さてはて、翌日。
今日もいい天気である。
すでにたち一行の専用訓練場と化している銀砂の浜には、いつも以上の人間が集っていた。
殆どは砂浜に散らばってるけれど、ひとりだけ、岩場に登っている人間がいる。
「注・目ー!」
と、その人間――マグナが叫んだ。
ビシィ! と、天を指差す指。
マイク代わりのつもりか、もう片方の手のひらを軽く握って口元に当てている。
「れっでぃーす、えーんどじぇんとるめんっ! お待たせしました! 只今より異種混合大訓練大会を始めます!」
雲ひとつない青空と、さんさんと照りつけるお日様の下、彼はそりゃあ元気良く叫び、宣言した。
うおおおぉぉ! と盛り上がるノリのいい人間数名、ぱちぱちぱち、と、とりあえず拍手してみせる人間数名、思わず明後日に視線をそらした人間数名。
ちなみにはというと、盛り上がった側の人間だった。
「……たしか、訓練だって聞いたんだけど」
「訓練『大会』だそうですよ、姉様」
「それはそうかもしれないけど……何か違うような……」
遠い目をしたなかのひとりのケイナが、ぽつりとつぶやいた。
隣に立っているカイナは、今の会話から推し測れるように、わりと楽しそうに手を叩いているのだけど。
「ケッケッケ……」彼女たちから少し離れた場所で響く、企み度満点の含み笑い。「ヤツはいねぇが、代わりにアニキに痛いメ見てもらうぜェ……」
さっそくターゲットを定めたらしいバルレル、実にご機嫌。
「主殿、本気デヤルノデスカ? 銃ダト風穴ガ――」
開ける気なのかレオルド。
ちなみに護衛獣のうち、レシィとハサハは欠番である。
ふたりとも争いは好きではないし、何よりお菓子大好きだ。本日はトリスたちと一緒にケーキを食しに行った模様。
……で、
「ふっふっふっふっふ、復活したさんと手合わせできる機会がこーんなに早く巡ってくるなんてっ! これも私の日頃の行いの賜物ですねっ!!」
そのケーキ屋の店員さんは、こちらに参加していたりする。バイトはいいのか。ていうか復活って何さ。不死鳥かあたしは。
「覚悟しろよバカ兄貴……!」
「それはこっちのセリフだ、愚弟」
赤青双子の火花はいつものこと。飽きない人たちだ。
で、その横では、アグラバインがなかなか面白い趣向じゃないか、と笑っているのだった。
さすが獅子将軍、豪快である。
わいわいと賑やかな銀砂の浜。
ちなみに周囲はきっちり魔力強化済みのロープで囲いがしてあり、金の派閥の議長のお墨付きで【立入禁止】処理。
今朝、街道の通行許可を貰いに向かったついでにその話をしたら、周りに被害が出ては大変だと即手配してくれたそうだ。
……どういう目で見られてるんだろうな、この一行。
別の意味で遠い目になりかけたの前で、マグナがもう一度、拳を天に突き上げる。
「んじゃ、ルールの説明をするぞ!」
「よっ、頑張れよ大将!」
「フォルテさま、じゃない、さん、大将はシオン殿では」
「……シャムロックの旦那、それは意味が違うんだよ」
ちなみにそのシャムロック、さすがに動きづらいと判断してか、いつもの鎧は着ていない。
フォルテから拝借したらしい、軽鎧姿である。当人、まるで裸でいるようだと慣れないみたいだったが。
騎士+刑事のなんだかほのぼのしたやりとりも垣間見れるなか、マグナはルールの説明に入る。
「ルールは簡単。とにかく戦う。戦って勝って最後に立ってた人間が勝ち!」
武器も召喚術も自由、何やってもよし。
ただし、街に被害が出るような大型召喚術を使ったら、即負け。
「あと、ネスとミニスとユエルに審判をしてもらいますが、3人に攻撃したら失格」
どう考えてもノリそうではないネスティはともかく、ミニスとユエルはさすがにその歳で参加させるのは厳しいだろうという理由からだ。
審判として、召喚術の判定をしてもらうことになっている。
発動前の魔力の動きで、どれほどの規模かは目安がつくから、大型召喚術だと判断した場合、未遂なら警告。3回で退場。
ユエルは流れ弾とかからの、ふたりの護衛役。
「立入禁止になってるこの区域から出ちゃっても負け。海に落ちても負け。戦って倒されるか敗北宣言したら負け」
ちなみにプラーマでも回復できないくらいの怪我すると明後日に響くんで、自己管理は怠らないように!
