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第45夜 七
lll やってきた彼女 lll




 ふと寒気を覚えて目を覚ましたのは、まだ暗いうちのことだった。とはいえ、たぶん、もう少ししたら東の空が白むだろうくらいの時間。
 眠りが浅くなっていたせいか、身体にだるさは覚えない。意識はちょっとぼんやりだけど、このまま起きてしまっても、日中欠伸連発なんてことにはならないだろう。
 ふと、他の人たちが寝息を立てていることを確認して、闇と静寂に包まれた窓を見やった。
 薄い布のカーテンのみ閉められた先には、月明かりさえもなく――新月なのだから当然か。

 コツッ……

「?」

 ぼーっと、向けていた意識で、その音をとらえて。
 ごしごしと目をこすり、改めて、音のした方を見る。

 コツッ……コツッ……

 闇を縫い、飛来する物体が、カーテン越しに見えた。
 小さな黒い塊――小石? 木の実?

 コツッ……コツッ……

 風で飛んできたのかと、しばらく見ていたけれど、どうやら、人為的なもののようだった。かつ、ここの部屋の住人に用事らしい。
 間隔をおいて、規則的に、その石だか実だかは、は投げられているようだ。
「……誰……?」
 こんな夜中に何してるんだと思いながら、ベッドから滑り降りて窓辺に向かった。

 普段なら。もう少し頭がはっきりしていたなら。
 今自分の寝ていた部屋は2階であることや、仲間が用があるのなら扉からくればいいということに、思い至ったかもしれない。
 警戒できていたかもしれない。

 コツッ……コツッ……

 鳴りつづける音。

 カーテンを引きあけて、窓の鉤を外した。
 それから、寝てる人たち起こしてはまずいと、音を立てないようにゆっくりと押し開けて――そこには、

 手すりにゆらりと身を預け、少女の姿した闇がいた。

「コンバンワ、ちゃん」

「――ビーニャッ……」

 ぶわぁ、と、闇が広がって。
 発したことばごと、を包んで呑みこんだ。


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