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【ふたりは島を往く】

- 一日終えて -



 ところがどっこい。
 船に戻ってみたら、とっくにその話は知れ渡っていた。
 出所は、レックスとアティ、それに子供たちである。
 が見たのとはまた別の場所で、彼らも学校帰りにその光景を目撃したらしい。スバルとパナシェを送っていった後でよかった、もしあの子たちまで見てたら島中に話して大騒動になるとこだ。ナップたち? ――うん、この子たちは割といろいろわきまえてるし。
 ともあれ、事の次第を話し合い、護人たちの会議の結果が出るまではこちらからヘタに行動をとらないようにしよう、ということで話はまとまった。
 完全に聞き手だったカイルたちにも異存はなく、平和そうに見えても物騒なんだな、といった感想が出たくらい。
 で、レックスとアティは、明日の朝ミスミと逢う約束をしてるのから、そのときキュウマにも話してみるそうだ。護人会議が何時からかは判らないけど、もし先に逢えたら、ってことで。
 そんな話をしてると、ナップが、ふと首をかしげてこう云った。
「なあ、先生。それじゃあ、オレたちの親にもそういったこと報告するのか?」
 問われたレックスとアティは顔を見合わせ、
「もちろん」
 ――にっこり笑って、断言した。
 う、と、訊かなきゃ良かった的顔色になって、ナップくん硬直。
 ウィルとベルフラウはそんな兄を見て、しょうがないなって表情。アリーゼは、なんだか緊張したみたいだ。
「……どんなことを書くんですか?」
「こーら? それは訊かないお約束じゃないかしら?」
 ねえセンセ? と、スカーレルが横槍を入れる。
「そうですねえ。どんな項目があるか知っちゃったら、気になるでしょう? ですから、みんなには秘密なんですよ」
「だいじょうぶだよ、色つけたりなんかしないで、ありのままに報告するからさ」
 胸を叩いて断言するレックスに、だから余計に困るんだよ、とぼやくナップの声は果たして届いていたのだろうか。
 なんとなくじゃれはじめた、先生と生徒たちはさておいて。
 何か考えてたらしいヤードが、「む……」と一人ごちた。
「……どうかしました?」
「いえ……少々気になることが」
 そう答えるヤードへ、なんだなんだと視線が集まる。
さんやレックスさんたちの見た光景、護人たちでも初めてのものだそうですが……そうなると、その犯人――がいると仮定してですが――どこから来たのでしょうか?」
「……あ」
「そりゃ……そうだわね。突然変異じゃあるまいしねえ」
「突然変異で爆発増殖? いくらなんでもそりゃないよー」
 帝国軍でないことは確か。
 島の住人なんてことはもっとありえない。
 かつ、カイル一家をはじめとするこの船の者たちだって、当然除外。
 そうそう、メイメイも以下同文。
 となると、あれが自然災害でない場合(ほぼ違うだろうが)の犯人は、いったいどこからやってきたのか。ヤードは、それを考えてたらしい。
「まさか、空から突然降ってきたわけでもねえだろうしなあ」
 天井を眺める仕草をして、カイルが云った。
 が、
「そうなんです」
 ヤード、真面目な顔してそれに頷いてみせる。
 云ったカイルが目を丸くした。
「おい、客人。オレは冗談で云ったんだぞ」
「判ってます。私が云いたいのは、“突然”ということなんですよ」
 何か引っかかっていたんですが、カイルさんたちのおかげではっきりしました。真顔で云われて気圧されたらしく、カイルは「お、おう?」と、返事のようなそうでないような感じで応じている。
「……ははあん。そういうコト、ね?」
「どういうことなんです?」
 得心顔で頷くスカーレルに、ウィルが問いかけた。傍にいたテコが、疑問の度合いを示すかのように深く首をかしげてる。
「ミャ?」
「つまり、こういうことよ。突然生き物が出現する――これって、何か思い当たらない?」
「……あ! 召喚術!?」
 スカーレルのことばに含まれたものを真っ先に理解し、アリーゼが叫んだ。
「そっか……でも、この島で召喚術を使える人は、それこそ限られて……」
「そうね。ヤード、それはどうなの? アタシもそこが疑問なんだけど」
「――人ではないとしたら、どうでしょう」
「へ?」
 また何を、突拍子もないことを。
 思わずツッコミかけるが、普段でも真面目なヤードが、今はさらに真剣度倍増してる。ヘタに茶化すと、後が怖い。
「この島は、召喚術の実験場であったと云います。また、護人のひとりであるアルディラさん自身が、当時の施設が遺跡として残っていると云いましたよね?」
「あ」
 今度は、レックスが頷いた。
「そうか、あの日見えてた何かの建物……」
「あー! あれですか!?」
「ええ、ありました!」
 いつぞやの集落めぐりツアー参加者、つまりとアティもそこで納得。
 残る人々へ当日のことを説明し、そこで全員が頷いた。
「つまり、その遺跡に何か関係があるかもしれないと仰るんですの?」
「はい、予測ですが。しかし、誰にも心当たりがない以上、第三者的なものが必ず存在していると思うんですよ」
 となれば、いかにも怪しげだったあの遺跡に連想が向くのは、ある程度必然だというわけで。
「……まあ、どっちにしても、護人会議の結果待ちだな」
 考え込みだそうとした一行の気を散らすように、カイルがぽつりとそう云った。
「明日は、あまり遠出しないようにしとこうぜ。幸い学校も休み――だったよな」
「ああ。明日は、午前中に風雷の郷へ行くくらいだよ」
 昼からは、この子たちの授業をするつもりだし。そう云うレックスの脇から、ぬっ、とスカーレルがに近づいた。
、明日の約束はしてるの?」
「……何にんまり笑ってんですか、スカーレルさん」
 そんな危険なもんがいるなら、病人つれて出歩くわけないでしょーが。
 いったい何が楽しいのだろう、うふふと笑ってるスカーレルに、は渋面をつくって答える。
 事実約束はしてないし、クノンも、森をめちゃくちゃにした原因がはっきりするまでは散歩は控えるように、とイスラに云ってた。ちなみにイスラはちょっとがっかりしてたみたいだけど、反対はしてなかった。
「ならだいじょうぶね。他に、遠出する予定のあったコは?」
「僕たちは、ありませんよ」
「アタシらも、別にないでしょ?」
 ウィルが応じ、ソノラが答える。
 唱和するようにちびっこ召喚獣たちが鳴いて、これで、一応明日の予定は立てられたのである。

 ――予定は未定。そんな古の格言は、そのとき、誰の頭にもなかった。


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