どういう基準だそれは。
そんなツッコミをさりげなく心の中で入れながら、は装備を確かめる。
以前は短剣だけだったが、シオンの勧めもあって、彼から使えそうなものを貰ったのだ。シノビの武器は所持者の動きを制限しないのが原則らしく、あんまり力のないでも扱えるレベルだし。
そうこうしつつ周りを見ると、なんだかんだでみんな楽しそう。
――実は、大事な旅立ち前に何やる気だ、不謹慎だ、という声も出たのだ。
ていうか出て当然。
だけど、そういうでっかいものが控えているからこそ、今のうちにはっちゃけておこう! というようなコトを主にマグナとかとかフォルテが熱弁したおかげで、今回開催となったのである。
結局みんな、お祭り好きだとゆーことなんだろう。いいなあこういうの。大好きだ。
「準備はいいかー!?」
『いいぞー!』
マグナの声に、ノリのいい何人かが返す。
他の人々も、首を上下に振ってみせた。
そうして三度、マグナの手が高々と掲げられて。
「レディー……ゴー!」
――振り下ろされた瞬間、全員が地を蹴った。
ゼラムの支店とは聞いたが、なかなかどうして、こちらも本店に負けない品揃えと味だった。
丸いテーブルに輪になって座り、訓練大会に参加しなかったトリスたちはのんびりと、ケーキ溢れるティータイムを楽しんでいた。
その彼女たちの前には、色とりどりのケーキたち。種類も当然ばらばら。
飲物こそ各自の好みだが、どうやら全種頼んで、少しずつ食べ比べているらしい。
大人数だからこそ出来る芸当である。
「美味しい〜……今度あたしも作ってみようかな」
やっぱりどこまでもお芋さん好きなアメルは、スイートポテトをベースにしたケーキが気に入ったらしく、そんなことをつぶやいている。
「ふぁ、ほんほははひひもおひへへ?」
「ご主人様、お話するときは、ちゃんと飲み込んでからですよ〜」
はい、と飲物を差し出しながら、レシィ。
トリスは、きょとんとそれを見た。
どうしたんですか? と彼が首を傾げると、なんでもない、と笑ってそのまま流した。まさか、レシィから注意してもらったのが嬉しいなんて云えない。日頃ネスティに注意されまくってるのにそれ以上云われて嬉しいのか、と、あらぬ誤解を生みそうだ。
両手で受け取って、ほぼ満タンだったコップを、半分ほど空にする。
それから、ありがとうとレシィに告げて、アメルを振り返った。
「ねえアメル。今度、あたしにも作るの教えてくれない?」
「え? いいですけど……お菓子とか作ったコト、あります?」
「……ない」
経験ないと難しいかなあ、と、まなじりを下げて緊張しているトリスを見て、ルウがくすくす笑う。
「誰だって最初は初心者よ。ルウも料理作るの好きだけど、最初はよく失敗したもの」
「うーん、召喚術の勉強勉強ってばっかりで、お菓子とか作るコトなかったから。ほんと全然判らないんだよね」
見聞の旅に出て、初めて施設を出て、街を出て。
料理も野宿も戦闘も、なにもかもが、トリスにもマグナにも、初めてのことだった。
あまつさえ今度は、国境を越えてデグレアにまで向かおうとしているのだ。
「ルウも、こんなに森から離れてるのは初めてだしね」
「……あたしも、村を出たのはあのときが初めてだったんですよね」
3人が、思わず顔を見合わせる。
「……これは、いわゆる、アレね」
ぴ、と人差し指を立てて、ルウが真顔になった。
