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第51夜 弐
lll 立場と事情 lll




  ――クス、クス。
 銀の糸つむいで、悪魔は笑う。
 歪められたコトに気づかず、苦悩負って生きる、彼らを嗤う。
「まったくもって、愚かですね……」
 あまりの単純さが馬鹿馬鹿しく愛しく、そして、許せないほどに愚鈍極まりない。
 事が成るのが近い故か、少しご機嫌に。けれど、静かな怒りを秘めて。
 ほんの少しばかりの思い出をたぐりながら、悪魔は嗤っていた。

  ――クス、クス……

「あ、さんだけは除外しますがッ!」

 ……もちろん、そんな断言、誰も聞いちゃあいねえのだが。



 しん、とした静寂。
 ことばを探す努力さえ放棄したまま、はただ固まっていた。
 エクスの告げたことばは、たしかに聞こえた。理解した。
 そうして理解したからこその衝撃が、身体をその場に縫いつける。
「……なん、ですって……?」
 ぽつり、トリスがつぶやいた。
 それが硬直を断ち切ったのか、ネスティがエクスに向かって一歩踏み出す。
「どうして!?」
 それは、悲鳴のような嘆きのような。
 痛みを、苦しみを、覚える声。
 そうしてエクスの表情も、かすかに歪む。それもまた、苦痛。
「隠したかったのさ、おそらく……」
 ゲイルの存在を。
 それが作り出されたせいで、異界の友の助けを永遠に失ったことを。
 ――召喚師の驕りが、それを招いたのだということを。
「知れば、人々は召喚師のことを否定するだろうから」
「……っ」
 覚えてる。まだ記憶に新しい。
 自分たちを否定していた、トリスとマグナの姿を。まだ、みんな覚えている。
 あの痛みも慟哭も、長い長い闇にも似た時間を。
 それを思い出したのか、兄妹が小さく身体を震わせた。
 だけど、以前みたいに、それは深く沈み蹲るようなものではなく――ただ、そっと、マグナはトリスの肩を抱いて、トリスはマグナの服の裾を握る。
 まだ終わってはいない、エクスの話を聞くために。
 クレスメント、ライル、そして豊饒の天使。
 彼らはそうしてそこに立ち、蒼の派閥の総帥を見つめた。

「――だから」と、エクスは云った。「彼らは、キミたちの力と知識を奪い取って、追放したんだ」

 その上で、残されたアルミネの魔力を利用して、あの森に結界を作り上げた。
 召喚師の未来にとって、都合の悪いこと全部を、永遠に封じ込めておくために。

 ……では。
 それでは。
「クレスメントとライルの一族は、そのためだけに生け贄とされたのですか!?」
 人間たちの。一部の召喚師のエゴのために!?
「……そんな……」
 ギブソンの叫び。アメルのつぶやき。
 聞こえているのか、いないのか。
 それとも、すべてを話し終わるまでは、いかなる感情も心に届かぬように自制しているのか。
 エクスの話は、まだ終わらない。
「そしてこの秘密は、蒼の派閥によって意図的に隠蔽されてきた」
 ……せざるを得なかった。
「そのために、ライルの一族に派閥の監視下でしか生きることを許さず、迫害されて苦しむクレスメントの一族を見殺しにしてきたんだ」
 ――だけど。
「許してもらえるとは……思っていない」
 それは。

  ちがう よ

 小さく、頭の横で火花が散ったような。
 一瞬。刹那。それよりもっと短い時間。ひらめいた、それは答え?
 それは、声。
 奥深く、ずっとずっと奥深く。
 まだ眠っているはずの胎児が、時折目覚めて羊水を波立たせるかのように。
 すぐにまた、眠ってしまうまでの、由旬よりも。もっと。

 それは、

  ほんとうは

「違……」
 そうしようと思ったわけではなく、ただ、ぽつりとそれだけが、の口からこぼれる……よりも、早く。

「うおおおぉぉぉっ!」

 ダァン!!

