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第60夜【朔】 七
lll どうして? lll




 光弾が、ひとつ。とレイムの間に着弾するところまでは、視認出来た。
 上から降ってきた人影が、をかっさらってその場から引きずり下げるのも、判った。

 けどそこまで。
 直後に炸裂した音と光と震動の正体までは、さすがに、一瞬判らなかった。
 たくさんの気配があるところまで連れて行かれて、ようやく、光に眩んだ視力も回復した。
 とす、と、地面に足をつけて、引きずり下げた腕の持ち主を見上げ。
「シオンさん!?」
「この馬鹿ッ! 何、敵のど真ん前でノンキに立ち尽くしてやがる!!」
 叫ぶと同時。
 拳骨で後頭部を殴られ、目の前で炸裂する超新星。
 一応力加減はしてくれたんだろうけど、いかんせん、相当怒ってるらしい彼は上手く出来なかったようだ。
「リュ……リューグ……」
 だって、レイムさんは――
「……あれを見ても、そう思うのか?」
 苦い顔で、ルヴァイドが、先ほどまでの立っていた場所を指し示した。
 そこには当然、レイムが佇んでいる。に伸ばそうとしていた側とは逆の手を、身体の前に構えて。
 おそらくは、それで光弾を防いだのだろう。黒い、闇がその手にわだかまっていた。
 ……一瞥し、生まれる疑問。光弾を見て咄嗟に作ったにしては、不自然に大きな規模。攻撃を四散させてなお、その闇は形を保っていた。
 だが、それは何のために。
「シオンさんが行かなかったら、、きっと、あれに飲み込まれちゃってたよ!?」
 震える声で、トリスが云った。
 それはレイムにも聞こえている。
 そうして、そのことばを肯定するかのように、彼は口元を押さえて小さく笑い出した。

「残念ですねぇ……」
 幻と夢にまどろんでいれば、よかったのに。
「――せめて、痛みだけは味あわせまいと思ったのですが」

 ふふ、と。ほくそえむ彼を見て、眩暈がした。
「レイムさん――!」
 憤り込めて怒鳴っても、だが、レイムは動揺の欠片も見せない。
 手首の銀へとほんの刹那視線を落とし、同じ色した髪を揺らして、
「返してくださるのでしょう?」
 問う声は、まるで、無邪気な子供のようだった。――その名や所業を知らなければ、そう信じられたかもしれない。
 だが、云っていることの内容は、無邪気とは程遠いものだ。

「眠ったままの彼女を起こすには、貴女を壊すほどの衝撃を与えなくてはいけませんよね?」
 それに、彼女を得るためにはここにある力が必要なのです。
 妨害する貴方たちは、すなわち、邪魔な存在以外の何でもないのですよ?

 それは、宣告。
 ある意味、最後通牒にとれなくもない。
 つまり。
 どちらにせよ。

「結局、テメエが選ぶのはそれかよ」

 バルレルが、心底呆れた様子でつぶやいた。
 が、挑発ならレイムの方に一日以上の長があるらしい。
「おかしなことを。悪魔とはそういうものでしょうに」
 狂嵐の魔公子ともあろう者が、随分とニンゲンに毒されてしまったようですねぇ。
 むしろ哀れむようなレイムの目つきに突つかれたか、バルレルの方が、先に忍耐の尾をブチ切った。
「るッせェッ!! いっぺんぶち壊して台無しにしといて、何また同じようなことしようとしてやがる! ちったぁ学習しやがれ!!」
 云うが早いか。
 ヒュン、と、手にした槍を回転させ、わき目もふらずに突っ込んで。

 ギヂィィッ!!