「きっかけがなきゃ、たぶん、その世界だけで満足して終わっちゃうのよ」
デグレアの民たちが、閉ざされた環境のなか、外界に興味を抱かないように。
その故に、どうだろうかと思うような風習もならわしも、違和感なく受け入れてしまうように。
「……」
こくん、と、ハサハが小さく頷いた。
彼女の傍に置かれた水晶が、ふわりと優しく輝いていたことには、誰も気づかずにいたけれど。
――輝きは、ひどく、優しく暖かく。
満ち満ちる、満月の光のように。
包み込む、優しい海のさざめきのように。
――いつかくる、未来を象徴するかのように。
とりあえず、現在、は優しいとかあたたかいとかとは、程遠い場所にいた。
汗だくになって砂浜を駆け回り、勝ち抜き戦などやっていたのだから、それは当然のこと。
心臓はいい加減負担かけまくりだし、久々に動かした身体はやはり少しなまっていたのか、どうも意図どおりに動いてくれなかったし。
すぐに慣らしたけど。
「あ〜……疲れた……」
あちこちクレーターの出来た砂浜に(原因はほとんど召喚術だ)大の字に寝転がって、はぼやく。
単語と単語の間に、ぜぇはぁと荒い息が入るが、それは全員同じようなものである。
頭上を撫でる潮風が汗をさらっていく。疲れた身体に染み渡る。
……気持ちいい。
「……やりすぎです」
そのの手をとって、アメルがちょっと怒った顔で云った。
ちょっと離れたところで、トリスがマグナに同じようなコトを云っている。
ルウがなにやらぶつぶつ云いながら、プラーマを喚んでいる光景も見える。
治療役、というと聞こえが悪いが、彼女たちに、ケーキパーティの帰りにこっちに寄ってくれるよう、お願いしていたのだ。なんと云っても、治癒系である霊属性の召喚術を使える一同が、軒並みケーキパーティに行ってたし。
いや、こっちの祭りに参加した人も使えることは使えるんだけど、肝心の効果が今ひとつ。
バルレルなんか、マグナと命のやりとりをしたせいか、魔力は現在完全枯渇中らしい。
「そう?」
「そうです! もう、お嫁入り前の女の子なのに……」
「……あはは、ちょっと痛いなって思ってた」
どれだけ怪我しているのか見たくはないが、外傷は大したことではないだろう。
刃のある武器は、みんな、鞘におさめたままだったし、斧や槍なんかは腹で殴るように使っていたみたいだし。
だから、どっちかというと、傷というより打撲系。
……痣はともかく、骨折までは逝ってないと思う。思いたい。
「あ、ほら、でも」
「言い訳なら聞きません」
もう少し身体を大事にしてください。
そう心配してくれるアメルを、本当に、嬉しく思ったけど。
「でもねー……気持ちよかったよ」
結局、最後まで云いきった。
久々に、躊躇いもなしに身体を動かせた。
先日の黒の旅団との戦いで自失していたせいか、身体にも心にも、未消化な部分があったのかもしれない。
もしかして、それを見越して訓練大会なんか提案してくれたのかと、ちょっと都合よく考えてみたり。
「戦うってコト自体、なんだか怖くなってた気がするから……」
まあさすがに訓練だから、手加減とかして、刃は使わずに、だけど。
だけどこんなふうに、思いっきり身体を動かすことの気持ちよささえ、忘れてしまっていたんだと。今なら、この数日を振り返って、そう思える。
「……気持ちは判るけど……」
、自分が女の子だってちゃんと自覚してますか?
記憶が戻ってからこっち、ますます頓着しなくなってません?
