トントントン、と、壁を叩いて注意を促す音。
「レイム様……」
ちょこんと顔を出したのは、それまで、部屋続きの隣で何かやっていた三人のうちのひとり――をここまで攫ってきた張本人でもあるビーニャ。
引きちぎったペンダントを手にしたまま、レイムは、そちらを振り返る。
「ああ、準備が出来たのですね?」
「はい」
「ご苦労様です。それでは、実験を開始しましょうか」
口調こそ平然と、まるで理科の実験とかカエルの解剖とか、そんな感じの気安さ。
けれど、は知っている。
向こうの部屋に何があるか。誰がいるか。
知らないけれど。
それらを利用して、このひとたちが何をしようとしているのか。
予想はできる。
禍々しい考えしか、浮かばないのが、とても、嫌だ。
嫌悪感が、知らず、力をこめさせた。ギチ、と、の両手を壁に縫い付けている鎖が、きしむ。
「ちゃん、あんまり無茶しないほうがいいわよ? 傷、ついちゃうじゃない」
ちょっとこれから忙しいから、黙ってて。ネ?
「――……ッ!」
近寄って、猿轡をかませ。そうして親切めかして告げる、ビーニャを、はただ睨みつけた。
その向こう――眼前の彼女越し、
「大人しくしていてくださいね、さん」
微笑んでそう告げるレイムのことばに、身体が大きく震えた。
――彼らの向こうにある部屋には、召喚師たちがいる。……ある。絶命した者、気絶した者、入り乱れて。
口をふさがれたため、自然と呼吸のメインになる鼻孔を。さっきより強く、じっとりと――くすぐるのは、濃い、血のにおい。