「――ッ」
 届かぬ穂先に、バルレルが舌打ちをひとつ。
 無造作にレイムが突き出した手のひら。そこにまだわだかまっていた闇が、彼の突き出した槍を受け止めた。
「……学習していますよ?」心外だ、と言外に付け加え、「だからこそ、今度は後腐れなしにすべて壊そうとしているじゃないですか」
 以前の――そう、あのときは、まだ彼女の在る世界ということで、加減していた節がなくもないですし。
「そういう方向に学習してんじゃねぇっつの!!」
 尚も押そうというのか、闇の防御を貫かんとばかり力を込めながら、バルレルが怒鳴る。が、そうしながら、どうしようもなかったというあのときを思い出したのか――ほんの一瞬だけ、表情が歪む。
 が、それはレイムが付け入る隙にまでなりはしない。いくら我を忘れているように見えても、そこはしたたかさに定評のある彼だ。
 槍を抑える反対側のレイムの手に、同じような闇が凝り始めるのを見てとって、自ら大きく後退した。
 手を出しかねていたマグナたちが、それを合図にして、一気に臨戦体制に入ろうとし――だが。
 それよりも先に、足を踏み出した人物がいた。

「レイムさん……」

 アメル。
 まだ顔色は悪いけれど、足取りは少しおぼつかないけれど。
 それでも、確りと自分の足でそこに立ち、彼女はレイムに呼びかけていた。
「貴方は今まで、人間として生きてこれたじゃないですか」
 ……どうして、そのままじゃだめなんですか?
「――――」
 ぴくり、と、レイムの肩が小さく震えた。
だって貴方だって……そう出来たら、それが――」
「……人間として、ですか」
 続けられようとしたことばを遮ったレイムの声は、だが、穏やかだった。
 そのことに、アメルがほっと息をつこうとした瞬間。


「……ニンゲンとして、ねぇ?」


 レイムは笑んだ。嗤った。
 侮蔑もあらわに。
 彼の見てきたニンゲンへの、抱いた感情もあきらかに――
 それはけして、消えることのない憎悪。

 守護者。クレスメント。ライル。召喚兵器。悪魔。天使。
 失われた後継の血。輪廻に戻れぬ魂。
 たゆたい微笑む白い陽炎。世界の代わりに壊れた彼女。

 直接の手を下したのは自分。
 けれどそうした一端をたしかに、ニンゲンが担っていたことへの。……怒り。呪わしき憎悪。


 ぶわっ、と。
 いつかが現出させた白い陽炎と対照的な、黒い焔。淀む闇。
 それが、レイムの身体を取り巻くように噴き出した。

「……まずい!」

 何人かが、そう口走り、真正面に立っていたアメルや、急激な変化に動けない他の人間を避難させようと動く。

 ――が、それよりも、早く。

「ふざけたことをぬかすなァァッ!!」

 黒い雷がほとばしる。
 避ける間もなくたちを直撃したそれは、ぶつかった瞬間に、身体の自由を奪い去った。
 既視感。
 自由を奪われ、かつ、万力で身体を大地に押さえつけられる、その状態に。
 思い出した、いつかの光景。

 そう。クレスメントの霊たちに。この場所で。
 ――わりと、とる手段、似てるのな。

 と、考えていることはノンキだけれど、状態は実に逼迫していた。
「……か、身体がっ……」
 何人かが必死に立ち上がろうとしているけれど、その努力は無為に近い。
 体力のない何人かは、耐えかねて地面に伏したまま、荒い息を繰り返している。
 殺すほどの意図は感じられないけれど、これは、その分性質が悪かった。圧死させられるほどのものではないが、かといって力を抜けば地面に埋められる。絶妙な力具合だ。これだけで、体力は激減していく。
「押し、つぶされそ……」
「くっ……!」
 そこかしこで、苦痛のうめき。
 それはとて例外ではなかった。
 地面に伏したままの彼らを、レイムは至極楽しそうに見下ろしてくる。
 近づいてきた彼のつま先は、の目の前で止まった。
 ぎしぎしいう首を、なんとか持ち上げて、はレイムを見上げた。

