長年ほったらかしになっていたせいだろうか、転移してきた位置は、中枢ではなく、目当てから、少しばかり離れた場所だった。
さすがに、初めて入る内部であるためか、当初こそ戸惑った。正直、右も左も――な状況ではあったものの、まあ、中に入ってしまえばある意味こちらのもの、である。
中央に繋がるらしい端末に干渉し、あっという間に、彼は内部の位置関係を把握する。
それに加えて移動するのにしばらくの時間を費やしたけれど、彼はそれも易々と乗り越え、とうとうその場に立ったのだ。
機械遺跡の中枢部――このシステムを統括する電子頭脳と、直接交感出来るこの場所に。
「ふむ」
ざっと周囲を見てとって、レイムは小さく息をこぼす。
常にはあまり見せない、昂ぶったような色が見てとれるのは、長年の願いが叶おうとしているからだろうか。
願い。
――かつての力の復活、それ以上の能力の会得、リィンバウムの支配権……?
「……くくくっ」
愉悦の混じった笑みを浮かべて、レイムは、つぶやく。
「ニンゲンのこうした努力は、賞賛すべきものなのでしょうね」
弱い存在であるが故に力を求め――力持つ存在に頼りきり。
ここまでのものを生み出して――そのために如何なる他者の犠牲も辞さず。
「――せいぜい、利用させてもらいましょうか」
機械独特の、ひんやりとした空間が、その瞬間はそれ以上の冷気に包まれた。
レイムの語尾が中空に溶け消えてしまったあとには、再び静寂が訪れる。
冷気の残滓とあいまって、何もかもが凍りついたような静けさのなか――キィィ……と、小さな駆動音がした。
『御命令を――』
機械遺跡の『声』。
クレスメントの声紋を保ったままのレイムの声に反応してか、それとも、中枢に入れる存在に無条件に対応するようにされているのか。
感情を伴わぬ無機質な『声』が、一帯に響く。
「命令?」
出所もはきとしない『声』に、レイムも応え、口を開く。
「私の望みは、最初からひとつだけ……」
ゆぅるりと、ゆぅらりと。
鮮やかに、おぞましい、笑みを浮かべて。
たったひとつだという、願いを。彼はここに宣言する。
「このメルギトスにふさわしい肉体を、つくりあげるのです!」
ロレイラルの機械技術によって、極限まで高められた力で!
……たったひとつ、
「私が、あらゆる世界の覇者となるために!!」
間違えないで、と――
忘れないで、と――
――あれほど、云ったのに。
聖王都の一角で、占い師が頭を抱えて悶絶していたことを彼が知るのは、ほんの少し、あとになる。
そして今。彼が知り得たのは、それとは別のことだった。
「レイムさん……!」
聞きなれた、少女の声。
「それが、おまえの目的か。メルギトス」
忌々しい一族の声。
――彼の望みを阻もうとする一団が、性懲りもなく、ここまで追いかけてきたということだった。