「エクス様!」
「ネス!?」

 信じられないものを見て、開きかけていたの口は、完璧に開いた。
 ただし、つむごうとしていたことばは頭の隅に追いやられ、ただ、呼気がこぼれただけ。
 視界の端で一瞬翻った、少し暗い赤色のマント。
 それは見る間にエクスとの距離を詰め――
 ネスティがエクスを殴りつけたのだということを理解するまでに、要した時間はたかだか数秒もなかっただろう。
「ネスティ!」
 ラウルの声が飛ぶ、けれど、その語尾が他の耳に届くより早く、叫びが発される。
「当たり前だッ!!」
 ――ネスティの叫びが。

「おまえたち人間の、そうした利己的な考えのせいで、僕たち一族がどれほど苦しんだか」
 どれだけの絶望を抱え、死んでいったか――!

 脈々と継がれる、それは、融機人の血と記憶。
 薄らぐことのない記憶は、過ぎた過去、終わった誰かの記録ではなく、現実に目の前にある、または己の経験した記憶。
 痛みも嘆きも苦しみも、鮮やかにこの血は覚えている。
 ライル。
 ロレイラルの融機人。

 ――その最後の一人。

「その僕の気持ちが……ッ、貴方に判ってたまるか!!」

 痛みも苦しみも嘆きも絶望も。
 まだ色あせずに。これからも鮮やかに。
 薄らぐことはない。
 昏い感情は、一生、生涯、この心に凝るだろう。
「……ネスティ」
 それでも。
「…………?」
 固まった一同から離れて小走りにやってきたが、エクスの襟首を掴み上げたネスティの腕を、そっと押さえた。
 何か云いかけて、かすかに開いた彼女の唇から、だけどこぼれたのは呼気。
「やめよう、ネス……この人を責めたって意味がない」
「……この人だって、あたしたちと一緒だよ」
 ご先祖の罪を背負わされて、きっと、ずっと、苦しんでたんだ――
 彼女の云おうとしたことを代弁するように、振り上げた拳をおろさせて、マグナが云った。
 トリスが、ぎゅう、と腰にしがみつく。
 マグナ。トリス。人間たちのエゴに巻き込まれ、迫害されつづけたクレスメントの末裔。
「……ネスティさん……お願いです……」
 胸に手を当て、涙をためたアメル。――機械兵器とされた豊饒の天使アルミネ、その砕けた魂の欠片。
 そうして。
 マグナ、トリス、アメルと転じた視線を、戻した先に。……
 力の抜けたネスティの手から、そのまま重力に引かれてエクスの身体が落下する。
 ネスティの見守る前で、はそれを支え、立たせ――それから、正面へとやってきた。
 手を伸ばし。
 手を握った。
 力なく落とされたままだったネスティの手のひらを、は、両の手のひらで包み込む。

 ただそれだけ。
 ことばに出しては、何も云わずに。
 云う権利がないとでも、云うかのように。

 だけど。と。ただ。――ただ、包み込む。

「……」
 荒げていた息を落ち着かせて、ネスティは、その手を握り締めた。


 面白くなさそうにそれを見ていたフリップが、顔をしかめて鼻を鳴らす。
「フン……話というのは、これで終わりですかな?」
 実にくだらん。
 何を云うかと思えば、おい、オッサン。
 ぎろっと振り返ったの視線を真っ向から見る羽目になったフリップは、少し後ずさる。
 けれど、年端もいかない少女に気圧されたのが気に入らなかったのだろう。鼻の穴をふくらませ、何かを怒鳴ろうとするけれど、それより早く、グラムスの声が響いた。
「フリップ! 今のことば聞き捨てならんぞ!」
 そうして、同輩のことばに応え、フリップはそちらに向き直る。
「何を。事実ではないか」
 たしかに、蒼の派閥はそうした事実を隠してきたかもしれん。

「だが……もとはと云えば、クレスメントとライルのしでかした不始末が原因ではないか!」
 両手を大きく広げ、胸を張り、それは、まるで、遠い彼らを断罪するかのように。
 ……こんな男になど、断罪されてたまるか、って気分だけど。
 そうして、フリップはなおもことばをつむぐ。

 すいません、なんかキレそうなんですけど。

「私がその場にいたなら間違いなく、皆殺しにしていましたな」

 あ。キレる。


 ふい、と。両手を包んでいた、手のひらが離れていった。
 外気に触れて、少しひやりとした風が肌に触れる――そんな刹那。

 ――パァン、 なんて軽い音ではなかった。それは。


 バシィ!!