 愉悦と狂喜。たぶん、歌が途絶えたときに生まれたのだろう、昏い淀み。
 それでも。
「……レイム……さ……っ」
 呼びかける。
 だけど応えはない。
 代わりに落とされた視線は、冷気を伴っていた。
 記憶がないころ、何度か逢うたびに、ほのかに感じていたものだ。
 ――悪魔としての、彼の在り様だ。
 けれど視線が交わる寸前、レイムは意図してかそうでなくか……すぃ、と軌道を変えた。
 倒れ伏す皆を一瞥して、
「私が本来の力を出したならば、貴様らのようなゴミ、物の数ではないということですよ」
 それを取り戻していない今でさえ、天と地ほどに開きのある、この現状を突きつけて、
「さて……」
 レイムは首をめぐらせ、身体の向きを変えた。機械遺跡の方を、振り返る。
「邪魔者もおとなしくなったことですし、改めて、遺跡を手に入れさせてもらうことにしますかね……」

「……不可能だ、メルギトス……!」

 優越感に満ち満ちていたレイムの背中が、そのネスティの声を聞いて、ぴくりと反応した。
 ことさらにゆっくりと振り返り、彼の双眸がネスティを映し出す。
 おそらく、その傍に倒れているマグナとトリスも視界に入っているのだろう。
 その視線から発される圧力は、身体にかかる物理的な重圧と比較して差がない。だが、ネスティはそれに耐え、ことばを続けていた。
「おまえが召喚兵器を手に入れることは、不可能だ」、
 何故か。その理由を、圧迫されている誰もが知っている。
「……遺跡を起動出来るのは、僕たちだけなんだからな……」
「……知っていますとも?」
「な……ッ!?」
 だから、驚愕の声は複数。
 最後の切り札だったそれは、レイムの微笑とともに打ち砕かれた。
「この遺跡を起動させることが出来るのは、クレスメントとライルの一族だけ」
 魔力と声紋、それにパスワードが必要なのでしたね。
 ……パスワード?
 それは、初めて耳にするものだった。少なくとも、にとっては。
 以前遺跡に引き込まれたとき、そんなものは聞かなかった気がするけれど。そも、あのとき発端となったマグナとトリスが、それを知っていたはずもない。
 ではネスティは? ライルの記憶を受け継ぐ彼は、パスワードとやらを知っていたのだろうか。でも、あんなに遺跡を恐れていた彼が、口にしたはずもない。
 となれば、パスワードはやはり、マグナとトリスが偶然、口にしたということになるのだろうけれど――
 重圧に抗しながら、あのときの会話を思い出そうと、が思考をめぐらせたとき。
「バカな……」
 愕然としたネスティの声が、その場に響いた。

「どうして、そこまで知っている……僕でさえ知らないことを、どうして貴様が知っているんだ!?」

  記憶
  魔力
  知識は――血識

  奪っていたのは

 ぐるぐる、まわる。パズルのピース。
 それは彼女の記憶であり、彼女の目覚めを促すものであり。
 徐々に完成に近づき、そのときを待っているパズルの一片が、きらり、と、霞を破って煌いた。

  レイム


 同じ時、マグナとトリスも、大きく目を見張っていた。

 ――声がする。誰の声?
『やめろ……っそれだけは……!!』

 悲鳴だった。
『ちかづくなあぁぁぁっ!!』

 笑い声だった。
『いただかせてもらいますよ……貴方の持つその魔力を、血識としてね?』

 絶叫。断末魔。
『いやだあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!』

 ……そして静寂。

 闇。目の前が暗い。
 今のは何。幻聴? そうと片付けるにはリアルすぎた。
 そしてきっと幻聴じゃない。
 兄と妹は顔を見合わせる。
 だって、自分たちは、この声を知っている。
 この声の主を、知っている。

