……朝食の席は、いつになく静かだった。
何せ、あの戦いはつい昨日のこと。戻った後、夕食を取る間もなく、誰もが部屋に一直線、体力回復のために倒れこんだ。
なので、改めて全員が顔を合わせるのは、この場が初めてだった。
「……」
カチャカチャと、食器の触れ合う音だけが、静まり返った食堂に響く。
いつもなら賑やかなトリスやマグナも、静かに食事を口に運んでいる。
4人の護衛獣のうち、どつきどつかれで元気なコンビも、今朝に限ってはおとなしかった。
時折、ちらりちらりと、数人の視線が食堂の出入り口に向く。
この場にいない人間のことを、考えているのだろう。
いない人間――屋敷の主である、ギブソンとミモザ、それから彼らの宣言どおり、身柄預かりとなったルヴァイド、イオス。最後に。
ギブソンとミモザは、戦いのあとすぐに蒼の派閥本部へ報告へ赴いている。
ルヴァイドとイオスは、それぞれ、一室を割り当てて押し込んだ。見張りなどつけてはいないが、正直出歩く気力があるとも思えない。レオルドも異常はないと云ってたし、おそらくまだ部屋にいるのだろう。
……まあ、弊害というか、そうして部屋を明け渡したおかげで、数名が居間で雑魚寝という事態になったりもしたが。
それから――。
これもまたレオルドの証言だが、昨夜、夜遅く庭で話をしていたんだとのこと。そのせいか、彼女は、今朝、他の人間が起きて様子を見に行っても、眠ったままだった。
即座にそっとしておこうということに話はまとまり、結果、現在の食事メンバーと相成ったのである。
そんな大人数にもかかわらず場が静かなのは、それぞれが、それぞれの思考に沈んでいるからかもしれない。
何せ、悪魔だったり屍人にされたり自爆したり……
いろいろありすぎた。
昨日は、ほんとうに。
何から考えればいいのか判らないというのが本音だが、差し迫っては、黒の旅団である彼らの、身柄の如何ではないだろうか。
でもってそれについては、ギブソンとミモザの報告待ちという形になっていて――ああ、やっぱり、何を話せばいいんだろう。
息が詰まるんじゃないかという静寂のなか、何人かが何度目かに入り口に視線をやったとき、
バタン、と、扉が開いた。
「おはよー」
すちゃっと手を上げて、が朗らかにそう云った。
「よォ」
意外にも、バルレルが真っ先に反応した。
パンを口にほおばったまま、むぐむぐと口を動かしながら、すたっと手を上げる。
そのバルレルの好反応に、挨拶された当のが目を丸くする。
「……何か悪いものでも食べた?」
もぐもぐ、ごっくん。
「テメエじゃあるめーし」
「あーもーなんでそうなのよあんたはっ!」
「最初にアホなコト云ったのはテメエだろうがー!」
べしぃっとがバルレルの後頭部を引っぱたけば、すかさず立ち上がって応戦するバルレル。
なによ! とか、
なんだよ! とか、
まるで子供のケンカのような、だけどいつもどおりの風景が、食堂の一角で繰り広げられた。
そうこうしているうちに――どころじゃない。あっという間に、重かった沈黙の幕が、すたこらさっさと撤退していくのを全員が感じた。
……あー。
そんな、少し気の抜けた吐息を誰かが零す。
「。朝ご飯冷めちゃいますよ?」
クスクスと笑ってアメルが云う。
それを最後に、沈黙は完全退去。ようやっと、ほっとした空気が場に漂ったのである。
バルレルとの取っ組み合いを一時休戦して、が、空いていた席についた。
あっためなおしますか? との申し出も出たが、自分の分だけだし手間ももったいないと思ったのだろう、気持ちだけ頂くよ、と辞退。
皿を受け取りながら、彼女は、きょろきょろと、さして広くない食堂を見渡す。
「……ルヴァイド様たちは?」
「……あ。と……まだ、部屋じゃないかな」
彼らのために部屋を明け渡した男性陣が、微妙な表情になって目を見交わし、マグナが代表してそう告げた。
「昨夜からずっと沈んでたみたいですし……」
「兄貴!」
「……すいません、さん」
ぽつりとつぶやいたロッカを、リューグが制した。
弟は完全無視か、兄。
ところが、いい反応はしないと思われた当のは、
「そうだね」
と、首を傾げてそれに同意している。
