あなたの選ぶ道は、いつもくびきが前提。だのに、だからか。それから逃れようとさえしていなかった。
私がそれを見て、どれだけ妬ましいと思っていたか知らないでしょう?
あなたをとらえたままの存在にも、振り払おうとしないあなた自身にも。
私は、だからそうしたのです。
それがあなたの心をどれほどに痛めるか知っていても。
それは私のエゴ。けれど当然の。真実。
あなたの選ぶ道は、いつも囚われの歩み。
けれど、今のあなたにそれはない。
今のあなたは、あなたの心の本当に思うところを、歩いていく。
そうして、いつかすべてを手にしたそのときに、また笑ってみせてください。あなたの笑顔が好きでした――好きです。
いつか、
すべて取り戻したそのときに、あなたがまたその道を選ばないように。選ぶことなど出来ないように。
そう、だから私は――
調弦の終わった竪琴を机に置き、レイムは口ずさんでいた歌を止める。
聴いていたビーニャが、ほぅっとした表情で話しかけてきた。
「レイム様、それは今つくったんですかァ?」
「ええ。即興ですから大したものではありませんがね」
そんなコトないですよぉ! と、一生懸命に云ってくるビーニャに微笑みを返したあと、レイムはふと、傍にあった写真を手にとった。
……何やら色あせた染みが点々と存在しているのはこの際見なかったことにしておくのが吉。
写っているのは、いつかの港町。この腕に一時とはいえ、抱きこめた少女。
小柄な黒髪の少女。
記憶をなくしてそれでも笑っている、あの子。
衝動を抑えきれなかったらどうしようかと思いましたが……ふふふ。
抑え込んどけ一生。
そんな天の声はさておいて、レイムは写真から視線を外した。
「さんは、どんな様子でしたか?」
ローウェン砦とトライドラ、過去はスルゼン砦でも、それぞれとの邂逅を果たした三悪魔に問いかける。
そのことばを聞いた悪魔3人は、顔を見合わせた。
それは一瞬の間のアイコンタクト。
(ちょっと、正直に云っちゃっていいワケ? 聖女の一行とすっごく仲よさそうにしてましたーって)
(一応、ファナンや街道で、そのくらいはご存知だろうが……)
(やめておいたほうが良いでしょう。改めて他人から云われると勘に障るものです。ここは無難に……)
(だけどォ、後でバレてアタシたちにお仕置きがくるのはヤーよ?)
(そこはそれ、ルヴァイドたちに当たらせればよろしいのですよ)
(カカカッ、実に良いコトを云うなぁ、キュラーよ)
哀れルヴァイド。
とにもかくにもその一瞬の間に意思疎通を完了させた悪魔たちは、同時にレイムに向き直って云った。
「元気でしたよ! キャハハハッ♪」
「勇ましく突っ込んできておりました」
「相変わらずのようでしたな」
それに対するレイムの反応はというと。
「そうですか……」
私をさしおいて、あなたたちは元気で愛くるしく思わず押しt(強制切断)、生のさんをその目で見てきたわけですね!
ナマモノですかあたしは。
とかなんとか、遠い地で遠い目になった誰かがいたかもしれない。
(チョット!! レイム様の後ろに黒いモノが見えるんだけどッ!?)
(むぅ、だがしかし正直に云ったよりはマシはなずだぞ)
(ですな。仕方ありません、甘んじて受け止めましょう……)
覚悟を決めた三悪魔に、レイムは、それはそれは素敵な笑顔で微笑んでみせた。
――その後のコトは、誰も知らない。
知らないほうがいい。
ただ、何やらスキップしながらデグレアを出発する銀髪の吟遊詩人の姿が見られたそうだ。
不幸にも、いや何もなかったのだが、ともあれ向かう先を問うた、とおりすがりの旅人に答えるには、ファナンを目指すのだと云っていたらしい。
折りしも、そろそろファナンでは豊漁祭の準備が始まろうとしている頃だった。