 ……あのとき、自分たちの身体を奪おうとした、血に連なる遠い人たち。

 彼らの声。

 そこに思い至ったとき。
 押さえつける万力さえも一瞬霞ませて、背中を怖気が駆け抜けた。

「まさか……!」

 ――悪魔は、微笑をたたえて、頷いた。

「そうです……頂いたのですよ、血識として」


 悪魔は、微笑う。……嗤う。
 そういえば、と、至極楽しそうに。
「愚かな召喚師たちは、自分たちのしたことと思っていたようですが、それは、私が偽りの記憶を与えてそう思い込ませていただけのこと」
 もっとも、この場に居座っていたクレスメントの者たちも、愚かさにかけては同じようなものですがね。
 そのことばを聞いて。
 の身体も強張る。課される重圧のせいだけでなく。
 どうして知っている? ここにいた、クレスメントの霊たちを。
 誰も入れないはずの結界、歪められたこの場。アルミネが暴走したあと、封じられたこの地。
 力を奪われ、入る術など持たないはずのこのひとが――
 何人かの抱いたその疑問を、レイムは察したのだろうか。
「……貴方たちはたしか、三度ほどこの場所を訪れましたね」
 にこやかに、己の持つ情報を確認するように、指折り数えてみせた。
「一度目は、ええ、この遺跡の暴走……二度目は、この遺跡の破壊の為……三度目に、この遺跡が現存していることを、見たはずです」
 おかしいと、思いませんでしたか? 声と仕草に色濃く香る虚ろな優しさ。安堵ではなく寒気を与える銀の悪魔。
 彼は問う。
「何故、クレスメントの霊たちが、唐突にそのとき目覚めたのか……」
「……!!」
「ネス……っ?」
 目を見開いて硬直した兄弟子にトリスが声をかけ――彼女もまた、びくりと身体を震わせた。
 けれど、一同に明確な答えを寄越したのは、結界の礎となった魂の欠片。――アメル。
「……結界……二度目に来たとき、……壊れたままだった……!」
「ええ」
 満足そうに頷くレイム。
「さすがにあれくらいの間開きっぱなしですと、いつ私の軍団が外に飛び出すか判りませんでしたからね?」
 大人しくしているように告げるために、わざわざ足を伸ばしてあげたのですよ。
「じゃあ……クレスメントの霊も……まさか……」
「そうです。ちょっと突付いて差し上げたら、あっという間に活動を開始してくれましてねぇ」
 しかも、目の前には宿敵たる私がいるじゃないですか。
 それはもう、勢いづいてくださって。
 口調こそは困った様子だけれど、その表情はどこまでも変わらない。
 貼り付いたような笑顔は、崩れもしない。
「申し訳ありませんでしたが、ちょっと記憶操作を試みまして。私の中のクレスメントの血と記憶をぶつけて差し上げたら、まぁ、あのとおり、自分たちで勝手に混乱してくださったんですよね」
 ここにいたのは、アルミネの暴走によって、この場で伏したクレスメントの一族。
 そうだ。
 血と魔力を奪ったのがアルミネでないのなら、レイムだというのなら。
 あのときの霊たちの叫びには、矛盾が出てしまうのだ。
 それが混乱故だというのなら。それをさせたのが、レイムだというのなら――つじつまは合う。
 あくまで偶然だったとでも云いたげな彼は、けれど、たしかな確信のもとに、それを行ったのだろう。
 理由も根拠もないけれど、ただ、そう思う。思った。誰もが。

 つまり、と、レイムが口の端を吊り上げた。

「クレスメントの魔力も、ライルの記憶も。――奪ったのは、私です」

 美味でしたとも。そう付け加える彼の表情は、愉悦。
「……貴方たちのご先祖の血識は、実に、極上の味を提供してくれましたよ」
「そんな……っ」
「あ……悪魔め……っ!!」
「はははは、あーっはははははははは!!」
 空気さえ凍りついた一帯に、トリスとマグナの叫びが響いた。
 それに被せるように発されたレイムの高い笑い声が、ふたりの声を打ち消す。
 だけど。