双子のみならず、ほぼ全員が、きょとんと目を丸くした。誰かが、その反応の本意を問うより先に、カザミネがつぶやく。
「無理もあるまい。信じていたものすべてを、根底から壊されたのでござるからな……」
「……カザミネさん」
むぎゅっ、と、カザミネの足元からユカイな音がした。
同時に、カザミネがなんとも云えない顔になって身悶える。
……おそらく、全力でもってシルターンの剣客の足を踏みつけただろうシルターンのエルゴの守護者は、素知らぬ顔でに謝罪しているけれど……いいのかそれで。
だけど、は笑う。
「だいじょうぶ」
それは今までに、何度も自分たちに向けてくれた笑顔とことば。
それはこのとき、この場所にはいない彼らに向けてのものだった。
「あたしがだいじょうぶ。だから、だいじょうぶ。ルヴァイド様もイオスも、あたしよりずっとずっと強いんだよ」
――それは、絶対の。無条件の。揺るぎない信頼。
「……羨ましいなあ」
ぽつりとつぶやいたマグナの声が聞こえたのか、が目をまたたかせてそちらを見る。
「何が?」
「なーんにもー」
手を伸ばして、の髪をちょっと引っ張った。
くすぐったいよ、と、その子は笑う――ってことは、髪触らせてくれるくらいには信じてくれてるんだよね、と、考えてみたりして。
まだそれでいいよね、と自分を慰めてみたりして。
だって、勝負はまだまだこれからだっ。
変なトコロで燃え上がっているマグナの心境を正確に把握したトリスが、兄さん頑張れ、と、ひそかにエールを送っていたりもする。
微笑ましい兄妹の奮起は、だが、誰か気づく由もない。
「それにしても、これからあの人たちどうなっちゃうのかしら……?」
と、そんな疑問を口にしたのはルウだった。
「ルヴァイドとイオス……」開く途中で止まった唇は、誰の名を紡ごうとしたのか。「普通に考えるならば、捕虜として扱われるでしょうね」
そうして、答えたのはシャムロック。
答えてすぐ、彼ははっとしてを見る。
だがはというと、彼が謝罪するより先に、さっきと同じように首を傾げ、陰りもなく応じていた。
「いや、あたしちゃんと判ってますから。そんなみんなで気遣わなくても」
投獄されるか、悪くしちゃえば極刑でしょ?
「……」
あっけらかんとそう云うに、やはりさっきのは空元気かと、よけいに切々とした視線が集まる始末。そして沈黙。
黒の旅団の兵士たちが鬼と化したとき、ゼルフィルドが自爆したとき――の嘆きようは、誰もが覚えている。
ルヴァイドとイオスと同じほど、大切にしていた家族だったのだと、誰もが知っている。
そうして、今、そのふたりの命さえ風前の灯火なのだと――
が。
静まり返った食堂に、ふう、と小さなため息が零れた。
それは、どちらかというと、沈痛よりは苦笑を多分に含んだものだった。発したのはネスティ。
鉄色の双眸をに向けて、彼は、いたましげだった表情を、優しい苦笑に変えて問う。
「……。君、政治学を学んだことは?」
「勿論。仮にも軍人、たしなみですからー」
にっこりにっこり。が笑う。
それを見たネスティが、「どうりで落ち着いていると思ったよ」と、ますます苦笑い。それから、まだ不得要領な顔をしている数人に説明すべく、彼は、一同に向き直った。
「たしかに彼らは敵国の人間だが、同時にメルギトスの犠牲者だ。情状酌量の余地は充分にある。短絡的な扱いをされることは、まずないだろう」
だからあのとき、ギブソン先輩たちは彼らの身柄を預かると決めたのだし、今だっておそらく派閥上層部との協議に尽力してくれているはずだ。
ネスティのことばで、ほっとした空気がそこかしこに生まれた。
つまりなにか、と、レナードがに話しかける。
「嬢ちゃん、それを知ってたから、そんなに悠然と構えてられるってのか」
「……正直云うと、ちょっと協議結果は怖いですけど」ぼやきは、そう重いものではない。「まあ、最悪にはならないかと思ってます」
「――メルギトスか……今やデグレアの軍隊は、完全に彼らの支配下におかれていますからね」
長い長い年月をかけて、彼らは一国を崩し、その戦力をすべて手中におさめたのだ。それは、国民であった屍人や鬼で構成しなおされた、悪夢のような軍隊ではあるのだろうけれど。