「……」
イイ笑顔のまま、固まる。
ため息交じりにアメルが問うたそれには、どう答えていいものか本気で困ってしまった。
養い親である彼らがああいう職業だったから、傍にいようとするなら必然的にそういう育ち方をせざるを得なくて――いや、そう在ろうと望んで。むしろあの人たちの方こそ、それを良しとしていなかったようだが、自身がそれをしようと決めたのだから、最後には好きにさせてくれた。
だから、は小さく笑う。
「あたしはたぶん、こういう性格なんだよ。戦うの、きっと好きなんだと思う」
どっちかというと、策を弄する戦いじゃなくて、真っ向からぶつかる類の方が好みですが。
「……って、騎士さまみたいね」
「どこが!?」
疲労しきっていたはずの身体でもって、は思いっきり飛び起きた。アメルのおかげで身体に走っていた鈍痛は消えているが、減った体力はどうしようもない。
それを押して行動に移らせた、聖女の爆弾発言おそるべし。
で、そのやりとりに反応したのが数名いたりする。
「おー、そしたら、おまえゼラムの騎士になるってのはどうだ?」
こちらも早々と治療してもらったらしいフォルテが、にんまり笑って呼びかけた。
「給料いいぜー。お堅い奴らの相手しなくちゃいかんのが難だが、女性の騎士なら見栄えもオッケーだし話題になるぞー」
「なんなくていいっす」
そもそも戦闘訓練こそ積んでますが、あたしの本分はもともと偵察兵なんだってばさ。なんか最近、前線出てばっかだけど。
「なあシャムロック。ならきっと、いい騎士になるよな」
「そうですね」
「シャムロックさんまで同意しないでください」
ていうか、反論をきれいに流すな。
飛び起きた分、よけいに疲れた身体をひきずって移動し、ぺしぺしとふたりの頭を叩く。
元気だねえあんたら、と、モーリンが笑った。
その彼女も、さっきあれだけ動き回っていたにも関らず、バルレルにストラしてやってるんだから大したもんである。
「うー、でも真面目な話無理ですってば。あたし、もう、誰かに仕えるのはしばらく御免です」
「ルヴァイドは?」
「あの人たちは家族だから」
きっぱりはっきり云い切ると、まず、双子とアメルとアグラバインが顔を見合わせた。
それから、トリスとマグナとネスティと、護衛獣の子たち。
それから、全員が一斉に全員を見た。
家族という単語ひとつに、どれだけの意味がこめられているのか。
きっと、今交わしたそれぞれの視線が知っている。
血が繋がってなくても。
出逢うまでは全然違う道を歩いていても。
そうなるに足るだけの、気持ちを。
お互いがお互いに持っている。この場の全員、きっと。
一斉の動作。それをこそばゆく感じて、は思わずその場にぺたりと腰を下ろした。
フォルテとシャムロックを引っぱたきにきていたから、自然、彼らの傍に。
そしてふと、シャムロックがを見て苦笑する。
「仕える――か」
そのつぶやきを聞いて、はっとした。
仕えるべき国をなくしてしまった、それこそ本物の騎士を目の前に、なんという無神経なコトを云ったのかと。
だけど。
謝ろうとしたを先んじて制し、シャムロックは云う。
「たしかに騎士とは、国に、そして仕えるべき相手に仕えてこその存在……」
今の自分は本来、騎士としてあり得ざるものではない。
「シャムロック?」
怪訝な顔のフォルテを見て、それから、きょとんとこちらを見ているマグナとトリスを見て、彼はつづけた。
「自由な立場だから出来ること」デグレアへの潜入を提案した、彼らのことばだった。「……そう君たちが云った発想は、私には思いもつかないものだったんだ」
「自由すぎて奔放というより無茶な発案だとは思うが」
「ネス〜〜、せっかく誉めてもらってるのにさ」
いや誉めてるかどうか微妙だろう、と云いたげな表情になった数名がいるが、誰も口に出しては何も云わない。
気づいてないトリスが、苦笑して頭に手をやった。
「やろうとしてるコトが無茶ってのは、また別なんだろうけど……」
「ま、やらないよりはやってみた方がいいわよね」
うんうんと腕を組んで、ミニスが同意。
そうしてシャムロックの、どこか独白めいた告白はつづく。
「……その自由な立場というものになって。亡国の騎士となって、黒騎士の葛藤を見ることになって……騎士とは何なのだろうと、何のためにあるべきものなのだろうと」