「レイムさん……!」

 それさえも、かき消したのは。むしろ弱々しいとも云えそうな、の声だった。
「あなたは……どうして……っ!!」
「……」
 ことばのつづきを待つためか、レイムは僅かに間を置いた。が、ことばを発したことでよけい重圧に苛まれ、余裕のなくなったを見て、「そうですね」と、応じる。
「復讐のため、でした」
 最初は、そうだった。
「私を、こんな脆弱な存在にした、クレスメントとライルの一族。それに天使。幾度地獄を味わわせても足りない屈辱を、私に与えたのですから」
 でも、ね。レイムはつづける。
「早まってしまったか、と。――少しだけ、後悔しました」
 すべてを奪ってしまった後、彼女と出逢った後。
「彼女の後を継ぐべき存在はもう、生まれなくなった……」
 それは、も知ってる。
 皆も知ってる。
 告げられ、語られた昔話――だがそこに在った者たちの感情を、誰が知ろう。
 守護者と悪魔。もういない彼女。存在しつづける悪魔。
 悪魔は云う。
「彼女の鎖は、解けなくなってしまった。その責任の一端は、たしかに私にもあるのですからね」
 ですからね、さん。
 呼びかけたひとりだけを。見つめて、レイムは告げた。

「私は、力を手に入れます。強大な力、絶対たる力。今度こそはリィンバウムを手中におさめてみせます」

 ――そうして、他の四界もすべて支配し、

「どうして力にこだわるの……」

 とうとうと話す、レイムのことばを遮って。はやっと、それだけを口にした。
 きょとん、と。
 やけに可愛げじみた動作で、それを聞いたレイムの目が丸くなる。何を、当然のことを訊いているのかと。
「私の望みのために、必要だからですよ」
「……でも、あなたの望みは……!」
「彼女を得ること」
 明瞭に、レイムは答えた。
「そのために、リィンバウムを支配すること」
 そしてつづけた。
「折角ですから他の四界も支配すれば、もう、邪魔立てするものもいなくなるでしょう?」

 とても簡単な過程、そして明確な結論?
 だけど心のどこかが、透徹なものをもって、に告げる。

  ――それは、違う

 と。

 何が違うのか判らない。今はまだ。
 だけど。だけど、だ。
 ……彼に、それを、成させてはならないと。それは、判っていた。

「まあ、謎解きも問いかけも、ここまでにしましょうか」

 何を云うべきなのか判らない。どんなことばを選べばいいのか判らない。判らないまま、それでも口を開こうとしたを振り切って、レイムは一方的にやりとりを断つ。
 そうして彼の振り仰いだ先には、機械遺跡がそびえ立っていた。
 その遺跡へと――レイムは、呼びかける。
「調律者の末裔、クレスメントの一族の名において!」
 調律者。
 クレスメント。
 あの日、意味も判らぬままに、マグナとトリスが口にした単語。
「――これが……鍵だったのか……!」
 身体さえ自由だったなら、舌打ちさえ零していたかもしれないネスティの呻きに重ねて、遺跡は始動した。
 ヴィィィ……
 何かの作動音。
 いつぞやも聞いた覚えのある『声』が、彼を目指して降りてくる。

『声紋チェックならびに、魔力の波動確認……すべて、ライブラリと一致しました』

「ちょっ……ちょっと待てやこのポンコツ!」
 思いっきり騙されてるんじゃねぇ! と、レナードが苦しい息の下から、懸命にがなる。
 だけど、そこは機械のかなしさだ。
 パスワードが告げられて、魔力も声紋も一致するものがあったなら、遺跡は扉を開くように設定されているのだから。

『貴方様を【調律者】クレスメントの一族であると認めます』

 ひかりが。舞い下りる。
 いつか自分たちを、その内部へ導いた光は今、相反する位置にある彼を、己の中へと引き込んでいく。
「では、みなさん? ごきげんよう」
 光に透ける銀髪を揺らし、彼は少しだけ首をかたげて一行を見やった。そうして口元を歪める。
「あはははは……あーっはっはっはっは!!」
 高笑いを残して。
 たちを攻めたてる、重圧だけを残して。

 そのひとは、――遺跡のなかへと、光ともに吸い込まれていった。


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