そして、やっと朗らかなひとときを過ごした一行が眠りに着いて、数時間後。
ふたつの人影が、船から人目をはばかるようにして抜け出した。
夜陰に乗じて出てきた影のひとつは、マッシュルームを思わせるシルエット。もうひとつは、ちょっと間違った忍者像を思わせるシルエットである。ああめんどくさい、要するにアティとレックスだ。
「今夜もいるのかなあ」
「判らない……でも、クノンの云うとおりなら、きっとあそこにいると思います」
いつか、同じくらいの時間に歩いた森を、ふたりは足早に進んでいく。
目的地ははっきりしているためか、足に迷いは見られない。この間のように、どこか不安定な会話もない。
が、あえて告げるならば、ふたりの表情にはそれとはっきり判る不安が浮かんでいた。
それを誤魔化すように、レックスがぽつりとつぶやく。
「イスラさん……どうして、夜に出かけたりするんだろう」
「…………」
アティは黙ってかぶりを振った。先刻と同じ、判らない、の意思表示。
――ラトリクスからアティとカイルが持って帰ってきたのは、部品とプニムだけではなかった。
ちょっと挨拶していきましょう、と、カイルとプニムが荷物を積み込んでいる間に中央管理施設でアルディラに逢ったあとリペアセンターに向かったアティは、当然のようにクノンと顔を合わせた。
軽く挨拶を交わし、イスラにも、と申し出たアティに彼の不在を告げたクノンは、彼女にこう告げたのだ。
曰く、
患者ことイスラが夜間に無断外出をしている。
短時間なので黙認はしているが、好ましくない。
出来ればそちらのほうから、それとなく注意しておいてほしい。
――とのことだった。
そして、アティとレックスには、それに思い当たる節がある。
数日前散歩に出た折に、ふたりはイスラと遭遇した。誰もいない夜の浜辺で、誰に云うでもなく何かつぶやいてた彼と。
……普通に考えると薄ら寒くなる光景だが、ふたりが気にしているのは、そんなことじゃない。
だって、あの日、ふたりは聞いた。
誰にとなく囁かれていた、イスラのことばの内容を。夜風に紛れて溶け消えかけていたそれは、その瞬間こそ、彼があんなところにいる意外性に飲まれて気にも留めて無かったけれど……
「――いないでほしいって、思う」
硬い声でつぶやかれるレックスのことばに、アティもこくりと頷いた。
「のためにも……」
いないでくれ。
眠っていてくれ。
気にも留めていなかったことばは、時間を置くにつれてじわじわと……そして、クノンとの会話で決定的にカタチになった感じだ。
この間とは別の意味で、ことば少なにふたりは歩く。
歩いて――
「…………っ」
夜闇の向こう、木々の先。真っ黒い海を向いて立つ人影を目にし、愕然と、その事実を受け入れた。