ロッカのことばに、フォルテが「そうそう」と頷いた。
「もうこうなると、旧王国と聖王国の戦争って云うよか、悪魔と人間の戦いって云ったほうがいい状況だよなあ」
「そうよね。……聖王国の騎士団なんかは、そのこと、ちゃんと判っているのかしら?」
蒼の派閥と金の派閥は、直接、悪魔たちと対峙した経験持ちがいる。
マグナたち一行然り、ギブソンら然り、ファミィ・マーンら然り。
ただ、聖王国の騎士団たちは、今回こうやって表立つまで、これまでの件には一切かかわっていなかったはずだった。
万が一彼らの信が得られなければ、戦力を大幅に欠くという状態で、悪魔との戦いに持ち込まなければならない。
けれど、そのケイナの問いにはネスティがすかさず答えた。
さすがは兄弟子。
「今まで僕たちが目にしてきたことも含めて、派閥から報告が行くはずだ。――少なくとも先輩方はそうされると思う」
「ってことは……派閥ふたつと、聖王家で話し合いになるの?」
「蒼の派閥と金の派閥が、うまく協力体制をとれれば、そうなるはずだけど……」
それが心配なのだろう、ミニスが不安をにじませてつぶやく。
何せ、自分の母親が金の派閥の議長である。
……これから自分たちが向かう戦い、その結果に関る一端は間違いなく母にかかっているのだと思うと、緊張もなかなか引かないんだろう。
だが、とりあえず、ミニスの緊張はその数秒後に解かれる結果になった。
食堂の扉が、パタン、と開く。
やっぱり、全員が一斉に戸口を振り返った。
「ああ、みんなここにいたのね」
「ミモザ先輩、ギブソン先輩!」
「本部での話し合いが、やっと終わったからね。報告に戻ってきたんだ」
これから、戦いの準備のために派閥にとんぼ返りしないといけないんだが。
などと気軽そうに云っているが、夜を徹しての会議だったのだろう。
ふたりとも目の下にうっすらクマが出来ている。……が、賢明なことに、誰もそれについては言及しない。ギブソンはともかく、妙齢の女性であるミモザにそりゃ禁句である。
がたん、と、椅子の音もけたたましく、ミニスが立ち上がった。
「それでどうなのっ? 金の派閥と蒼の派閥は、ちゃんと協力することになったの!?」
答えはまず、ことばではなくて、ミモザの笑顔。
「ええ、ミニス。今回の戦い、派閥が協力しあうことが正式に決まったわ」
「……っ、よかったぁ……」
「キミのお母様も、これで、苦労した甲斐があったってものね」
一気に緊張が解けて、へなへなと椅子に座り込んだミニスの姿勢をなおしてやりつつ、ルウが笑いかけた。
そうしてミニスはそれ以上の笑顔になって、
「うんっ!」
と、安堵と元気を胸一杯に、うなずいた。
「……黒騎士たちの処遇については、どうなるのでしょうか?」
そうしてもうひとつの問題点について、シャムロックが提議した。
場合によっては再びどん底に逆戻りしかねない質問に、けれど、これもギブソンが微笑を浮かべて、まず安心をくれる。
「そのことも含めての話になるが……」
そう前置きして、順番にいこうとばかり、告げられたのは――
まず今回の件について、派閥の見解は、国家間の戦争ではなく異世界の悪魔によるリィンバウムへの侵攻とみなすことになった、ということ。
――つまり、
「エルゴの王の時代以前の、あの状況と同じだということですか?」
「そうなるわね」
カイナのことばにミモザが頷くけれど、すべてが当時と一緒でないのは、この場の全員が知っている。
「対処を間違えれば、聖王国だけでなくリィンバウムそのものが滅ぼされてしまうだろう」
そこで、と。つづいて取り出されたのは、一通の書状。
マグナとトリス、それにネスティが、きょとんとした顔になる。
前者ふたりはともかく、後者がそんな顔になるのは珍しい。
いったいなんだろうと疑問の視線が集まるなか、ギブソンは紐を解き、文書を全員に見えるように掲げてみせた。
「蒼の派閥の総帥から、君たちへ、正式な協力を依頼することになった。その書面だよ」
「……おい、待てよ」
まさか俺たちに、蒼の派閥の下につけっていうんじゃないだろうな?
