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第50夜 壱
lll 夜が明けて lll




 夜明けも間近な時間、庭に下りてくるみっつの足音がした。
 それに反応したレオルドが、それまで休眠状態にしていた自己機能を起動させる。
「アイツはどーした?」
 レオルドの双眸が光を持つと同時、バルレルが真っ先にそう云った。
「自室ニ戻ラレマシタガ……」
「あ、そうだったんですか」
 まさか、が庭で一晩明かすと思っていたんだろうか。でっかい毛布を抱えたレシィが、ほっとした顔になる。
 というか、だ。すでに山の端が白み始めている今、そんなもの持ってきても、手遅れのような気がするが。
「だから持ってこなくていいっつったんだよ。バーカ」
 バルレル自身がそう思っているのか、半眼で、そうレシィに云う。
 云われたレシィはへこむかと思いきや、意外にも、平然とバルレルを振り返って、
「でも、取り越し苦労で済んだんだから、それでいいと思いますよ?」
「……」
 こくん。ハサハも同意するように頷いたため、そこでバルレルの気も削がれたようだ。
 ケッ、とか云って、足元を軽く蹴り上げた。

 ――が、朝も早よから、唐突に庭にやってきた護衛獣たちの目的は、その会話とは別にあったらしい。

 辺りに人影がないことをたしかめて、3人はレオルドを促し、みんなで輪になってしゃがみこむ。
 内緒話の体勢である。
 傍から見たら、悪魔と獣人と妖狐と機械が身を寄せ合っている実にブレーメンな光景だが、幸いか生憎か、通りかかる者はいなかった。
 そうして、一行を見渡し口火を切ったのは、バルレル。
「いーかテメエら」
 どうせちったぁ知ってんのかもしんねーけど。
「今から云うこた、アイツが自分で情報解禁するまで、絶ッ対に他に――ていうかアイツにもアイツ以外に云うな」
「……おねえちゃんのこと……だよね?」
殿ノ……」
「勿論、誰にも云いませんっ」
 ハサハとレシィを庭まで引っ張ってきた張本人は、それぞれの応えを聞き、軽く頷いてからことばを続ける。
「まあ薄々――ってか、たしかテメエ、逢ったことあるんだっけか」
「……うん」
 こくり。問いに、ハサハが頷いた。
 変化と呼ばれる妖怪は、長い長い時間をかけて妖力をたくわえ、人化を行う。
 その寿命は人間よりは、天使やら悪魔やらと比較したほうが良いほどの場合もあったりするのだ。そうしてそれほどの年月を生きていれば、当然、様々なことに出会ってもいるわけで。
「そういえば、さん、狭間に飲み込まれかけてたボクを引っ張り出してくれましたね」
「私タチガ召喚サレタ、アノ夜デスネ」
「そゆこった」
 レシィとレオルドの会話に、ハサハ以上に長い時を生きる悪魔は頷いてみせた。
 それから、ちょっと何かを思いついた素振りをして、
「その前に。テメエら、アイツどう思う?」
 彼にしては珍しい、他愛ない問いかけ。ことば遊び。
 それに対し、3人はいっせいに、まとう空気をほころばせた。
「おにいちゃんといっしょ……あたたかくて、だいすき……」
「すごくすごーく大好きです。ご主人様と同じくらい」
「主殿同等ノ命令権ヲ設定シテイマスガ」
「あーそー」
 本人が聞いたら、絶対赤面ダッシュしそうだと思いつつ、遠い目になるバルレル。
 だけど自分だって似たようなモンだから、そんな彼らをけなしたりはしないけど。
 ……絶対、本人には云わないつもりだけど。
 じゃあ、まあ。
 各界からこの場に喚ばれそして集まった、この世界では召喚獣と呼ばれるある意味同類たちを見て、バルレルは思う。

 タネ明かし。しておくか。

 つくづく――昨日のアレは、相当やばい兆候だったから。
 ほっといたらきっと、入れ替わっていた。
 ハサハは殆ど気づいてるようだし、レシィもレオルドも、薄々と何かを思っているようだし。
 ……悪ィが(なんて全然思ってねぇけど)、

「共犯者になってもらうぜ」

 なんとも胡散臭い前置きののち、バルレルは、彼らを同じく胡散臭い企みに引きずり込むべく、話を始めたのである。


 悪ィが、なんて思わねえ。

 オレにだって、辿り着きたいし見てみたい未来があるんだよ。
 ……ちょっと胸クソ悪ィけど、それがオマエの望んでたコトなら、そうしてやるさ。
 アイツもきっと、そうだろうしな。

  なあ? ――


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