夢を、見ていたような気がした。
長い長い夢だ。
戦って、傷ついて、泣いて――歩きつづけて。
ただひとつの願いを、現実にするために。
望む未来への道を、この手に選び取るために。
……長い、夢を見ていたような気がした。
目の前では、あのときやっと再会出来たふたりが、微笑んでを見ている。
銀をまとった人が云う。
――迷惑をかけましたね
は答える。
「いやいや、あたしこそ」
何しろ、行き来するためにわがままぶっこいて門の開閉してもらったんですから。
白をまとった人が、笑って告げる。
――どういたしまして
も笑って云った。
「とりあえず、どういたしまして」
悪魔と、守護者が、微笑んだ。
もうこの呼び名は正しくないのだろうけれど。
ここに悪魔はいない。
在るのは、魂ひとつ。
ここに守護者はいない。
いるのは、魂ひとつ。
ちりちりと、静電気のようなものを感じて、は背後を振り返る。
――鎖だ。
守護者を求める世界の意志。彼女を絡め取っていた、エルゴの力の残滓。
周囲からゆっくりと、それは、何かを探すようにしながら近づいてきた。
けれど。
どんなに捜しても、もう、さがしものが見つかることはないんだろう。
守護者は、たったひとつを選んだ。
悪魔は、たったひとつを思い出した。
そのたったひとつは、がずっと願っていたものだった。
大切な人たちと、笑っていられる明日。それが、今日になったのだ。
――守護者と呼ばれる人はいない。悪魔という存在はいない。
ここにいるのは、魂ふたつ。
「たったひとつのために他を壊す必要、なかったでしょ?」
そう云うと、銀色のほうが苦笑のような雰囲気に変わった。
白色は、まったくだ、とでも云いたげな空気を浮かべる。
長い間凝った、淀んだ、妄執が消えて。
長い間悔いた、魂を縛る、鎖も消えて。
余計なもの全部除けて、最後に辿り着いた、彼らの道。
ふたり立つ。ただ、共に在れる道。
光が降り注ぐ。
白と銀の混じった、やわらかな、あたたかい光が場に満ちる。
「もう、だいじょうぶですよね?」
ふたつの魂が、微笑って頷いた。
鎖ではなく妄執ではなく。
これからはきっと、彼らの心が定めるとおりに。
――見守っていって、くれるんだろう。
光の降り注ぐ、その世界を。
かつてすべての生き物が幸福に満ち満ちていた、光の都を。
淀みを吸い、光を解き放つ、この大きな樹が。
……それは、聖なる大樹。そう、呼ばれることになる。
あなたはどうする? そう訊かれて。
「勿論――」
も、微笑った。
「帰ります」
――この意志が消えてしまえば、もう、あの世界への門が開かれることは……
――ないとは云わないけれど、まずないわよ。
それでもいいの?
「はい」
もう一度、笑う。
「だいじょうぶです。きっと、判ってくれました……と、思う」
あやふやな云い方ではあるが、その眼は迷いの欠片もない。
「あたしの故郷は、たしかに、あそこなんだろうけど」
でもね。
「あたしが、帰りたいって思う場所は――――」
喚ぶ声。応える意志。
。
――呼ぶ、声。
……
――あたしを、呼ぶ声。
――――!!
……あたしの、なまえ。
長い長い、夢を見ていたような気がした。
だけどそれが夢ではない証拠に、ほら、あの光のなかで垣間見た大きな樹が頭上にある。
さわさわと、風が梢を揺らしてる。
木漏れ日。そよ風。大地。
それから――
「ただいまー!」
応える意志。