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【再び girl meets boy】

- 大きくなったね -



 夕陽の差し込む窓辺から、アルディラたち以外にその光景を見下ろす者がいた。
 リペアセンター唯一の客人、と云えば、その把握も容易だろう。
「……」
 面会人に向けていた笑顔はどこへやら、面白くなさそうな顔で、その人物はつぶやいた。
「もう少し、……」
 それくらいの我侭を通す道理の隙間は、まだ残ってるはずなんだから。



 錯覚だったのかもしれない。
 だけど、そのときたしかにそう見えたのだ。
 彫像めいた笑顔の記憶しか見たことがなかったはずの、あの小さな子たちが、これ以上を望むのは不遜だって思わせるほど満面のそれで、に笑いかけてくれるのが。
 ……ほだされた、のだろうか。
 待ってくれ成人、と、だってたしかに思ったのだけど、手がそれを無視して動いていた。
 顔の筋肉がほころびまくってることは、その時点で自覚した。
 ひどく、あたたかい気持ちだった。
 叶うことなら、このままふたりともめいっぱい抱きしめてしまいたいくらいの衝動。
 小さかった彼らしか知らないこの腕は、こんなに成長したふたりを抱いたら、きっと溢れて零してしまうだろうけど。それさえ、何より嬉しいことだろうと思った。
 だけど、それは出来ないこと。
 今ここにいるには、そこまでする理由がないのだから。……ただそれだけを念じて持ち上げたの腕を、心得た、いや、待ってました。そんな仕草でレックスとアティは受け入れた。
 彼らの、そんな笑顔。そんな仕草。
 背はを追い越すほど伸びて、今や子供たちを導くまでに成長したふたり。

 ――この気持ちをなんて云うんだろう。
 置いていかれた、と悔しがるより先に胸を埋め尽くす、このあたたかな感情に名前があるのなら、どうか教えてほしい。そう思いながら。

「……よくできました」
 いつまでも撫でていたい気持ちを断ち切るようにそう云って、は、ゆっくりと手を離したのだった。

 ……大きくなったね。本当は、そう云いたかったけど。



 幸い夕陽が沈みきる前にラトリクスを辞した三人は、夜の帳が下りるより先に船に戻ることに成功。
 道々イスラの容態を話し、記憶はないけれど体調にあまり不安は見られない旨告げると、レックスもアティも自分のことのように喜んでいた。明日また面会に行くから一緒にどうか、と誘ってみたけれど、学校があるから無理とのこと。
 ちょっと残念、そう思っていたら、
「じゃあさ、外出がだいじょうぶそうだったら、顔見せがてら散歩に連れ出してあげたら?」
 ぽん、とレックスが手を叩いてそう云ったのは、もうそろそろ船が見えるって地点でのことだった。
「あ。それいいですね!」
 ぱん、とも手を打ち鳴らす。
 病気だからって部屋にこもってちゃ、身体もなまろうというものだ。動けるのなら動くほうが、きっと健康にもいいはずである。

「そのついでに学校に来てくれたら、子供たちにも逢えますしね」

 アティも微笑んでそう云ってくれたため、明日は(まだ本人の許可とってないけど)島の散策大決定となりました。


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