――……ぱちくり。
そんな擬音がぴったりの表情で、ビーニャはレイムを見返した。
ふたりが向かい合う、ここは彼らの実験場。
長年使い古した器を捨て、新しい器を用立てるために、候補となりえた生贄たちを集めた一室。
――……ぱち、ぱち、と。
一度だけでは飽き足らず、ビーニャは、何度か目をしばたかせる。
「……レイム様」、
呆気にとられたその声は、まるでニンゲンみたいだと思った。
「……今、なんて……」
「おや、聞こえませんでしたか?」
そんなはずはなかろうとばかりに、ゆぅらりと微笑む主を見て、ビーニャの背に冷たい汗が伝う。
自分たちを従える、王たる風格は、間違いもなく目の前の、一見儚げな吟遊詩人からかもしだされている。
優美な曲線を描く指先を軽く顎に押し当て、主は、ゆるやかに微笑んだ。
「どうやら私たちは、思い違いをしていたようなのです」
考えてみれば、一度曲げられた輪廻の理が、今生に限って正常に働いたというのも、おかしな話ですし。
「ですからね、ビーニャ」
もはや遠慮は要りません。
ごくり、と、意図せず喉が鳴った。
「邪魔なものはもう、壊してしまいましょうか」
「――レイム、様」
どうして、アタシ、こんなにビックリしてるんだろう。
掠れた声で主の名を呼ぶビーニャを、眼前の彼が、どうとったのかは判らない。その指先は優しく冷たく、彼女の頬をなぞっていった。
「ただ壊すのが勿体無いというのであれば」、
寛容に、主は告げた。
「――あなたの新しい器にしても良いですよ」
「あ……アリガト、ございます……」
――ちがうの。レイム様。
ちがう。違っても、アタシたちは、あの子を。
思うそれは、強く。だが、告げれば不興を買うと判っているそれを、むざとことばにするなんて、とうとう、ビーニャは出来なかった。