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第46夜 参
lll そこに満ちるにおい lll




 トントントン、と、壁を叩いて注意を促す音。
「レイム様……」
 ちょこんと顔を出したのは、それまで、部屋続きの隣で何かやっていた三人のうちのひとり――をここまで攫ってきた張本人でもあるビーニャ。
 引きちぎったペンダントを手にしたまま、レイムは、そちらを振り返る。
「ああ、準備が出来たのですね?」
「はい」
「ご苦労様です。それでは、実験を開始しましょうか」
 口調こそ平然と、まるで理科の実験とかカエルの解剖とか、そんな感じの気安さ。
 けれど、は知っている。
 向こうの部屋に何があるか。誰がいるか。
 知らないけれど。
 それらを利用して、このひとたちが何をしようとしているのか。
 予想はできる。
 禍々しい考えしか、浮かばないのが、とても、嫌だ。
 嫌悪感が、知らず、力をこめさせた。ギチ、と、の両手を壁に縫い付けている鎖が、きしむ。
ちゃん、あんまり無茶しないほうがいいわよ? 傷、ついちゃうじゃない」
 ちょっとこれから忙しいから、黙ってて。ネ?
「――……ッ!」
 近寄って、猿轡をかませ。そうして親切めかして告げる、ビーニャを、はただ睨みつけた。
 その向こう――眼前の彼女越し、
「大人しくしていてくださいね、さん」
 微笑んでそう告げるレイムのことばに、身体が大きく震えた。

 ――彼らの向こうにある部屋には、召喚師たちがいる。……ある。絶命した者、気絶した者、入り乱れて。
 口をふさがれたため、自然と呼吸のメインになる鼻孔を。さっきより強く、じっとりと――くすぐるのは、濃い、血のにおい。


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