「――てな感じで、てなことをイオスに云われたんですが、どうしましょうレナードさん」
「嬢ちゃん、訊く相手を間違ってないかどうか、まずよく考えろ」
結局それだけを告げたのち。なんだか、はっと我に返ったかのよーに、適当に訓練して流してくると出て行ったイオスを、どうしたもんかと見送ったあとのことである。
……放心することしばし、一応気を取り直して食事するかと食堂に向かったら、途中の廊下で、ちょうど食事を終えたらしいレナードと遭遇したのだ。
でもって、こりゃあちょうどいいやと、上の会話に至ったのである。
「いや……考えたんですけど、どうしましょう」
「……とりあえず、嬢ちゃんがパニクってるのは判ったぜ」
まともに相談(?)にのってくれる気になったのか、レナードは取り出そうとしていたタバコをポケットに押し込んで、「あー」と頭をかいた。
「なんだな。……その兄ちゃんのセリフは、どういう気持ちで出てきたもんだと思ってるんだ?」
「そんなにあたしを嫁にやりたくないのかなあと」
「……」
即答したを、レナードは、まるで異星人でも見るかのように凝視した。
「なんつーか、今、無性におまえさんの親の顔が見てみたく……ああ、見れたなそういや」
この場にはいない、某黒騎士を思い出してか、彼は、つむぎかけたことばを訂正する。
「ていうか、そりゃむしろ、黒騎士の旦那のセリフじゃねぇのか?」
「あ」振り返れば、ぞろぞろと、食後らしいご一行様の姿があった。「フォルテ、ケイナさん。シャムロックさんにカイナさんも」
ご飯、終わったんですか?
「ええ、ついさっき」
「早く行かないと、食べるものなくなっちゃうわよ?」
うわ、そりゃ困る。
だけどイオスのことばの意味がよく判らないままでいるのも、ちょっと困る。
うーんと唸ったを見かねたのか、この場では唯二の女性陣であるケイナとカイナが顔を見合わせて、くすっと笑った。
「まあ、いまいち状況は知らないけど、そういうの、すぐに判らなきゃ困るってものでもないと思うわよ?」
「そうですよ。この戦いが終わった後にゆっくり考えたって、罰は当たりませんよ」
今はイオスの云うとおり、覚えておいてあげればいいんじゃないかな。
まだまだ時間はあるんだし。
「「ね?」」
「……そこでどうして私に振るんですか、お二人とも」
にっこり笑顔の姉妹に振り返られ、シャムロックが途方に暮れた顔になる。
フォルテがすでにあれこれ、彼女たちにばらしていることを、知らぬは本人ばかりなり。
ああ、ほら、そんなだからなんかからかわれだしてるし――って。
「戦いが終わったら、みんなどうするんです?」
「終わったら?」
始まる前からそんなこと云って、とらぬ狸の皮算用に終わったら情けないけど。気になったんだから、しかたない。
フォルテとケイナは旅の傭兵だった。
シャムロックは、騎士として仕える国、失ってしまった。
レナードは事故でこっちに喚ばれて、帰る方法まだ見つかってないし。
カイナはエルゴの守護者として、またサイジェントに戻るんだろうか?
考えてみたら、この一行、ひどくばらばらなメンバーばっかりだ。
今はひとつの目的があってひとつの道を歩いてる。――けど、これが終わったら? また、ばらばらになっちゃうんだろうか。
……それはちょっと、かなり寂しい。
「そりゃまあ、また、それぞれのことをやるんだろうなあ」
俺たちはふたりでユカイに傭兵稼業――
「ごふっ」
「どこがユカイよ!」
あんたのせいで巻き込まれた過去のいざこざの数々、忘れたとは云わせないわよ!?
……どういうことしてきたんだろう、このふたり。
フォルテのトラブルホイホイぶりを知ってるシャムロックがほんの少し遠い目になってて、それが哀れを誘う。
だけど気を取り直したらしく、彼は、にこりとに向き直った。どうやらフォルテの惨状はスルーすることに決めたらしい。……たくましくなりましたね。
「この先は、皆で一緒に動くことは、なくなるかもしれませんが……出逢ったことは消えないのだと、自分は思いますよ」
たとえ、この先、道が分かれても。姿を確かめられぬとしても。
こうして自分たちは、出逢った。ともに歩いた。
その道が、自分たちの後ろにある。再会はすれど、初対面にはならないのだ。
「……そうですね」
ほのぼのと微笑みあうふたりの後ろ、フォルテが、『よっしゃその調子だ男を見せろ予行演習だシャムロック!』と、声なき応援を繰り広げていたのを知っているのは、当人含めて4人ばかり。