焦げ臭いにおいが漂ってきて――以下同文。省略。
進展といえば、最初に燃え出したのは小屋ではなくて、傍に積んであったワラの山だったということか。あと、子供たちは火事の原因になるようなことはしてないってこと。火は危ないから自分たちだけで使うな、って、それぞれの親御さんから云われてるらしい。
それから、パナシェ曰く“いやな奴らのにおいがあるみたい”……らしい。ジャキーニにはわりと懐いてるらしいから、“いやな奴”なんて称されるのは、この時点で一団体のみ。
帝国軍か、と、半ば予想はしていたとヤードは、さしたる驚きもなくそれを書き留めた。
「うーん、結局、目立った変化とかはナシですか」
なんか予想が確信になっただけ、って感じですね。
「だからぁ、この燃えカスから犯人の姿を」
「はいはいはいはい」
しつこく食い下がる紅い頬のひとを、ちょっぴり邪険に手で払い、はヤードに向き直った。
背後から泣き崩れる声が聞こえるが、スバルとパナシェが慰めてるようなので、回復は早いだろう。なんだったら、あとで龍殺しでも差し入れておけばオッケー。
……それにしても、レックス、アティ。頭数に入れるなら、せめて、酔いの抜けてる状態のこのひとをつれてきてください。
これならむしろ、船の守りのためにお留守番してる、プニムやアール、テコにキユピー、オニビのほうがよっぽど……っていや、話すことばの判らなさ加減じゃどっこいか?
の心中で不思議ことば仲間に入れられてることに気づかないらしいメイメイが、スバルとパナシェで遊びだしたようだ。何やら話し声と笑い声が背中で交わされている。――ほら、立ち直り早いでしょ。
「早く、犯人が見つかるといいね」
の肩ごしにメイメイたちのほうを見たイスラが、苦笑まじりにそう云った。
本当にね、と、も頷く。
さいわい、島のひとたちと仲良くなれた後だったからよかったものの……これがちょっと前だったら、嫌疑が真っ先に自分らにかかってきてもおかしくなかったのだから。
しかも、これまでこういった事件なんて全然なくて、平和だったらしいというから、自分たちが何かのきっかけになっちゃったんじゃないかと罪悪感ひたひた。あの剣が出た時点で、ただごとじゃすまないとは思ったけど……本当に、次から次へとよく問題が起こるものだ。
「しばらく、こんな調子?」
「そうだねー……片がつくまで、遊べないかも」
「……そっか」
ちょっと残念そうに、イスラが笑う。
云っているのほうは、アティとの約束もあるために、ちょいと予防線を引いておこうかな、のつもりもあって――余計に申し訳なかったりして。
「そろそろ時間ですね」
ふと太陽の位置を見て、ヤードが云った。
今後狙われそうな場所の確認、警戒の手はずを、彼と向かい合って検討していたキュウマが、つられたように顔をあげる。
「時間――……レックス殿たちとの合流ですか?」
……今、レックスたちの名前が出るまでに、少し空白があった。
しっかりそれに気づいて、は口元を奇妙に歪める。笑いをこらえようとしたのか、複雑な感情そのままになりかけたのか、それは判らない。
が、がラトリクスに向かった先日、レックスたちがキュウマに特攻をかけて何がしかの結果を得たのは間違いないだろう。……他の人間を関らせたくないオーラが、最近あのふたりからよく出ているため、聞くチャンスを伺っていたのだが……早めに訊いておいたほうがいいのかもしれない、こういったことは。
でも、たぶん、今日もそれは後回し。
集落の調査が終わったら、集いの泉に集まって報告と話し合いをする予定だから。ちなみに、護人は不参加。集落の安全を守ってほしいし、こちらはあくまでもレックスたちの独断による行動てことで。
泉の使用許可はちゃんととってあるから、問題もナシだ。
「では、そろそろおいとましましょうか。キュウマ殿、どうぞお気をつけください」
「お心遣い感謝します。健闘を祈ります」
うーむ、堅物ふたりが揃うと、挨拶まで堅苦しい。
「それじゃ、お邪魔しました」
なんて思いつつ、もぺこりと頭を下げた。
「にゃはははっ、まったねぇ♪」
メイメイが、陽気に子供たちに手を振った。彼女のノリのよさは、お子様たちには人気らしい。
「じゃあな、ヤードさん、、メイメイねえちゃん!」
と、しっかり再教育を施されたスバルが、元気に手を振って応えた。
隣のパナシェは、やヤードと同じように頭を下げて――身を翻す。
「それじゃ、ボクも、そろそろ帰ろうかな」
「あれ? 遊んでいかないの?」
「パナシェの母上から、家の手伝い頼まれてるんだってさ」
仲良く転げまわるふたりを想像してたの問いに、スバルが、頭の後ろで手を組んで応じた。
小火騒ぎで物騒なこともあるし、しばらくの間、長時間の遠出は避けるように、とのことなんだそうだ。今日出てきたのは、あくまでも小火の調査協力のため。
「だから、ユクレス村まで散歩がてら送っていこうかって話してたんだ」
「僕も一緒に行きますから、キュウマさんは、郷の守りに集中してください」
「そうですか……ではイスラ殿、お願い出来ますか」
「ええ。このくらいの距離なら、万が一もないと思います」
イスラが云うように、ユクレス村と風雷の郷の距離は、わりと近い。スバルとパナシェがよく行き来するため、整備されてるわけではないけれど、通りやすいルートだってある。
以上を鑑みれば、行って帰るくらいならば特に問題はないだろうと思えた。
そんな会話を横手にしながら、ヤードがとメイメイを振り返る。
「訪れておいて素通りもなんですし、ミスミ様に挨拶してから行きましょうか」
「にゃはは〜、そうしましょそうしましょ♪」
「……メイメイ殿。ミスミ様の御前では、少々謹んでいただきたい」
「む・り♪」
「メイメイ殿ッ!」
にゃへらっ、と相好を崩しまくって即答するメイメイに、キュウマのカミナリが炸裂した――が、相手は(誰も知らないが)悪魔王相手に動じることなく接する胆力の持ち主。
ちっとも効いた様子なんかなく、あまつさえ、
「うぅん、イケズ〜。あんまり煩いと、女の子に嫌われちゃうぞっ?」
怒鳴った直後であるキュウマの隙をつき、ちょんっ、と頬をつっついて云う始末。
「な。」
弱点を突きまくった一言に、あわれ、キュウマの思考は回転を放棄してしまったらしい。
だが生体反応は正直だ。真っ赤になって真っ白になって、小刻みに震えて――最後に、こめかみに三叉路が浮かんだ。同時に、急停止した思考が回転を再開したらしい。
ぐあっ、と、すでに己から距離をとったメイメイを振り返り、
「――――メイメイ殿――――!!」
「にゃーっはははははは、まだまだ青いわね〜っ!」
うろたえまくるシノビ、勝ち誇った占い師の巻き起こす喧騒の傍らで、たちは、
「じゃ、行ってきまーす。、母上に云っといて」
「了解ー。パナシェもイスラもまたねー」
「うん、またね。今度遊ぼうね」
「じゃあ行こうか、ふたりとも」
「さん、私たちも行きましょうか」
……慣れた調子で、各々の行動を開始していたのであった。
蛇足ながら、さんざメイメイにおちょくられたキュウマが、とヤードに追いついたのは、ふたりが御殿に着くちょっと前だった。
それまでいったい何をやられてたのか、それは訊くだけ野暮というものだろう。……それにしても、メイメイさん、ほんとにいったい何しに来たのさ?