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【放火魔は誰だ】

- 火事場調査隊 -



 じゃあ、まず班分けだな。と、船の外に集った一行を前にして、レックスが云った。
「一応俺たちで考えてきたけど、異論があったら云ってくれ」
「「はーい」」
 所々からあがる元気のいいお返事に、レックスとアティは破顔して、手にしたメモを読み上げた。

「一班、担当区ラトリクス周辺。俺、ベルフラウ、スカーレル」
「二班は狭間の領域です。わたし、アリーゼ、ソノラ」
「三班がユクレス村。カイル、ウィル、ナップ」
「最後に四班ですが、風雷の郷をお願いします。ヤードさん、、メイメイさん」

 ……
   は?

 目を点にした一行の前に、すちゃっ、と赤い人影が飛び出してきた。
「にゃはは、みんなこんにちは〜げんきかな〜?」
 よいこのテレビ番組か。
 にこにこ、ひらひらと手を振ってやってきたメイメイが、実に自然な動作でその場に紛れ込む。
「あ……あのっ!」
 授業中を思わせる勢いで、ウィルが手を挙げた。
「なんでこのひとまで……っ!?」
「暇だから♪」
『おい!』
 即座に答えたメイメイに、一行のツッコミが同時炸裂。
「なんていうのは、冗談として〜」
 それをものともせず、メイメイはやっぱり笑ったまま、とヤードの肩に手をおいた。
「放火が、うちのお店までこないとも限らないでしょ? だから、これは立派な自己防衛、備えあれば憂いなし! というわけで、ちゃんヤードさん、よろしくね〜?」
「学校の帰りに逢ってお話したら、ついでもあるし、って自分から申し出てくださったんですよ」
「メイメイさん、よろしくお願いします」
 負けず劣らずにこにこ笑うレックスとアティを見、肩に置かれたメイメイの手を見……顔を見合わせるとヤードには、やけに同情的な周囲のまなざしがそそがれていたのであった。


 ともあれ、他に異論もなかったため、調査は開始された。
 とはいっても、火事が起こったのは昨日のこと。かつ、気づいて消火されるのが早かったため、たいした被害も出ていない。
 それは、がマネマネ師匠から聞いた情報どおりだ。
 だが。
 師匠はさらに気になる情報も、告げている。――自然に発火するような場所でないところから、火の手があがったということだ。
 そこから導き出される、もとい推測される結論はひとつ。

 ――放火。

 ただの小火なら、今後気をつけようね、で済むが、人為的な火事となれば、これは放っておけない。
 そんなことをしそうな相手が満場一致で出てきそうだし、原因を突き止めないことには住人たちの間に不安が広がる怖れもある。
 ……不安というものは、ときとして、萎縮する以上にひとの凶暴性を剥き出しにしかねない部分があるのだ。
 かくして、レックスをはじめとする船の面々は、護人たちの協力を得て現場検証及び各集落で怪しそうなところを前もってチェックしておくことに決めたのである。

「……すぐこれといった収穫が出るとは、思っていませんから……今日のところは、小火の起こったという小屋を見ておきましょうか」
「はい」
「はぁい♪」
 風雷の郷は、先日小火騒ぎが起こっている。ちなみにユクレス村もそうだ。
 ラトリクスと狭間の領域は、まだ無事。少なくとも今日までは。
 この二箇所は狙われる可能性も低かろうが、護人と相談もしておきたいとのことで、前述の班割りどおり、レックスとアティが向かった。
 んでここ、風雷の郷担当はたちだ。
 正確には、とヤードとメイメイ。……云っちゃ悪いけど、ヤードさん以外役に立ちそうにないですよ?
「こちらです」
 すたすたと前を歩くキュウマの背を見て、ちょっと訂正。
 キュウマさんとヤードさん以外、役に立ちそうにないですよ?
 ぶっちゃけ、女性二名が。
「うーん、いつ見てもストイックな御仁だわねぇ」
 ま、プロの目で見るとストイック分がちょっと足りないかなあ、まだ悟りきれてない感じぃ、と呑気に笑っているメイメイが、ちょっぴり羨ましい。
 本日の案内人であるキュウマの背を見るの目は、少しばかり複雑だった。
 云うまでもない、先日の喚起の門暴走騒動だ。
 そのあたりの事情を、レックスたちは誰にも話さなかった。つまり、ヤードも知らない。知らないから、わりと気軽に当日の様子を聞いていたりする。
「では、スバルくんとパナシェくん、それにイスラさんが第一発見者なんですか」
「ええ……かくれんぼをしていた際、焦げ臭いにおいに気づいたそうです。発見が早かったため、幸い、大事にならずにすみましたが」
 小屋自体は、郷のはずれ――わりと人の近寄らない場所にあるそうだ。
 なるほど、かくれんぼや人知れず放火を行うには最適、というわけか。イスラやスバルたちには悪いが、かくれんぼしててくれてありがとう、ってなもんである。
 などと思いながら歩みを進め、一行はそこに辿り着いた。
「あや? あれ?」
 手でひさしをつくりながら、メイメイが云う。
「誰かいるわよ?」
「スバル様たちです。自分よりもはっきりとした証言が得られるでしょうから、協力をお願いしました」
「そうですね、当事者ですし」
 こくりと頷いてヤードが同意した。
 それはいい。
 それはいいんだが……じゃあ、やっぱり、あのちっちゃい子ふたりの横にいるのって……
!」
 やっぱイスラか。
 にっこり笑って手を振るイスラを見、は、今朝がたアティと交わしたばかりの約束を思って、ちょっぴり遠い目になる。
 が、これはあれだ。
 いわゆる、不可抗力というやつだ。
 アティ、恨むなら班割りをした自分たちを恨んでね。
「やほー」
 ともあれ、イスラに応えるべく、もひらひら手を振った。
「ま、青春♪」
 後ろで頬に手を当ててよろこんでる、占い師の存在はとりあえず黙殺。
 スバルとパナシェにも手を振りながら、三人の前に辿り着いた。
「よっ、! ヤード兄ちゃんも、メイメイおばちゃんもこんにちいたいいたいいたいいたいって!!」
「にゃははははははははっ、だぁれがおばちゃんかしらあぁぁぁぁ?」
 素直なために要らぬ迫害を受けるスバルを助けんと、キュウマが割って入る。
「メイメイ殿ッ! スバル様に何をなさいます!」
「保護者なら年上への正しい口の利き方、教えておくべきだわよ〜?」
 がばちょ、と奪還されたスバルは、めいっぱい伸ばされた口を抑えてちょっぴり涙目だった。
「……こ、こんにちはっ」
 一連の騒動を呆然と眺めていたとヤードに、パナシェがぺこりと頭を下げる。
 こんにちは、と応じて、ふたりはさっそく聞き込みを開始した。

 ……え? 三人の間違いじゃないかって?

「にゃはははははっ、見える! 見えるわッ! この燃えカスから、ほくそえんで着火作業する悪の姿が見えるッ!」

 これを、ひとりに数えていいと思いますか、あなた。

 無駄にハッスルしているメイメイをほっぽりだし、とヤードは淡々と、イスラやスバル、パナシェに当日の様子を聞き込んでいた。
 スバルとパナシェは聞き込みに熱中していたけれど――イスラだけは、どうしても、メイメイのあのはしゃぎっぷりが気になるのだろうか。キュウマに諌められてもくじけずにハッスルする占い師を、ちらちらといぶかしげに見ていたのである。
 だめだぞイスラ、耐性つけないと。


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