そんな微笑ましい光景のあと、すっかり子供たちと打ち解けたイスラは、体調が良かったら今度遊ぼう、とまで約束してた。今日は、と散歩っていう予定があるからだ。
としては別に途中解約でも気にしないんだけど、子供たちは学校があるからそうもいかない。よって本日は初志貫徹。
そう決めてやってきた場所で、とイスラは途方に暮れた。
次の目的地を尋ねられて、近いからユクレス村、と答えたら、レックスとアティ、それにマルルゥが「ぜひ芋畑に行ってみて」と云っていた理由が、ここに来て判ったのだ。
てゆーか、思い出しとくべきだった。
芋畑の世話を任されてるのは、ヒゲつきドクロ旗も輝かしい、陸にあがったジャキーニ一団だったということを。
「ぬがああぁぁぁぁぁぁ!! 何故じゃ! 何故ワシはモグラの一匹も叩けんのじゃああああぁぁぁぁぁ!」
「そりゃ、そんなめくらめっぽうにトンカチ振り回してるんじゃ、当たるもんも当たりませんわ……」
「黙らんかいオウキーニ! ええい火を持って来い大砲準備じゃ戦争じゃああぁぁぁぁ!!」
「落ち着いてくださいってあんさん!! また明日先生たちが来はったときにお願いして、モグラ退治してもらえばええやないですか!!」
……あー。どうしよっかこれ。
生ぬるい笑みを浮かべて、は立ち尽くす。
当然、全然彼らに対して免疫のないイスラも立ち尽くす。
だがしかし。
今のオウキーニの科白、ちょっと引っかかる。
レックスたちに退治してもらえばいい……って、まさかあのふたり、青空学校がないときはここに来て肉体労働してるのか?
「こんにちはー」
「ひいぃッ!?」
普通に声をかけたを見て、ジャキーニは全速力で後ずさる。失礼な。「おおおおおおお、おまえ、あんときの怪物娘っ子!?」
「……かっ飛ばせプニム」
「ぷぅいぷぷー!」
「ああっ、待っておくんなされ! ニイさんに悪気はおまへんのやー!!」
半眼になったの合図で前進開始したプニムを、がばりとオウキーニが抑えにかかる。
「ぷー!」
「負けまへん! こんなちっこい子には負けまへんでー!」
力むポイントが違う気がするが、そこらの成人顔負けな力持ちプニムを、どーにかこーにかながら抑えこんでるオウキーニ。
そういや、前に戦ったときは直接ぶつからなかったけど、わりと一撃当たると痛そうだったな。
ともあれ、いつまでも脱線してるわけにもいくまい。
青空学校に引き続く漫才劇のせいで、イスラがすっかり間の抜けた顔してるし。
なので。プニムへの指令を撤回し、まずオウキーニを解放。それから、はつつっとジャキーニに詰め寄った。
「誰が怪物ですか、誰が。あたしはオーガの親戚なんていませんよ」
が、ジャキーニは性懲りもなく、じりじりと下がりつつ絶叫する。
「嘘つけぇ!」
ワシの必殺技を避けるなんて、人間外でなきゃ出来んわぁぁぁ!
「あんなアホな必殺技、誰だって避けれるでしょうが!!」
「いっぺんあさって向いたあとに避けるんが人外だと云うとるんじゃ!! あとアホ云うな、あれでも毎回ネタ考えとるんじゃぞ!!」
「考えとるんかいッ!!」
――あ。口調伝染った。
「……わりと気が合うんじゃおまへんやろか、あのふたり」
「……そうですね。ところで、あなたはどなたですか?」
「ウチでっか? オウキーニいいます。別嬪さんはなんて云いますのや?」
「僕はイスラです」
「「そこ! のほほんと打ち解けてるんじゃねえッ!!」」
――打ち解ける以外することがないんですが、と、オウキーニとイスラは声を揃えて、とジャキーニのツッコミに張り合った。
ともあれ、ジャキーニの件に関しては一応解決してるのだ。ここでヘタに波風立てて騒動になっては、のどかな芋畑が台無しである。
無駄に警戒してくださるジャキーニは放置決定。オウキーニに話を訊いてみたところ、どうやらこの芋畑周辺には、ヘルモグラという性質の悪いモグラが生息してるらしい。それらが畑を荒らして、芋を食ってっちゃってるとのこと。
先日訪れたレックスとアティが、そういうことなら、と、一肌脱いでモグラ退治。それでいったんはおさまっていたものの、今日になってまたしても、モグラの暴れた痕跡があって。
「――それで、ウチのニイさんが癇癪起こしたってわけですわ」
「なるほど」
昔からモグラとの戦いは続いていたのだろう、わりと使い込まれた感のある木槌を片手に、は頷く。
木陰に座ったイスラが、畑の真ん中に陣取る少女に
「がんばれ、!」
とご声援。ありがとう。
オウキーニは畑のふち、ジャキーニもその隣。「はん、あんな細こい腕で何が出来るんじゃい」とかブツブツ云ってるけど、邪魔をする気はなさそうだ。ていうかジャキーニさん、あんたこないだ、その細こい腕の女に負けたでしょうが。
これから何があるか、一目瞭然の配置。まあ通りかかったのも何かの縁だし、ということで、急遽、がモグラ退治を引き受けたのだ。レックスとアティにばっかり、がんばらせるわけにもいかないしね。
ぶん、と木槌を一閃し、は、モグラが出現するという穴っぽこを見据えたのであった。
――――で・結果は云うまでもなく。
最初と打って変わって大喜びのジャキーニたちから、とイスラは果物一籠と清酒龍殺しを頂戴し、ユクレス村を後にした。