そう考えるようになって。
ふととフォルテの会話を聞いて、それが口をついて出てしまったのだと、彼は云った。
「いや……さんざん動き回って、少し高揚してたのかもしれないな」
と照れたように笑って、シャムロックは話を締める。
「――判るような判らないような、だけど。騎士の立場とか、苦しいコトとか、いろいろとか」
そうしてしばらくの静寂のあと、ぽつり、は口を開いた。
「あたしの世界にはこんなことばがあったよ」
ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために ――それはひどく、簡単なことばだけど。
「王様とか騎士とか、そんなのがない世界から来たせいかもしれないけど、基本はこれじゃないかなあ……って思った。あたし」
騎士としての在り様も大切。
だけど、その前に人としての在り様が根底にあってこそ、初めて、立場や地位としてのやるべきこともくっついてくるんじゃないかと――
「個人で頑張るのが悪いってことはないよね、でも、誰かが居た方が楽なこととか、たしかにあるだろうし」
「おまえが云うな」
一生懸命に説明しようとしているの後ろに回りこんだリューグが、べしっと頭をはたく。
「なっ……何すんのよ!」
頭を押さえて振り返ったそこに、さらに追い打ち。
ビシィ、とデコピン。
いやいい音ですねえ、と、のほほんとしたシオンの感想まで聞こえた。
「なんでもかんでもひとりで抱え込んでひとりで解決してるおまえが云うな、っつったんだよ」
「な」
反論出来ねえだろう、と云いたげなリューグの表情に、当然立つのはむかっ腹。
「なによもう! 解決してるからいいじゃない!」
「それが、見ててイライラすんだよ!」
「じゃあ見てなきゃいいじゃない!」
「目に入るんだからしょうがねえだろ!」
「精神養えー!」
「一朝一夕で出来るか!!」
「……なんであのふたりが云い争うと、怒鳴りあいにしかならないんでしょうか……」
ロッカが、頭を抱えてつぶやいた。
が、そこは兄として、黙って見ているつもりはないらしい。
やはり疲れたままの身体(傷は治癒済み)をおして立ち上がると、そのままリューグの後ろにやってきて、足払い。
「うわ!?」
――当然、疲労でふらふらだったせいもあって、リューグはべしゃっと砂浜に撃沈した。
「うわ。」
それを見たがリューグと同じような発音をして、だけど含まれるのは驚きと呆れ。
けれどそれ以上に呆れを含んだロッカの視線に、う、とばかりに凍りつく。
けれども、次にこぼれてきたのは小さな苦笑。
リューグと同じような意見になるのがちょっと複雑ですが、と、前置いて、ロッカは云った。
「頑張るさんもかっこいいですけど、もう少し僕たちを頼ってくれてもいいですから」
ていうかむしろ頼ってください。
「いや、あの」、
頼ってるつもりなんですけど、と、反論しようとしたのが本当。
だけど、マグナとトリスの目が、先日ひとりでルヴァイドたちと禁忌の森に行こうとしたのをツッコんでいる。
あまつさえ、随分前に一人で突っ走ったときのコトさえ思い出す。
そうしてそれを知ってる仲間たちも、苦笑まじりにを見ていた。
さん、と、ロッカが呼びかける。
「貴女が僕たちを好きだと云ってくれるのと同じくらいに、僕たちは貴女を好きですよ」
傷ついてほしくないのも、目の前から消えて欲しくないのも、同じくらいに願ってるんですから。
「……」
さっき交わした視線の名残は、まだ、心に残っていた。
家族のように大切な人たち。
傷ついてほしくないし、危ない目にあってほしくないし、生きていて欲しい。しあわせでいてほしい。
自分がその痛みや危険を防げるのなら頑張ろうと思ったコトを、間違いとは思わない。
思わないけど。
自分のことで負担をかけたくないのなら、心配もさせちゃいけないんだと。
しあわせでいよう みんなで
それは、そんな簡単なコトなのだと。
だけど――ついつい突っ走りがちな自分の性格を、かなりの割合で把握しているから、こそ。
どうしても、
「……善処します」
「どこかの政治家かおまえは!!」
素直に頷けず、そんな風に答えたら、やっぱりリューグにどつかれた。