 平手にしたのは、せめてもの気遣いだろう。
 それを見ていた一行は、ほぼ同じ事を思った。特にリューグは。
 は、戦える人間だ。
 戦いを知らない相手に、遠慮なしに実力行使したら、たぶん、フリップぐらいなら即半死に出来るだろう。
 召喚術? そんなもの唱える間もなしに攻めたててしまえばいいのだ。――本当に、彼女が、いや。このなかの誰かが、あの男を殺そうと決めたなら。
 だがそれすらも、おそらく、フリップは気づいていない。
「な……何をする無礼者!」
「無礼者はあんただ!!」
 最大最強の無礼者で大馬鹿だ!!
 手加減されてもなお衝撃を受け流しきれず、数歩後ずさって怒鳴ったフリップの語尾にかぶせるように、は叫んだ。

「そんな世迷言のたまう余裕があるのなら、今すぐ過去に行ってくればいい! でなきゃ悪魔と対峙してみせろ!! 戦いを、知らないくせに――」
 ――命が失われることの意味も、知らないくせに!!

 自分たちの世界を救おうと、尽力していた人々を知らないくせに。
 それゆえに間違った道を選び、閉じた空間のなか、怨嗟の声だけを抱きつづけた人たちを知らないくせに。
 世界を守る。あのころ誰もが願っていたのは、きっと、ただそれだけのことだった。
 道を間違った人々の願いは、それでも、それに起因するものだった。
 生殺しであると知っていて、虐待を続け、それでも、生かしつづけた矛盾。痛み。
 ただ永きに渡って苦痛を与えつづけるくらいなら、いっそ途絶えさせた方が禍根も断てるのだろうに。
 それでも。
 それでも、彼らがそうしなかったのは、罪悪を抱いていたからなのだと――いや、そんなものよりきっと。生きていて、ほしかったのだろうに。

 彼らの過ち。自分たちの過ち。
 心に抱いた矛盾。生じる痛みも哀しみも。

「あんたなんか――……ッ」


 いっそ、悪魔に殺されてこい。
 そう口走りかけるより先に、その手のひらが口をふさいだ。
「……君は、云うな。そんなこと」
 禍言なんか、口にするな。
 耳元で囁かれることばと、さらり、視界の端に揺れる金色の髪。その静かな優しさは、今の自分とは正反対。
 う。と己の激昂ぶりを自覚したは、口篭もり、気まずい思いで身体の力を抜いた。
 止めに入っておいて、自分がキレてれば世話はない。
 ――が。
 ここには、さらに、そんな神経を逆撫でする奴がいるわけで。
「……フンッ! デグレアごとき下賎な人間の分際で……ッ!」
 ここが派閥の本部でもなければ、唾でも吐き捨てそうな顔で、フリップが云う。
 それが、さらに、火に油をそそぐわけで。
 イオスの手を振り払って、が何か云おうとしたよりも先に、けれど。

 ドスッ!

