一拍遅れて、警報が鳴り響く。
以前この内部に入った数人には、聞き覚えのある警報だった。
『警告! 警告! 外部よりハッキング!!』
そして、『声』が、緊急事態を告げる。
『未知のウィルスが、当システムを攻撃中! 防御も効果ありません、このままでは……しスてム、がガがっ、のっトらレ、ラレッ、ま……』
「ッ!?」
「ネス!!」
機械に触れていた部分を力任せに引き剥がし、ネスティがその場に膝をつく。そして叫んだ。
「ウィルスじゃない!」
荒げた呼吸を取り戻すため、一拍の間を置いてつづける。
「もっとタチの悪いものが侵入した……!!」
「いる……! あいつが、まだ……!」
重ねて、ハサハ。ざあぁっ、という音が聞こえそうな勢いで、彼女の顔から血の気が引いていた。
バルレルやアメル、ルウなど、サプレスの力に敏感な存在を中心にして、全員の身体に大なり小なり悪寒が走った。
そのなかで。
誓約者という力ゆえか、それとも幼馴染みを心配する一念か。
「ちゃん!!」
真っ先に身体の支配権を悪寒から取り返したらしいアヤが、赤いスカートを翻して階段を駆け上る。
けれど、
「――きゃ……っ!?」
彼女の足元に打ち込まれた光弾が、それを阻止した。
同じく駆け上ろうとしたルヴァイドも、続けて放たれた光弾のせいで、二の足を踏まされる。
「……!!」
雨と嵐と降り注ぎはじめた、攻撃の意志も露な光弾の幕――向こうで。
ぐにゃりと醜悪に歪んだ、触手のようなものに貫かれ、彼女は倒れていた。
気が遠くなりそうな――実際遠ざかりかけているのだが――熱が、衝撃を受けた場所を中心に生まれていた。
痛みはなかった。ただ、ひたすらに熱い。
ずぷ……っ、
の身体を貫いた何かが、内部をこすり上げるおぞましい感触を残して引き抜かれる。
「……ッ」
むしろ、その感覚のほうに怖気を覚えた。だが、苦痛の呻きは声にならない。出来ない。
吐いた息にかぶせるタイミングで、頭上から声が聞こえた。
――上? 違う。
上下左右。四方八方。
多重放送の拡大版。
この、声は。
「ふふふふふふ……あーっはっはっは!!」
なかなかの具合ですよ、この新しい身体!
「実にイイ……とても馴染みますよ? ふふふ……ははははははははは!!」
この、笑い声は。
「メルギトス……! 滅びていなかったのか!?」
驚愕に染め上げられた、誰かの声。
応えるのは、――彼。
……メルギトス
「おや」
と、彼はほくそえんだ。
「忘れたのですか? こうしている間にも、私の差し向けた軍団と、ニンゲンたちは戦っているのですよ?」
悪魔の魔力の源になるどす黒い感情を、私に提供するために……!
……声が、聞こえる。
メルギトスの、声が。
「ふふふ……今さら戦争を終えても手遅れですけれどね? この遺跡は、もはや、完全に私の手中に落ちました」
さあ、見せてあげましょう。
一気に体温を失って、麻痺しだした四肢に。
それでも聞こえる声。訴える感覚。
空間が――歪んでいく。その軋み。
「新たなる悪魔の王……サプレスとロレイラル、ふたつの世界の力を我が物とした、メルギトスの姿をッ!!」
悪魔の力が場に満ちる。
淀みがすべてを支配する。
なにもかもが飲み込まれる。
――歪んでいく。すべて。
……すべてが
壊れる
手のひらを。
握りしめる。
「――――」
それだけの力が、どこから出たのか不思議だった。
「――――っ!」
上身を起こすだけの力が、どこにあったのか不思議だった。
そのときまだ、彼女は眠っていたはずなのに。
そのとき自分は、流れ出す血をただ虚ろに見ていただけだったのに。
体力なんて、もう殆ど奪われていたのに。
「……げて」
どこから……身体を起こして、叫ぶだけの力が、出たのだろう。
「みんな!! 逃げて――――――――!!」
だけど、それは、ほんの少し……遅かった。