「いや無理それ」
「うん」
「云えてる」
剣呑なリューグのつぶやきに、即座にあちこちから否定が上がる。
いつかファナンでも話したが、こんな見た目統制のとれてない一行が、しかも一般人が、そんな組織に組み入れられてまともに動けるはずがないのだ。
誰に云われずとも、そんなん自分たちがいちばんよく判ってる。
……云っててちょっとむなしいけど。
そうして案の定、ミモザがくすくす笑って書面の一部を指差した。
「早とちりしないの! ほら、ここにちゃんと書いてあるでしょ?」
「……読めねぇよ」
「以下同文」
席の都合上、いちばん近くにいたレナードがそう云い、覗き込んだも頷いた。
レナードは名もなき世界からちょっと前に喚ばれたばかりなのだし、だって読めるものつったら簡単な文字くらい。政治家向きの小難しいことばまわしや単語なんて、単なる変な記号の羅列と同類だ。
ちなみに政治学とかは、ルヴァイドに丸一日口頭の講師になってもらったのである。ああいうのは読むよりまず倣え。
そんな、身も蓋もないことほざいた異世界ふたりの横から、トリスがひょっこり頭を覗かせた。
「えっとね。この書面をもつ者の任務における行動を、派閥の総帥の権限において、すべて容認す……――って!?」
「え、ええぇぇっ!?」
「これは、先輩たちが持っているのと同じ、勅命の証書ですか!?」
驚きまくった蒼の派閥後輩3人がおかしいのか、ギブソンが、小さく笑って首を上下させる。
「そういうことだ。君たちの行動について、派閥は全面的な支援を明言している」
「お墨付き、ですか……行動の制約が殆どなくなりますね」
「シオンさんの云うとおりね。金の派閥や聖王家も、出来るだけの支援を約束してくれてるし……これからは情報でも武具でも公費で引き出し放題よ」
「いやそりゃちょっとまずいんじゃねーか」
代価は払うぞ代価は。借り作りたくねーし!
何がそんなに嫌なのか、聖王家という名前が出た時点で、すんごく苦い顔してフォルテが云った。握りこぶしにこもった力は、相当強そう。
「あ、それもいいけど」
そんなフォルテの力みなど知らぬとばかり、マグナが挙手。
「それより、俺、商店街のゴールドパスほしい!」
「うわっ、兄さんせこい」
ぽん、と手を打って云ったマグナに、すかさずトリスのツッコミが入る。だが、兄に堪えた様子はない。
「何云ってるんだトリス。ゴールドパスなら、半永久的に王都商店街の売り物が3割引なんだぞ?」
今。
ここで。
このチャンスに手に入れないで。
――いつ、これを、手に入れるんだよ!?