 鈍い音がした。
 音の出現地を、全員がいっせいに振り返る。
 後方で固唾を飲んで成り行きを見守っていたはずの、さらに扉近く。
 大剣を剣帯から外したルヴァイドが、鞘に収まったままの剣を、床に突き立てた音だった。
 ……材質がヤワかったら、ヒビ入ったんじゃないだろうか、今の勢いだと。
 そうして、そのルヴァイドは、眼光も鋭くフリップを睨む。
 口に出しては何も云わないけれど、それがよけいに、怒りをひしひしと感じさせていた。
 彼の近くにいたミニスやユエルなんか、凍りつきかけてるし。

「……フリップ……おまえは、なんということを……」

 一連の暴言に、半ば放心していたらしいラウルが、やっとそれだけを口にした。
 先日の暴挙と、今日の暴言と。
 その横から、エクスが進み出る。
 ネスティに殴られたときに唇を切ったらしく、にじむ血をそっと指でぬぐって、総帥は、幹部であるフリップと向き合った。
「……だから」、
 静かに。
「だからおまえは、ネスティ・バスクを自分の道具として利用したというんだね?」
 告げられたそれに、マグナとトリスが、はっとした顔になる。
 思い出す。いつかラウルから聞かされた、彼の身体のこと。
「生きるために必要な薬と引き替えにして操ろうとしたんだね? フリップ」
「な……!?」
 事実を知らなかった数人が驚愕するなか、フリップは、形相もすさまじくラウルを振り返る。
 が、それに先んじてエクスが続けた。
「ラウルは約束を破っていないよ。ボクは別の人から、それを聞いたんだ」
 ……あの、エクスさん。
 あのときあの場所にいたのってば、あたしとトリスとマグナとネスティとラウル師範なんですけど。
 初対面のあたしたちを抜きにして、ラウル師範まで除外だと、残りは……
 同じようなコトを考えたのか、さらに険を増したフリップの視線が、ネスティに行きかける。
 けど。あれ?
 あの場所にいなかったけど、事情を知っていた人が、もうひとりいたような。
 振り返ると、その人は、その人にしては珍しい、困ったような笑みを浮かべて、頷いてみせた。
 それを追うように、そしてフリップが叫びかける先手を打って、エクスの声がした。

「今までずっと、辛い役を頼んでゴメンね。……パッフェル」

 ふぅ、と、パッフェルが息をついた。
「ホントですよ、もう」
 やっと肩の荷が下りた、例えるならばそんな感じの笑顔。
「いくら私がウソをつくのが得意だって云ったって、騙したくない人を騙すのは、すっごくキツイんですからね、エクス様」
「……パッフェルさんが!?」
 驚きも露に、アメルが云った。
 忘れられがちだが、暗殺歴のあるのほほんアルバイターさんが、そこまで裏の顔を持っているなんて、まさか予想もしなかったんだろう。総帥と彼女以外、みんな一様に様驚いた顔。
 だって、この間パッフェルと話していなければ、きっと同じくらい驚いていた。いや、今も十分びっくりはしてるけど、なんだか納得した感じというか。
「……ふわあ……そうだったんですか」
「……ナント……」
 レシィとレオルドが、そう云って、まじまじとパッフェルを見た。
「彼女はな、エクス様の下で働く密偵なのだよ」
 総帥と一部の者だけしか存在を知らない、非公式のな。
 一同の驚きが引くのを待って、グラムスが淡々と告げる。
 それを聞いたロッカが、ふと、得心顔で頷いた。
「そうか……だからこの間……」
「あ? 何がだ兄貴?」
「この間、パッフェルさんとグラムス議長が話している処に行き合ってたんだよ」
 その謎も、ここで氷解したわけだ。
 おそらく、何がしかの報告をしていたんだろう。
 パッフェルが、すたすたと、一同の間を抜けてエクスの横に並んだ。
 騙したくないとのことばがウソでないと示すように、ひどく、申し訳なさそうな笑顔。これまで演技だったらすごいけれど、たぶん、本音。
「今までずっと隠してて、本当にごめんなさい。これが、私の本当の正体なんです」
 しかし、そこまでされてもお茶目なアルバイターさんの印象が抜けないのは、こんなときにもミニスカート制服姿なせいだろうか。
 やっぱ人間、見た目って結構印象を左右するものだ。
「彼女にはね、公にすることが出来ない調査をやってもらってるんだ」
 そう云って、ちらりとエクスがフリップを見た。
「例えば――派閥の内部で起こっている、様々な不正なんかを」
「貴方がネスティさんに脅迫をしていた現場は、私がばっちり拝見させていただきました」
 云い逃れなど、させませんですよ?
 リィンバウム産かロレイラル産か。テープレコーダーらしき機械を取り出し、パッフェルがフリップに話しかける。
 気づいていなかったフリップを、かすかに嘲笑うような表情。
 少しだけ、彼女の立っている場所が垣間見えたような、そんな感覚がを襲う。
 ぐ……、とうめきながら、フリップが一歩後退した。
 けれどその分を埋めるように、今度はグラムスが前に出る。
「おまえの罪はそれだけではないぞ、フリップ」
 いつの間にかこの場を離れていたラウルが、一人の男を連れて戻ってきた。
「こいつの顔に、見覚えがあるだろう」

