その事件は連日、新聞をにぎわせることになった。
5年以上前に行方不明になった少女が、ひょっこりと無傷で帰ってきたせいだ。
おかげで町にはマスコミが殺到し、少女も少女の両親も、記者会見やらインタビューやら。
また、かつて少女の友人であった者たちも、我先にと彼女の家に押しかけてその無事を確認し、涙していた。
――だけどただひとり。いや、ふたり。
当時、少女がおねえちゃんおにいちゃんと慕っていたふたりは、とうとう少女の前に姿を見せることはなかったけれど。
5年以上もどこにいたのか、何をしていたのかという問いも当然出たが、少女はかぶりを振るばかりだった。
何も覚えてない、と。
幼馴染みの友達の家から戻る途中、目の前が真っ暗になって、気づいたら今この場所に立っていたのだと。
けれど。
その幼馴染みのおねえさんの家を訪れて、少女はその両親にこう告げている。
「綾姉ちゃんは、きっと元気です。きっときっと元気です。自分が生きる場所を見つけて、大切な人たちと一緒に、きっと絶対元気です」
同じように、おにいさんの家と、それからあと数軒の家を訪れたらしい。
それらは、おねえさんとおにいさんを含め、1年前に神隠しに遭ったとされる高校生4人と同じ苗字の家だったそうだ。
そうして、少しずつ時が流れる。
人の噂も75日とは、よく云ったものである。
世間を騒がせた奇跡の生還も、そろそろ他のニュースに押しのけられそうになった頃。
彼女はまた、ふっつりと、人々の前から姿を消していた――
「おとうさん、おかあさん」
「たぶん、これが最後のわがままだと思います」
――だけど、今度はちゃんと、さようならを云って行く。
「さようならじゃないでしょ?」
「何があっても、ここはおまえの故郷だよ」
もう二度と、君がその声で、対になることばを聞かせてくれることはなくても。
私たちが、旅立つ君にかけることばは変わらない。
――いってらっしゃい
――いってきます