「……何であんなにリキ入れてんだあいつは」
さっきまで同じようにしてたはずのフォルテでさえ、呆気にとられてマグナを見た。
傭兵のくせに意外なところで物を知らないなあ、と、思ったかどうかは判らないが、トリスが振り返り、「あーそれはねー」と解説。
以下抜粋。
要するに、ここまでマグナが力説するだけあって、おいそれと手に入らない特権、それがゴールドパス。
たまーに確率0.01%くらいの福引特賞だったりするが、通常は、なんやかやと死ヌほど複雑な条件やら会費やら必要な、特権階級のみのアイテムという感がある一品だ。
当然、ほとんどその日暮らしのたちが、お目にかかれる代物ではない。
王都在住だった数名はともかく、がその存在を知ったのだって、いつだったか買出しの途中、どこぞの店頭に貼ってあったチラシを見てのことである。たしかマグナとトリスと同行してて、そのとき説明してもらった。
で、いつか欲しいなー、と、話した記憶もたしかにある。
だが、まさか本当にこの目で見れる日がくるとは。
そんな、私見混じりまくりの解説終了後。
ちょっと、いや、かなり期待を込めた一同のまなざしが、先輩ふたりにそそがれた。
「……じゃあ……それでいいなら、手配しておこうか」
視線に気圧されたか、それとも別の意味でか、遠い目になりつつギブソンが云った。
この後、世俗にかかわろうとはしない蒼の派閥の召喚師が数名、商店街にてゴールドパスの発行を受けている珍しい光景が、一度だけ見られることになる。
それを見た人々が、彼らも人間なんだなあ、と、ちょっとだけ親しみを持つことになったのを、たちは知ることはない。
物欲でずれた話を軌道修正すべく、ミモザが真顔になって、もう一度書面を指でつついた。
「えーと、つまりそういうことだから、黒騎士たちの当面の処遇なんかも、貴方たちの判断が優先されるってワケなのよ」
最初にずらしたのは彼女のような気もするが、とりあえずそれはおいといて。
あ、という顔になった者が数名。
ぽん、と手を打ったのがプラス数名。
よっしゃ! と云いつつ、ぐっと拳を握り締めたのが一名――云わずと知れた、黒騎士さんの養い子である。
書面を渡されたマグナとトリスを見て、が、そりゃあにこやかに微笑んだ。そのまま、じりじり、にじり寄る。
「まぐなっ」
「うんうん、判ってる判ってる」
「とりすっ」
「だからその笑顔やめてコワイから」
ぶんぶか頷くふたりに満足したは、そのままにこにこしながら後退し、席に着く。
それはやっぱり、常とは比較できぬほどに気を張り詰めていたんじゃないだろうか、と、今さらながらに思わせるほどの浮かれっぷりだった。
……そうだね。
なんとなく、彼らは、手近な誰かと顔を見合わせ破顔する。
生きている。
生きてさえいればいい。
生きていてくれれば、いくらだって話す機会はつくれる。
生きていてくれれば、また手をとりあえるかもしれない。
何をするにしても、まずは、生きていてくれなきゃだめなのだから。
――とか思ってみたものの、が笑ってるのが単純に嬉しくて、マグナとトリスの場合は、にっこり笑いあってたのだけど。
「しかし……」
その横で、神妙な顔をしたネスティが、先輩ふたりに疑問を投げかけた。
「変な話ですが、どうしてそこまで、派閥が我々に高い評価を?」
駆け出しの召喚師かつクレスメントの末裔ふたりに、兄弟子とはいえライルの末裔。
あと、その他一般市民諸々に、トライドラの元騎士やら、あまつさえデグレアの元将軍やら現役軍人やら。
自分たちを振り返り、思わず沈黙してしまった一同だった。
ははは、と、苦笑だか乾いた笑いだかをもらしながら、ギブソンがそれに答える。
「それについては、直接総帥に尋ねてみるといいよ」
「え?」
「一度、みんなと逢っておきたいって総帥が仰っていたの」
なんでも、話したいことがあるんですって。
「……話?」
「蒼の派閥の総帥が?」
こんなバラエティに富んだ一行に、雲の上のお偉いさんが、何の話をしようってんだか。
またもいぶかしげな空気に包まれたなか、ネスティが小さく頷く。
「まあ、なんにせよこれだけの援助をしてもらうんだ。挨拶ぐらいはしないと、無礼だろうな」
「うーん、そうですよね。一度みんなで行ってみませんか?」
ってネスティさんアメルさん。
真面目にやりとりしてるふたりを横目で見、は、心中こっそり突っ込んだ。
援助って、今のトコロ、商店街のゴールドパスなんですが。
ゴールドパスのお礼に蒼の派閥に出向くんですか、あたしら。
「……」
ほら、パッフェルさんだって呆れて黙り込んでるじゃないか。
はそう思ったのだけれど、彼女の沈黙は別の理由だったことを知るのは、もう少し先のことである。