「――アイツッ……!」
「ユエル!」
「ストップ!」
 怒気も露に飛び出そうとしたユエルの手を、モーリンとミニスがひっつかむ。
 けれど無理もない。

「ふ、フリップ様ぁ……」
 以前見せたあのふてぶてしい性格はどこへやったのか、ラウルに引っ立てられて情けない声をあげているのは。

「カラウス……!」

 ――以前、ファナンでユエルやおばちゃんやおじさんや、にも甚大な被害を出してくれた、あの外道召喚師だったのだから。

 ぐい、と、カラウスの後頭部をつかんでフリップの方に押しやり、グラムスは強い口調で告げる。
「この外道召喚師は、金銭と引き替えにしておまえに召喚術を学んだと白状している」
「アイツが……!」
 キッ、とミニスがフリップを睨みつけた。
 それをちらりと見やって、グラムスは続ける。
「金の派閥に捕われた海賊も、同じ証言をしているとのことだ」
 ただし、尋問した結果を聞く限り、どこか何かをとぼけとおそうとしていた感もあったらしいが――と、小さく補足された事項は、だが、誰の耳にも届かない。
 海賊、という単語にまつわる出来事を思い出すために、一同が思考に沈んだ間のことだったからだ。
「……カザミネの旦那が、大砲ぶった切ったときのか」
 真っ先に思い出したフォルテが、小さく手を鳴らして云う。
 その頃の話を知らない数人が怪訝な顔になるが、今は説明している余裕はなかった。残念ながら。
「ち、違――海賊など」
「……出所はソイツだったってワケかい……」
 どもりつつ、弁明しようとするフリップを遮り。ひやり、モーリンの発する冷たい怒りが、のいる場所にまで流れ込んできた。
 脂汗をにじませて、動こうにも動けないフリップを、けれど哀れとは思えない。
 むしろ当然。自業自得。
 そう思ってしまう自分の心を、ああ大人気ないなと思うけれど、ここで彼を哀れむような大人になら、あんまりなりたくないなというのもまた本音。

「――どういうことか、説明してもらえるかな」

 静かな怒りに満ちた空気のなか、静かにグラムスが告げた。
 おそらく彼らは、ずっとチャンスをうかがっていたのだろう。
 フリップの不正自体は、以前から薄々とは勘付いていたに違いない。
 けれど、曲がりなりにも幹部である彼を、すぐに告発するわけにはいかなかったのだ。言い逃れや、立場を盾にした逃亡など、させるわけにはいかない。
 周到に証拠を集め、状況を図り……さきほどフリップの発した暴言と、この場に揃ったネスティやパッフェルなどの証人。
 金の派閥から引き渡されてきたのだろう、カラウス。
 そうして、このときこそが好機として、エクスは――総帥は、ここを断罪の場と定めたのだろう。
 逃げ道は、もはやフリップの前にはない。
「ぐぐぐぐ……っ」
 ただうめくだけのフリップを強い視線で貫いて、エクスは告げる。
 有無を云わせない、強い口調だった。正に、総帥の名にふさわしいと、そのとき思った。

「フリップ・グレイメン。今をもって、キミの幹部召喚師としての地位を剥奪する!」


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